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山田 武

偽善者と赤色の紀行 その08



 さて、どうしてこうなったかの説明が必要だろうか?

 それなりに柔らかい椅子に座り、ガラス越しに見える舞台を見る。
 そして俺の手の中で握られた、虹色に変化する輝きを魅せる硬貨。
 それを弄んで暇を潰す間、簡単に説明しようではないか。

 暇だからカジノに行く。
 目押しのスロットをやる。
 ジャックポットで大儲け。

 ……うん、単純に言えばこんな感じだ。
 念のために変装用の仮面を着け、遊びに向かえばそこは娯楽の賭博場。
 スロットやブラックジャック、ルーレットにポーカー等々盛り沢山であった。

 魔物の素材をチップに換えて、最初は楽しめるだけカジノを満喫していた。
 どれも客から金を巻き上げるための工夫が凝らされていたが、アリ先生とのゲームを行ってきた結果が功を奏した。
 目を付けられないように程々のチップを稼いでから、魔物の素材を取り戻してゲームに戻った。
 ……素材も実は複製品だったから、罪悪感も相まってすぐに回収したんだよ。

 いつの間にか【強欲】な心に火が点いて、一プレイの額が尋常ではない百面スロットに手を出していた。
 とある漫画で見たことのあるようなそのスロットは、その場所でも一番巨大に造られており、大きさは優に十メートルを超える代物であった。

 超高速で回転し、嫌がらせのように一面ごとのスピードを小刻みに変える仕掛けが施されていたが――神の眼を誤魔化すことはできない。
 未来視と過去視、それに見切りを同時にしながらボタンを押すと、横一列に全て同じ絵柄が並ぶ。
 そのカジノのメインシンボルが描かれた絵柄を並べて――あのシーンに戻るわけだ。


「……さて、これで金は用意できたな」


 調子に乗ったカジノの運営側が、ジャックポットを当てたら経営権を寄越すとか言っていたので、本当に奪ってみた(どんだけ当てさせる気が無かったんだろうか)。
 これも、【強欲】故にやってしまったことなのだろうか。
 別に後悔はしていないし、むしろ楽しめる場所を手に入れられたことを喜んでいる。
 いつかは施設ごと転移させ、子供たちでも楽しめるような場所にしたいとも考えた。
 キッズエリアやVIPエリア、あとは――金策エリアでも作ろうか。

 あのカジノでは、途中でコインを尽かせた奴は問答無用でどこかに連れてかれる(さすが裏の賭場である)。
 国民たちに酷いことをさせるわけにもいかないが、お金の大切さを知ってもらうことも必要になるだろう。

 ま、これは造ってから考えればいいことだよな。



 先程までは過去をプレイバックしていたけれども、そろそろ現在の説明だろうか。

 この地下の施設で行われるメインイベントであるオークション、その会場に用意された席の一つに座っているのが現状である。
 席は頼めば完全な個室が用意され、そこに置かれた魔道具で金額を提示できる。
 他の落札者の顔や様子を窺うことはできないが、実は競っていたのがめっちゃ偉い人でした……あ、死ぬ。なんて展開を防ぐためだそうだ。

 別に集団で部屋を取ることも可能で、そこでナニをしようとされようと分からない。
 ズブッと刺そうと刺されようと、全て本人の責任になるらしいので、警備の者を中に配置しておくのもいいだろう。
 俺はその点部屋中に結界を展開しているので、色んな意味で問題なしだ。


「しっかし、メインイベントがこれってのは王道だよな。何処の世界もレアな奴隷は一斉にオークションで売り捌くのがベストって考えなんだろうか。主人公でも居てくれれば、物凄く愉しくなるのにな」


 例えば、欲しい少女を手に入れるため、大量の金を積む主人公。
 例えば、オークションに勝てないと分かると、暴れ回って都合の良い結果を手に入れる主人公。
 例えば、自身が売られる身となっても、小さな復讐の炎を灯し諦めない主人公。

 どのような形であれ、物語の主人公たちは読者に面白さを提供し続けていた。
 何が起こるか分からないドラマ感、それが心に響くのだろうか。


 世界の中心となる主人公を見たことは無いが、きっとモブの知らない所で何か面白いことをしているのだろう。

 ――見たい、視たい、観たい。

 リアルではほぼ不可能でも、この世界でならばきっとその瞬間は訪れる。
 俺が最凶最悪の魔王プレイでもすれば、即座に勇者的なポジションに就いた主人公が派遣されるんじゃないか?
 だが、別に敵対して関わりたいわけでも無いので、前にやったようにじっくりと探しているのだ。

 主人公の定義が良く分からないが、少なくとも俺にその才能も権利も役目も無い。
 あくまで裏方がベストであり、役目があったとしても「ウギャァアアア!」と悲鳴を上げて逃げる一般人Dぐらいだろう。


 今この場に主人公が居たのなら、きっと俺の予想を超える行動で、その場に居る者も、居ない者ですらも驚かせてくれたのだろう。
 しかし、その種が芽生えそうな候補は視た感じ客には確認できず、オークションは本来の予定で開始するだろう。


「主人公が何もしないなら、偽善者が動いても構わないよな?」


 例えば、誰も望んでいない最悪の結果をこの場で知らしめ、この施設全てを乗っ取るとかな。

 (自分的に)昏い笑みを浮かべながら、そのときをゆっくりと待っていった。



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