AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と戦統軍師
夢現空間 修練場
「魔導解放──“再生せし闘争の追憶”」
魔力を呼び水に幻影は生みだされる。
いつかの時代に存在した、英雄の幻。
虚ろな定義の型に嵌め、無理矢理読み込んだ概念を押し込む。
『────』
「シンクロ率? 眷属たちを殺す気はまったくないけど、縁が深ければ深い程、再現率も高いのかもな」
今回求めた者──それは軍師。
強き者も弱き者も等しく盤上に並べ、圧倒的困難だろうと乗り越える。
職業の力でもスキルの力でもなく、自身の頭脳だけで国を導いた──王非ざる先導者。
「まあ、こっちの世界だと思考系のスキルぐらいは持っているんだけど……世界がその思考力を認めたって証だしな」
同時に、修練場に簡易的な改変を行う。
<常駐魔法>と<多重魔法>で魔物作成系の魔法を何重にも発動し、一定の枠内で魔物が行動するように縛りをかけてから生みだす。
「無為な殺しは嫌ですので……互いに、こちらの魔物たちを操って勝敗を決めましょう」
『────』
魔物を操る魔道具を渡し、軍師はその効果がいかがなものか調べる。
意思を伝える物なのだが、どうやらしっかりと機能を果たしているようだ。
棒状の魔道具を振るうと、魔物たちが動きだして敬礼を行う……なぜ敬礼?
「準備はできた、ということで?」
『──』
「では、念のためルールを。指揮者は戦闘行為を行ってはいけない、魔物を四方に囲んだ結界の外から出してはいけない。詳細は魔道具を握った際に伝わったと思いますので、省かせていただきます」
『──』
「では、始めましょう」
互いに魔道具に意思を籠め、魔物たちを動かしていく。
俺たちの意思に沿って、魔物たちは歩を進める。
同時に魔法を使える魔物は詠唱を始め、前に進んでいった魔物に補助魔法を付与を開始した。
ゆっくりと進みゆく魔物の内、俊敏力に長けた魔物たちが接近していく。
そして、両軍がぶつかり合う──
◆ □ ◆ □ ◆
四足歩行で進む魔物たちは、己の体を用いて衝突を繰り返す。
相手もまた、同じ四肢動物型の魔物。
スキルで身体の一部を強化しようとも、人としての知性を持たなければ地球の動物たちとほぼ変わらない。
ウサギは鋭い角でトラを貫き、トラを獰猛な牙でウマを噛み砕く。
ウマはネコやイヌを撥ね飛ばし、ネコやイヌはウサギに爪を立てていった。
少しすると、飛行型の魔物が戦線に空から現れる。
鋭い嘴を以って突貫を行い、風魔法を用いて相手を掻き乱していく。
高速での飛行が可能な小型の魔物は攪乱がメインに、大型の魔物は点ではなく面での攻撃を繰り返していった。
数十秒後、それ以外の魔物が追いつく。
デミゴブリンやスライム、アンデッドなどの雑多な種類の魔物たちである。
デミゴブリンたちは知恵を絞り、数の利を用いて確実に小型の魔物を倒していく。
スライムたちは軟体を使い、あえて食べられては内側から消化を行う。
アンデッドたちは不死性を有効に生かし、大型の魔物に挑み続けた。
『────』
軍師が棒を振るうと、状況は一転。
後方で詠唱を行っていた魔物たちが、いっせいに一つの魔法を発動する。
大規模な儀式魔法。
集団で意志を重ね、同様の術式を唱えることで独りでは決して扱えない事象改変を行うことが可能となる。
本来、魔物に人が抗うために生まれたその詠唱方法が、軍師の采配によって魔物でも行使できるようになった。
「ヤバいな。同じ手を使っても対策はされてるだろうし…………なら、こっちは」
自分の陣地で発動した強力な魔法を眺めながら、メルスは考える。
距離があったため後方に待機させていた魔物は生きているが、前線で戦っていた魔物たちはほぼ壊滅状態であった。
とっさに庇い合いや擦りつけを行わせたものの、相手の魔物はほとんど減っていない。
思考を何千にも並速させ、メルスもまた戦略を編みだしていく。
平凡な学生であったメルスに、本物の戦場など無縁。
しかし、かつて繰り広げられた戦争の数々は、舞台を盤上に変えて今も残っている。
「いや、チェスにも将棋にも後方から動かずに相手の駒だけ取るようなヤツはないだろ」
自身の軍に命じて、魔法を発動させる。
──それは、死霊操作系の憑依魔法。
戦場に蔓延る亡霊たちに肉体を奪わせ、相手の駒を使って攻め始めていく。
「浄化系のスキルがあればやばかったが、残念ながらそれだけは無いからな」
軍師も魔物を扱うのは初めてだ。
儀式魔法に浄化系の魔法があることは知っていようと、魔物たちがそれを唱えられないことは盲点だった。
「さぁ、死者たちよ──突撃だ!」
攻撃は最大の防御。
そう言わんばかりに、メルス軍の猛攻が軍師の魔物たちへ向かっていった。
◆ □ ◆ □ ◆
「チェックメイト、か」
すべての魔物が仕事を終え、魔力へと還元されていく。
そのエネルギーは結界内で循環し、最後には俺の元へ還ってくる。
「というか、今回も思考の縛りをある程度外してなかったらヤバかっただろう。クーが居ればもっと早く決着もついてただろうけど」
黒の魔本を閉じ、修練場から出た。
今回刻まれた魔方陣、そこにはこう記されている。
──戦統軍師『ローイス』と。
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