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山田 武

偽善者とマグマゴーレム



 この場所はダンジョンだったみたいです。
 倒した魔物の体がそのまま残ることなく、魔核だけが残るからです。
 現れた魔物をメルちゃんが倒すと、何度も同じ結果が起きたので間違いありません。

 魔物の種類は少なく、ゴーレムやパペットなどの魔法人形と呼ばれるものが、主だってわたしたちに襲いかかってきます。


『――疾ッ!』


 メルちゃんは走り出すと二本の剣で舞い、そうして現れた魔物をバラバラに斬り刻んでいきました。
 どんなに軟らかい魔物でも、どんなに硬い魔物でも――全て鮮やかに斬っていきます。
 断面から崩れるように二つに分かれ、魔物たちは魔核を露出して消えました。

 ……しかし、最初に再会したときには血が付いていました。
 どこかにきっと、血を放つ魔物が居るのかもしれません。
 油断だけは、いけませんね。


「お疲れ様です、大丈夫ですか?」

『うん。あれぐらいだったら、百でも二百でもバッチ来いだよ!』


 メルちゃんはそう言ってくれていますが、少しずつ魔物が強くなっています。
 最初の頃は『マッドゴーレム』や『ウッドパペット』だった魔物も、今では『グランドスワンプゴーレム』や『ミスリルパペット』などという種に進化しています。
 他にも硬いゴーレムや軟らかいパペットなどもおり、それら全てをメルちゃんは戦闘を行っているのが現状です。

 ――今度こそ、今度こそ言いましょう。


「わ、わたしも……戦えないでしょうか?」

『ますたー?』

「メ、メルちゃんばかりに迷惑を掛けていては、いけないと思うんです。だ、だから今の内に……わ、わたしも戦えるようになりたいの!」


 い、言えましたよ! シガン、わたし言えました!
 幻想の中のシガンも、わたしの発言にグッとサムシングしてくれています。
 言葉に詰まりながらも、どうにか自分の思いの旨を打ち明けらることができました。


『…………そっか。分かったよ、ますたー。だけど、危なくなったらすぐに救出に向かうからね』

「はいっ!」


 また、これも過保護な救出なんでしょう。
 わたしが少しでも攻撃を掠ったら、そのまま相手を屠るような……少し嬉しいので、一度してもらったあとに、止めてもらうことにしましょう。



 本当にメルちゃんは、わたしの予想通りのことをやってくれました。
 わたしが『ゴールドパペット』の持つ槍で傷をつけられた途端、自分が戦っていた敵を一瞬で消し去って助けてくれました。
 その行動にとても嬉しくなって、ついつい言うのを忘れてしまいましたが、四回目にはしっかりと伝えましたよ。


『本当に、本当に、ほんっとーに、気をつけてね、ますたー。いつもみたいに、私が武器になった方が良いと思うんだけど……』

「いいえ、メルちゃん。わたしは自分の力だけで、強くなりたいんです。メルちゃんに頼るだけでなく、頼られるように」

『…………ますたー』


 流れというヤツでしょうか。
 一度蓋を外せば、本当に伝えたいことを伝えられています。
 危機的状況だからこそ、自身の本音が出るのかもしれません。
 メルちゃんの嬉しいけど、悲しいといった複雑そうな顔にも気づかずに、わたしは少し浮かれていました。


「てやーっ!」


 わたしの武器は、伸び縮みする……西遊記の孫悟空が持つような棒です。
 普段は短杖ワンドとして使っていますが、有事には長杖スタッフロッドとしても扱える代物です。
 振り払う瞬間に魔力を籠めて長くして、遠心力を使った一撃を『ロックゴーレム』に叩きつけます。

 衝撃音が鳴り響くと、『ロックゴーレム』は壁に埋もれていました。
 全身に罅が入っており、体内に埋め込まれた魔核も露出しています。


「これが、わたしの力……そんなわけありません。メルちゃん、こっそり掛けている全てのバフを解除してください」

『ますたー!?』

「自力でやらないと……やらなきゃ駄目なんです。お願いします、メルちゃん。わたしもメルちゃんと一緒に、肩を並べて戦えるようになりたいんです。そのための特訓だったんじゃないんですか?」

『うぅー。その武器は、武技を使っている最中でも伸ばせることを忘れないでね。オートにしていると失敗しやすいけど、マニュアルでやっていればしっかりと使えるから』

「分かってますよ、見ててください」


 わたしの武器は、メルちゃんのお手製なのです。
 なのでメルちゃんが一番この武器について詳しく、こうしたヒントも教えてくれます。

 その言葉をしっかりと噛み締め、目の前に現れた『マグマゴーレム』に棒を構えます。
 全身がマグマに包まれたゴーレムですが、表面にマグマのコーティングがされているだけで、水系統魔法を使えば一定時間弱体化するらしいです。

 しかし、わたしには回復系統の魔法以外は使えませんので、強烈な一撃で倒す以外の方法はありません。


「正面突破……行かせてもらいます!」


 振りかぶった手を降ろすマグマゴーレムを躱し、魔核を探します。
 マグマの熱が肌をジリジリと焼きますが、予め"リジェネレート"を使っているのですぐに癒えます。

 個体によって場所が違っていることが多いので、一撃で決めるためには場所を特定しておく必要があります。
 ゴーレムの体内で動く魔力の流れを調べ、流れの中心となっている部分を探すと――


「見つけた! ――"穿光突"!」


 探知した魔核に棒の先端を向けて、力強く押し出します。
 同時に魔力を籠めて長さを増やし、マグマの膜で火傷をしないように注意も払います。

 光速で突き刺さった棒は、見事マグマゴーレムの魔核に命中し……マグマゴーレムの動きは、停止しました。



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