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山田 武

偽善者と神聖国の過去 その01



 召喚士プレイは思いの外上手くいった。

 天使と悪魔を従え、おまけにスライムを操り魔物たちを殲滅していく。
 抗える魔物などほとんどおらず、大抵の魔物は一瞬で原初の塵と化していく。

 この光景に付けられる台詞セリフは、やはりこれしかないだろう。

 今言わずして、いつ言うのだ!
 迷う心に喝を入れて、仰々しいポーズと共にそれを口にする。


「圧倒的じゃないか、我が軍は!」


 なにせ、強者を封印していた天使や高位の大悪魔をも使役しているのだからな。

 今は『サンゴ』と呼んでいる目の前で暴れるスライムも、昔はどこかの海で王的なポジションに就いていたらしい。

 ──この無双っぷり、本当に召喚士って楽な職業だ。

 まあ、弱っている召喚獣が居たら回復させる必要はあるけどな。
 それ以外は基本放置で勝てるんだから、本当に楽である。


「どうですかこの軍勢の力、間引きも物凄い速さで進んでいってますよ」

「お前は……異世界人、なのか?」

「説明していませんでしたっけ。私は、飛ばされて異世界にやってきた放浪者でもあるんですよ」

「やはりか」


 まあ、さすが聖炎龍とでも言おうか。
 契約線が繋がっているとはいえ、しっかりと答えに行きつくとは。

 眷属も頭が良過ぎてすぐにこういう伏線に気づくのだが、聖炎龍の場合はヒントが無駄に多かったからな。


「それより倒していきましょう。えっと……弱いのと強いの、どっちを残しますか? この先この門を使わせたいかどうかで、それを決めたいんですけど」

「……聖炎龍は、残しておいてくれ」

「分かりました。では、そのように」


 さすがに自分と同種の存在が、無慈悲な暴力に叩きのめされるのは見たくないか。

 魔本を介して召喚獣たちに連絡し、雑魚な魔物と聖炎龍を生かすように指示する。

 この際、大悪魔からクレームが来たが、もう一度お仕置きされたいか、と伝えると『うぐっ』と言って黙った。
 ……従えるのに、苦労したんだよ。

 ついでに魔本を開き、本を媒介にして強化魔法を全体に行き渡らせる。
 格段に動きが変わった天使と悪魔(+スライム)は、果敢に魔物を滅ぼしていく。

 これもまた、魔本チートの一つであった。


「しかし、結構強い魔物もいるんですね。炎の怪鳥に熔岩のゴーレム、火纏いの海辰に紅蓮の大樹。全部炎に関する魔物ですが、それでも強いことに変わりはありませんし」

「奴らは魔素の濃い部分に生息している固有種族だ。そう何匹も居られては、私が動く必要がある程強い。群れを成せば、私も苦戦しそうだが……お前たちには、関係がないことだな」


 魔素の多い場所に育ったものは、大抵が優れたものになる。

 人であれば魔を巧みに操る魔族。
 人以外の生き物であれば、同様の性能を有する魔物。
 無機物であれば、大量の魔素を内包したレア素材に。

 今回は二番目のケース、そんな場所に生まれ育ったが故に強くなった魔物たちである。
 ――絶賛ボコられ中だけどな。

 だからこそ、もう一度言おうではないか。


「圧倒的ではないか、我が軍は!」



 殲滅も終わり、残るのは子供が枝で突けば死ぬような魔物と聖炎龍のみ。
 だがその聖炎龍もまた、複雑な術式によって拘束されているため動くことはできない。


「……これで、終了ですね。皆さん、ご苦労様です」


 そう言って魔本を開くと、いっせいに召喚獣たちが魔本に吸い込まれていく。
 一部怨念の声を上げる悪魔もいたが、それはあとで懲罰すれば問題ない。


「これが異世界に繋がる門ですか。思っていたより大きいんですね」

「全ての種族が通れるよう、このような大きさとなっている。だが、通る種族によって開く大きさが異なる仕組みだ」

「龍の知識というのは、実にためになりますね。……開けられます?」

「無理だ。お前が言った通り、選ばれし者が居なければ開かない」


 その扉は、全体的に赤かった。
 枠の部分は炎でできているし、戸の部分に描かれた封印の魔方陣も炎のように揺らめいている。


「無理に開くのは……まあ、後にするとしてですが、真相とやらをそろそろ言いましょうか。そのために貴方は、わざわざノコノコと密室に来たんですし」

「その言い方、挑発しているのならば受け入れるぞ」

「ジョークですよ、ジョーク。これから始まる汚物たちの狂演を前に、少しでも和ませようという私からのサービスです」


 これから俺は、聖炎龍に映像を見せる。
 ただその映像がある意味R指定されそうな汚らしいものなので、場を和ます意味も籠めてジョークを言ったのだ。


「少し物語風にしておきますので、どうか静かにご鑑賞ください」


 魔法で光を操り、頭の中でイメージした映像をスクリーンとして映し出す。

 情報をそのまま頭の中へ与えても良かったが、それでも全てを受け入れなれなかった際に大変だろう、という偽善者なりの優しさにより映像となりました。


「これから始まるは、一つの国家が生まれ、現在に至るまでの物語。かつては崇高な使命とともにあった美しき国が、人の欲によって汚れ澱んでいく物語。幕開けは今、さぁすべてはこの場へと――」


 そして、映像が再生される。



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