AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と再訓練
夢現空間 修練場
結局、転移門は開こうとしても開けることができなかった。
解放に必要な人材のデータが足りず、偽装に失敗したからだ。
紀行の際に会った少女──ナーラが聖女候補であったため、聖女に関する封印術式だけは外せた。
だが、それ以上は何もできず。
AFOの勇者や魔王に関するデータは使いものにならなかった。
「そろそろキャンペーンも終了の時期になるのかー。飽きてきたし」
掌で七色の球体を弄び、遠くで行われる激しい戦いを観察する。
互いに武を競い合い、教え合うことで着々と強くなっていく。
そのうち徒党を組まずとも、俺をフルボッコにできるようになるだろう。
「そう考えると、もう少し力を蓄えた方が良いと思えてくるよな」
俺の体自体は万能タイプだが、俺という人間自体はそうではない。
基本【怠惰】なので、そういった意味では召喚士が向いている……殴りサモナーさんはちょっと難しいけど。
暇なので両手を前に突き出し、二つのスキルを発動する。
「(聖龍炎)、(聖龍雷)……凄いな」
ブリッドと契約後、それまでの戦闘記録を洗っているとこの二つを手に入れた。
(聖龍炎)は前方に聖属性の炎を吹きかけるスキルで、(聖龍雷)は指定した場所一帯に聖属性の雷を降り注ぐスキルだ。
魔法でも再現可能だが、スキルとして手に入れた方が改造のし甲斐がある。
すでにこの二つは統合され、(聖龍雷炎)として扱うこともできる。
……こういう統合を迷うことなくできるのも、すべて:開放:先生のお蔭でございます。
「しかし、どうして聖炎龍なのに雷属性だったんだろうか。過去の奴の話だが、微妙に気になるな。これもいつか調べるか」
赤色の世界のどこかに、聖炎龍に関する資料が存在するだろう。
それを読み漁れば、どの代の聖炎龍が雷を扱っていたかも分かるかもしれない。
絶対に知りたいわけでもないし、能力自体はブリッドも使えるしな。
「けど、合成していくたびに名前が増えていくのかな……。(聖龍雷炎月火水木金土日)とか……って、ただの曜日だった」
最初に会ったのが、聖月龍とかじゃなくて良かった気がする。
技の別名が聖なる龍の一週間とか、そんなネーミングセンスの欠片もないようなものに変化するところだったよ。
ところ変わって状況は戦闘風景の観察。
眷属たちの動きを視て、その情報をできるだけ体にフィードバックしていく。
良いと思った動きは、(反射眼)による自動防衛として動きを刷り込む。
武器ごとにそれを設定し、頭の中で襲撃された際のシミュレーションからそれが上手くいくかを念入りに確認する。
頭脳をフル回転させ、収集したデータから読み込んだ対戦者と仮想模擬戦闘を行わせていく。
……有象無象のプレイヤーや、最近闘った大悪魔ぐらいならば対応できているが、眷属相手になると失敗することが多いな。
一部の奴には通用するんだが、そういう奴にも二度目からは通用していない。
またそれが何故失敗したか、どうして対応されたかを調べ、再び自己に反映させる。
「…………まあ、これぐらいか」
ちなみにだが、先ほどまで行っていたのはいわゆる「残像だ」である。
気と魔力で作った分身を用意し、相手がそれに攻撃をしている間にそのセリフを言ってから倒す。
シミュレーションの際は、一々セリフを言うからバレていた気もするが、それを言ってはお約束ではなくなってしまうので、どうにか貫いていきたい。
「さて次は……っと、どうした? フーラもフーリも」
「あ、あの! 模擬戦をしていただけませんか?」
「……勝負」
「まあ、暇だから構わないが……全力全開の状態で挑めばいいのか?」
「そ、それは……ちょっと、またの機会にお願いします」
「……絶対無理」
今のフーラとフーリが力を合わせれば、封印を解除した俺が相手でも、少しはイケると思うんだけどな。
実際、さっきまで生物最強のソウと闘えていたし……どうにかなるだろ。
「それじゃあ縛りはどうする? 攻撃禁止っていうなら、カウンターだけにするけど」
「今は何で縛っているんですか?」
「召喚系だな、戦いに応じて召喚する種類も縛ってる」
「……なら、それで」
「オッケー、了解した」
黒と白の魔本を同時に展開し、構える。
「眷属が相手なら、俺も召喚士として全力で行かせてもらう。二人の【英雄】と全眷属、はたしてどっちが強いかな?」
「ふ、フーリ、もうこれって……」
「……鬼畜」
「さぁ、始めようか!」
独りで盛り上がり、まずは黒の魔本から召喚獣を呼び出す。
現れるのは、王や帝を冠する魔物たち。
ノーライフキングやカイザークロウ、エンペラーオークなどがいっせいにフーラとフーリの元へ、それぞれの方法で攻撃を行う。
しかし、全てが姉妹の振るう双槍と双銃によって阻まれる。
二人のメインウェポンは定まり、どちらも二本の武器を扱う戦闘スタイルに収まった。
双槍──剣&槍と双銃──剣&銃。
どちらの戦い方でも一定水準を超えた二人は、召喚獣たちを高速で倒していった。
「ならば、こちらも全力でいかせてもらおうか──痛っ」
「……大人げないわね。見ていたけど、それはさすがに看過できないわ」
「なぜだ……俺はただ、頼れる眷属を召喚しようと──」
「ありがとう。けど、それとこれとは話が別よ。お仕置きが必要かしら」
開かれた白い魔本には、『ティル』と記されている。
だが魔方陣を起動する前にティルはこの場に現れ、俺の頭を剣の側面で叩いた。
「え゛? ちょ、ちょっと今は決闘中だからさ……ほ、ほら! あっちで召喚獣たちもスタンバって──」
「……これで、もう終わりよ」
「は、はい」
このあと俺はお説教を受け、フーラとフーリの勝利という形で終了となる。
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