AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と制御修行 中篇



 再び、爆撃音が鳴り響き始めた。
 闘技場全体、至る所で反響するそれは、一定の法則性を以って作動している。


「ふはははっ! さぁ、愚かな人類よ! 足掻き、喚き、抗うが良い!」

 ボムッ

「……あの、どうして俺も?」

 ボムッ ボボボボボムッ

「ちょ、連続はひどいから!」


 せっかくの悪役っぽいセリフなのに、アルカが横槍を入れてくる……文字通り、槍型の魔法を放ってくるんだよ。
 結界を張るのも良いが、今回は右手で殴りつけて破壊していく。


「うるさい。クラーレちゃんの集中を削ぐから邪魔しないでちょうだい」

「あ、はい」

「というか、パクリ? ただ魔力を籠めて殴りつけてるだけじゃない」

「い、いいんだよ、別に」


 小刻みに拳を振るい、瞬時に見抜いた魔法の核となる部分へ当てていく。
 それだけで魔法は形を維持できなくなり、大気に魔力として放出される。


「さっ、魔力を感じて。ちょうどあそこで変なことをやっている奴の魔力の流れ、あれを参考にする……のは癪だけど、感じてみて。言動は変だけど、操作は優秀よ」

「は、はい!」

「ふふっ、そう緊張しないで。肩の力を抜いてリラックスよ」


 しなだれかかるように、背後からクラーレに近づき耳元で囁くアルカ。
 色んな意味でカナタとコアみたいな雰囲気が漂っているんだが……もともとユウとの関係もアレだったし、そういう気もあるのかもしれないな。

 ボボボボボボボボボボボボッ!

「……変な邪念を感じたわね。練習ついでにその魔力操作、もっとやりなさい」

「サー、イエッサー!」


 おいおい、捌き切れなかったらほぼ死ぬような一撃を連射するんじゃないよ。
 さすがに“不可視の手ハンド・オブ・ジュピター”の世話になることは避けられたが、両手を使わないと防ぎ切れなかった。


「見なさい。アレを両手で止めたわよ」

「メル……スはいつもそうですよ」

「そうなの?」

「はい、この前なんて──」


 止めて! 俺の恥ずかしい話を晒さないでお願い!
 そこの女、物凄く黒い笑みを浮かべてる!


「シガン、ヘルプミー! 私たちの思い出が晒されてるよー!」

「そんな余裕ないし、そもそも助けられると思う!? こっちだって手一杯よ!」


 クラーレを止めるよう、慌ててギルドリーダーに救援を求めたが……残念なことに、ギルド『月の乙女』の戦闘班は全員、必死に活動していました。

 ──アルカの思考(二割)で放たれた数々の魔法、それらに襲われているからだ。
 全方位から魔法の嵐が吹き荒れ、全員で協力してどうにかしようと足掻いている。

 ディオンが盾職として防ぎ、シガンが止めた斬撃や魔法で盾を作り、ノエルが予め危険そうな魔法を伝え、コパンがそれを破壊し、プーチが相殺を試みていた。


「……むしろ、それ以上の魔法に襲われているのに余裕そうなメルが不思議よ」

「そんなはずないじゃんか! 不味いって、これは殺されるよ!」

「余裕そ~、というか死ね~」

「訴えるからね!」


 どこに? というツッコミは無しだ。
 全偽善者デザート製作委員会辺りに話を着ければ、世界は平和になるだろう(錯乱)。

 アルカの思考を割合で表せば──クラーレ指導用に一割、その他『月の乙女』修行用に二割、非常用に二割、対俺用に五割が振られている。
 ひどくない? 俺、何もしてないよ。
 なのに魔法は次々と飛び交い、全力で俺を殺そうとしている。

 ……耐えてはいるが、正直疲れた。
 やる気ゲージはリープによって最低限まで低下することを免れているが、それでもなんだか心が疲弊していく。


「アルカ! もう飽きた!」

「ならさっさと死になさい! そして、いい加減認めなさい!」

「認める……何を?」


 うーん、女性という存在は複雑怪奇なり。
 ただ頭に疑問符を浮かべていると、少しずつアルカの顔は赤くなっていき──


「…………う、うっさい! いいから黙って死になさいよっ!!」

「理不尽すぎる!」


 思考の割合が変わった──九割で俺への魔法投射が行われ始める。
 普通のプレイヤーが相手なら、千を相手にしても勝てる気がするんだが……眷属にしてオリジナルの神器を覚醒させちゃったアルカが相手となるとなー。


「少しだけ使うか──“魔法の雨マジックレイン”!」


 雨粒一粒に魔力が一ずつ籠められた魔法。
 それをアルカが放った魔法の数を瞬時に計測し、まったく同じ数生みだして相殺する。


「ふははははっ! まだまだ甘いな、アルカよ! 倒したければこの倍……いや、乗倍は用意するんだな!」

「どうせ反射させるんでしょ!」

「いやいや、全部呑み込んで見せるさ。お前に初めて会ったときのように!」

「~~~~! 消え去れ!!」


 ありり? マジでやってるよ。

 どういった魔力の運用をしているかはまだ分からないが、これまでは針の糸を通すような狭い逃げ道があった──なのに、完全に塞がれて膨大な魔力を籠めた一撃たちが迫る。


「一片も残らす消えなさい!」

「……その孵化した卵が原因か。いつの間にかすっかりアルカに懐いちゃって。お父さんとしては、少し寂しい気分だな」


 呟きながら、ギアを上げて魔法を捌く。
 思考速度を上げ、並速させた思考詠唱に過剰な量の魔力を籠めて放つ。


「…………ふぅ。ほら、アルカは精密制御の技術を教えてあげて。ますたーが動きを止めちゃってるよ」

「……ああ、ごめんなさいね。少し気が逸れちゃったわ」


 少しなんですか!? と変なツッコミを入れるクラーレを視界の端に入れ、疲れた脳を癒すために甘い物を食べ始める俺であった。



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