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山田 武

偽善者と聖雷炎龍



「……怪獣大決戦だな」

《あ、お帰り》

「おう、ただいまだ」


 精神世界から戻ってきた俺が見たのは、とても凄惨な戦闘風景であった。

 炎に焼かれたアンデッドたちがズルズルと地を這うように動き、聖炎龍の肉体――以降龍形――に近づく。

 龍形はそれを聖属性の雷を放ち、一瞬で塵に変換していた。
 ……そういえば、聖属性と火属性の耐性しか与えてなかったな。


「ここの聖炎龍は雷属性のドラゴンだったのか。炎と雷のドラゴン……お伽噺だな」

《英語に変換だね》


 そこ、竜殺しとか星座をイメージさせないでください。


「……召喚──アンデッドポープ。聖属性耐性を俺の代わりにやっておいてくれ」

『お任せあれ』


 教皇のアンデッドに指示をして、アンデッド全てに掛けていた魔法を代理で行わせる。

 だが、まだそれでは聖属性にしか耐性を与えられない。


「召喚──ポルターガイスト。お前は火属性と雷属性の耐性を頼む」


 現れた霊体に告げると、ウキウキと踊りながら指示通りに動く。

 複数のことを頼んだのは初めてだったが、もともとポルターガイストっていろいろと同時に怪奇現象を起こしてたのを思いだし、勝手に納得する。

 実際、龍形と戦うアンデッドたちに耐性が付与されているのなら問題ないし。


《準備もできたようだね。それじゃあ、クーは補助に入るから。何かあったら念話で連絡してね》

「あいよ、頼んだぞ」


 クーがスキルを行使し、俺の思考を極限まで高める。

 そのすべてを主意識以外へと回し、バックアップ機能を補助させておく。


「自動召喚──アンデッドドウルフ」


 一定時間ごとに召喚できるよう設定し、大量の狼を呼んでいく。
 肉体へ喰らいつくように指示し、俺もまた移動を始める。


「自動召喚──リビングランスウェポン」


 また、槍へ憑りついた悪霊を召喚し、とある魔法と武技を発動する。


「“怨呪拘束バインドカース”、“紅閃投槍コウセントウソウ”」


 命中した対象を縛りつける効果を付与し、特製の血を籠めて勢いよく投げつける。

 あるか分からない本能でそれを察知したのか、若干弱った体でそれを避けようとする。
 が、リビングウェポンは自我を持つ武器。

 ある程度自由に行動可能できるので、龍形目がけて飛んでいく。


「────!」


 聖属性の付与でも行ったのか、悲鳴として上げられた咆哮によってアンデッドがいっせいに吹き飛ばされる。

 神眼が使えないので確証はないが、オーラのような物が膨れ上がって気がした。

 たぶん龍気だろう。
 HPがヤバくなり、自動的に逆鱗モードに突入ってところだ。


「直接殴れば、もうクリアな気がするんだがなー。召喚──タナトス」


 さらに言えば、(調教)を使って動きを止めることもできる。
 だがそうして可能性を提示していれば、数が多すぎて結局悩む羽目になる。

 ならそんなことは考えず、当初の予定通りに進めた方が早い。

 アンデッドや悪霊ではないが、死に関係するということでタナトスにご登場願う。


「ダンジョンの意思とあそこの聖炎龍との繋がりを断て。それが終わったら、死の加護を周りに頼む」

『心得た』


 大鎌を構えたまま聖炎龍の元へ向かい、戦いに混ざっていく。

 その鎌が効果を発揮するのはあとになりそうだが、最後の足掻きを見せる龍形もゆっくりと弱っていく。

 ゆっくりと近づくタナトス。
 それに抗うだけの気力はもうない


『本来ならば魂まで刈り取るわけだが……仕方がない』


 プツン、という音と共に何かが途絶する。
 龍形の頭がガクッと頭を垂れ、暴れ狂っていたのに突然動きが止まる。


「……んー、まだみたいだな」

『では、加護を配ろうか』


 龍形が再起動している間に、タナトスは辺りのアンデッドへ自らの加護を配る。

 それにより、龍形の攻撃を受けて弱体化していたアンデッドが強化される。
 そして──動き出した龍形に攻撃を行っていく。


「やっぱり一度命じられたら、それを書き換えるまでは行動するみたいだな。別の方法は浮かばないし……召喚──ホーリーナイト」


 聖騎士風のアンデッドを召喚し、防壁を築き上げる。
 守るのは俺ではなく、別の者だ。


「召喚──アンデッドウィザード×10。儀式でもしてデカいのを放て」

『ハッ!』


 召喚した十人の魔法使いは、力を合わせて一つの魔法を詠唱していく。

 その魔力に気付いて龍形が息吹を放つが、全てホーリーナイトが構えた盾、それに付与された魔法の効果で無効化される。


『……■■■■──“霊殺呪印ネクロカース”!』


 彼らが放ったのは巨大な魔法の球。
 どす黒い色をしたそれには、膨大な数の呪いが籠められている。


「────!! …………」


 ダンジョンの与えた指令は、転移門を守ること。
 どれだけ状況が変わろうと、それが変わることはなかった。

 聖炎龍と融合しようと、それでも忠実に転移門を守ろうとしていた。


「ずっと転移門の前で戦えば、そりゃあいつか負けるさ」


 呪いの塊とも言える魔法をくらい、龍形の動きがついに完全に止まる。

 タナトスに確認してもらうが、心の臓まで止まっているとお墨付きを受けた。


「まずは綺麗にするか。アンデッドポープ、頼めるか?」

『一部は可能ですが、さすがに禁呪を解除するのは骨が要りますね』

「なら、仕方ないか」


 パラパラと白い魔本を捲り、今最も必要な人材を呼び出す。


「召喚──『ネロ』。そこで呪われてるドラゴンの呪いを全部外してくれ」

「ならば、そろそろ吾の願いを叶えろ」


 突然迫ってくる白髪の美女。
 その顔を片手で掴み、押さえつける。


「…………魔導の回復がまだだ。一月に一度だと言っただろう」

「ならば、次の機会には!」

「はいはい、分かったから。そこまで迫られて拒むほど荒んじゃいない。いずれな」


 返答すると、物凄い勢いで聖炎龍の肉体へ解呪の魔法を放つネロ。
 もともと奴は掛ける側だったのに、種族が【聖骨王】になったことで対極のことができるようになっていた。


「約束だからな! 絶対だz──」

「お疲れー」


 次に使う時、一体何人を相手にしないといけないんだか……。

 あくまで、夢の話だけどな!


 召喚した全てのものを収納し終え、残ったのは俺と動きを止めた聖炎龍の体だけ。
 手に持つのは黒い魔本、開いたページには未完成の魔方陣が記されている。


「これで終わりか。黒の魔本よ、の器を回収しろ」


 聖炎龍の肉体は、抗うこともなく粒子と化して魔本へと吸い込まれていく。

 それらは魔方陣の欠けた部分へと降り注いでいき──魔方陣が完成する。


「もう残った魔力が二割程なんだけどなー。召喚──『ブリッド』」


 魔方陣が輝き、目の前に一体のドラゴンが召喚される。

 相も変わらず鱗から聖なる炎が漏れだし、何やらバチバチと雷光も輝いている。


「おめでとう、苦難を乗り越えたお前は聖雷炎龍となった。聖炎龍としての仕事も終わって、晴れて自由の身でございます」

「……そうか、これはすべてお前の仕業か」

「違う違う、俺は召喚士。全ては俺の召喚獣たちがやったことだ。そして今度からは、お前も俺の手となり足となり、休む暇もなく働くことになるんだ」


 とりあえずそう言っておく。
 召喚士プレーをしない時はずっと暇になるため、魔方陣の先に用意した世界で待機となるんだがな。


「そうか……私は、お前に仕えるのか」

「まあ、そうとも言えるな。嫌か?」

「嫌ではない。……むしろ、これまでの仕事よりはやりがいを感じる」


 嘘は言ってなさそうだし、俺自身それを嘘とは思えなかった。

 これまでの諦念染みた声色は消え、何か目的を見つけた者の声をしていたから。


「それじゃあ改めて問おうか、俺の召喚獣になってくれるか? ブリッド」

「ああ、なろうではないか。私はお前の手となり足となり、ともに歩むことを誓おう!」


 ……なんか、恥ずかしくなってきた。
 そんな気持ちも聖炎龍……いや、ブリッドの様子を見れば消え失せる。

 やれやれ、ただの召喚獣探しがこんなことになるなんてな。



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