AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と経験値ボーナス



 彼らは結局、人間らしい言語を出すこともなく消滅していった。
 :言之葉:を使ってスタンバイしていたんだが……食欲に関する単語しか、終ぞ言ってなかったんだよ。

 討伐されるのも仕方がない、そう目を背けてクラーレたちのために誘き寄せ続ける。


「もういっちょ行くよー!」

「まだいるんですか?」

「あと……三十匹ぐらいかな? 周辺の海域からアレを駆逐するなら、ますたーたちがスパパッとやっつけちゃった方がいいよ」

「駆逐する気はなかったんですけど……またリポップしますよね?」

「そりゃあもちろん。あくまでこの時間だけの話だよー。殲滅ボーナスってたしか存在してなかったっけ?」

「……『殲滅者』の称号は、ソロの方にしか与えられませんよ」


 え゛、あれソロ専用だったの!?
 貰えるスキルがレアだったし、まあ納得と言えば納得なんだが……。単独で殲滅する必要があったのかー。


「殲滅ボーナスね……そういえばそんなものがあるって噂があった気がするわ」

「そうなんですか、シガン?」

「検証班の努力の賜物よ。何度も色んなやり方でさまざまな魔物を狩り尽くして、経験値がどれくらい貰えるか調べたらしいの。ちょうどそれに、必要なスキルが発現したとか記載されていたけど」

「それで、殲滅ボーナスが有ったと……」

「フィールド上の魔物を一気に狩り尽くしたとき、心なしかいつもより経験値が多く手に入ったらしいのよ。他にも気づかれない状態で攻撃した際の暗殺ボーナス、相手の弱点を突いて倒した急所ボーナスもあるらしいわ」


 へー、知らなかったなそんな概念。
 とにかく倒せば{感情}様が経験値を異常な量に変換してくれる俺にとって、そういう細かいことは考えなくてもよかったし。

 暗殺者なんてボーナス貰いまくりだな。
 隠れて人の首でも狩れば、ガッポガッポの大儲けじゃないか……あ、だからこそPKがいるのか。

 そうこうしていると、ノエルの索敵範囲に牽引してきた魔半魚人が侵入する。
 すぐに存在がバレると、シガンの指示の元殲滅戦が開始された。


「さてさて、漂流物回収は上手くいっているのかな?」


 手持無沙汰なので、神眼でゴミ拾い中のプレイヤーたちの様子を窺う。

 せっせと流れ着いたアイテムをインベントリの中へ収納しては、また別のアイテムを探しに行く。
 無機物感知系のスキルを持つ者は、迷うことない動きでポイポイと仕舞っているな。


「あーあ、揉めちゃってるよ。みんな金が無いのに海外なんて高望みするからこうなるのにね。金が無いなら諦める、それかなくてもどうにかなる別の方法を探せばいいのに」


 それかいくつかのパーティーで協力して合同で船を買うとか……たぶん、もともとはそういう仕組みなんだろうし。
 個人個人が大航海時代を始めるのではなくて、手と手を取り合って力を合わせて大海原へ出ることが望まれているのだろう。

 たとえ海賊プレイに走ったとしても、それの方が一度の殲滅で済むからな。


「でも船か……みんなが遠出をしたいと言ったときには俺も手伝うべきなのか? それをやらないために弟子的な存在を用意したというのに。造船技術は教えてないんだが……そもそも、彼女たちにできるのか?」


 根本的な問題だった。
 いくらスキルが有っても、知識が無ければ完成しない。
 俺のようになんとなく作成方法が分かるならともかく、普通の学生が造船技術を学べているというのはかなりレアケースではないだろうか。
 ……そのうち、教材を置いておこう。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 サルワス


 無事依頼を完遂した彼女たちには、かなりの額の報酬が与えられたらしい。
 そりゃあ殲滅なんてことをしていれば、結構な額になりますよね。


「メルはどれがいいと思いますか?」

「本音を言えばそれ全部よりも、私が作った物の方が品質いいよね」

「……それもそうですけど。メルがいると自給自作という概念が崩壊しそうです」


 現在『月の乙女』は買い物中。
 俺を連れたクラーレもまた、町の至る所を巡っている。
 ただ、品質がな……どうにも納得のいく物がないんだよ。


「それに、私じゃなくてもあの娘たちでもこれ以上の品質で作れるよ。少なくともB以上のアイテムだけだね」

「『生産を極めし者』……恐ろしい効果ですね。初めて作る物であっとしても必ずBを超えるんですから」

「そういえばそうだよねー。最近はSか測定不能しか見てないから忘れてたよ」

「……一番恐ろしいのはメルでした」


 まったく、ひどい言われようだ。
 ある程度生産に慣れたからこその結果なんだから、ある意味当然なんだぞ。

 それに、B以上が確定だとしても耐久度とかは技術相応の物になるんだから、使おうとしても使えない……なんてこともあるぞ。


「ますたーたちは船が欲しい?」

「そうですね……欲しいと言えば欲しいですけど、メルが用意したギルドハウスが飛べますから……」

「それもそうだねー。エリアボスとはしっかりと戦わないといけないけど、上から一方的な攻撃ができるからもほとんど勝ちが確定してるy──」

「やっぱり普通に船を買いましょう。なんだか罪悪感が湧いてきました」


 まあ、さすがに俺もこれは分かる──少しだけ、やりすぎちゃったなと。



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