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山田 武

偽善者と赤色の紀行 その06



 それからしばらく、あちこちを転々と巡っていった。
 この世界の地図は確保してあるので、座標指定で転移すれば移動は簡単だ。
 大国や小国、都市や村……様々な場所をフラフラと彷徨う。
 凶運のせいか強者には会えなかったが、情報自体は手に入れたし、教会に関する事柄も少しは掴めた。

 一方眷属たちもまた、時間をかけることでかなり冷静になったらしい。
 全員と連絡を取り合っても表面上・・・はしっかりと受け答えができていたので、必要な時は呼んでも構わないだろう。


「……ま、一日しか経って無いけどな」


 自分の時間と周囲の時間を少し弄り、超特急で情報収集を行っていた。
 理由など特に無い、ただやりたかったからやった……ただそれだけだ。

 この世界は魔物の名称以外、大体がAFOと同じ理を使っているのだろう。
 故に人々を鑑定することができたし、魔法や武技を使っていたのだろう。

 魔物だけは違っていたが、それはこの世界での共認識が違うからだと思われる。
 例えばある街で林檎がアップルとして売られている、それがその街で当たり前になっていたのなら――林檎はアップルとして鑑定には出る。
 例えばある村で林檎が■■■として収穫されている、それがその村で当たり前になっていたのなら――林檎は■■■として鑑定には出る。

 要は知名度だ。
 どれだけ知られているか、そしてそれが根深く残っているか……過去から繋がれた言の葉を受け継いでいった結果が名称である。


「当然、書き換えもできるけどな」


 世界に住まう者全ての思考を誘導し、林檎はアッポォ! と呼ぶようにすれば、すぐにではないものの、いつかは鑑定にもそれが表示されるだろう。
 ……いや、やらないけどな。


「さて、今日は何をやりますかね~」


 ドラ◯エでも、始めから転移呪文を使っていてはつまらないだろう。
 前回は情報収集が主であったためにそうした選択を取ったが、今の俺のテンションはそうしたことを望んでいない。
 堅実な一歩、いつかは何とかなるだろうという楽観的思考を抱き、今日もまたフラフラとどこかに向けて歩いていった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 いっそのこと、世界規模の戦争でも吹っ掛ければ良いんじゃないか?
 そうすれば強者は必ず俺を討伐するために来るだろうし、その時に来なくてもいつかは俺の元に来る。
 自身の殺すために現るってのはなんだか心にクるものがあるが、俺がスキルだけを求めてこの世界にやって来たのならばそれも妥当ではないか?
 ――とりあえず、選択肢の一つに入れておこうか。


「ならとりあえずの支度だけでも……ん? うわー、ベタやなー」


 戦争で使えそうな武器を確認しようとしていると、<八感知覚>に反応があった。

 何処かで誰かが助けを求める声がする。
 いかにも超人やアンパンが言いそうなセリフだが、実際にそうなのだから仕方がない。
 ここからそう遠くない場所で、魔物の群れに襲われている者たちが居るそうで……。


「偽善者的に行かなきゃ駄目なイベントなんだよなー(――(空歩)(縮地))」


 少し懐かしいスキルで空を駆け、一気にその場所へと急行した。


◆   □   ◆   □   ◆


 襲われていたのは商人だった。
 荷馬車いっぱいに荷物を積んでいたということもあり、魔物の追撃にあってピンチだったそうだ。
 護衛に就いていた冒険者らしき者は、全員魔物に殺されて死んでいた。
 ……まあ、仕方ないと言えば仕方がないんだが、自業自得とも言えるか?


『本当にありがとうございます。貴方様がいらっしゃらなければ、私もどうなっていたことやら』

「いえいえ、気にしないでください。ここで会ったのも何かの縁、一緒に同行させてください」

『なんとありがたいお言葉! 是非、よろしくお願いします』


 俺と商人は握手を交わし、契約を成した。
 俺は目的地に着くまでの商人の保護、商人は俺に便宜を図ること。
 何をしてくれるか、直接教えてくれなかったが、やけにニヤけた面をしていたよ。


 その後、魔物が襲いかかることはなく……ということこそがなく、何度も何度も魔物は商人の馬車に一直線で突っ込んで来た。

 さすがに竜クラスの魔物は来なかったものの、大量のゴブリンと狼っぽい魔物が一気に来た時は正直焦った。

 今の俺はAGI特化のステータスで、それ以外はからっきしである。
 掠っただけでダメージを負うという極限の状態で、磨いてきた技術を駆使して魔物へと挑んでいった。

 そして現在、俺たちはついに目的の場所に着いた……らしい。


「あの、ここは一体……」

『ノゾムさんには伝えていませんでしたね、私が行こうとしていた場所は、この先の地下にあるんですよ』

「なるほど」


 商人からは、積み荷をオークションで売るとだけ聞いていたが……まさかの地下オークションといういかにも怪しい展開になってきたな。
 何もないと思わえる場所で、商人が何やらブツブツと唱えて血を一滴流すと、何処からともなく地下への入り口が現れる。
 ……うん、幻術関係だったからとっくに見えてたんだけどな。

 商人は馬車を動かして昏い地下へと潜っていく。
 さて、この先には何があるのかな?



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