AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と赤色の紀行 その03
「……よし、これでとりあえずは大丈夫だろう。ただ、完全に止めると死ぬからな。進行速度を、この子が生きられる範囲内で遅めただけだぞ」
『それでも、ナーラが救える可能性が上がったんですよね? メルスさんには感謝してもしきれません』
さて、所は変わって少年が住む村。
家の中で寝込む子供を相手に、偽善を施すのは俺。
眼を使って診察し、可能な限り病原を駆除してから、肉体に(保存)を掛けた。
これで病原体が増殖するのは防げただろうし、少年が薬草を採って戻って薬を作るぐらいの時間は稼げる。
……え? お前ならすぐに治せるだろ?
うん、そりゃ当然できるぞ。
だが、それをやってどうするんだ。
少年が願ったのは、友人を救うか薬草を採りに行くための時間を作ること。
故に俺は時間を稼ぎ、少年が安心して採取に向かえるようにした。
……その願いに、俺自身が友人の病気を完治させることは提示されていない。
なら、俺のやりたいようにやっても構わないはずだ。
そんじょそこらの旅人がフラッと救うよりも、友のために動いた少年が、数々の苦難を乗り越えて薬草を採ってきた方がなんだかドラマチックじゃないか?
つまり、こういうことだ――。
「これからお前は、俺と一緒にあの山にもう一度行く。だが、俺はこの子に掛けた魔法を維持することで手一杯だ。さっきのような攻撃はできないから、お前一人でということになるが……大丈夫か?」
『メルスさんから貸していただいたこの装備があれば、あのときのような見苦しい戦いはないと思います』
「だが、それは緊急事態だから渡した装備だということを忘れるな。お前は本来、その装備を身に着けてはならない。自身の身に余る装備は、身を滅ぼすからな」
『……心に、留めておきます』
ま、そこまで貴重な装備じゃないけどな。
自分で造ったダンジョンに設置した宝箱を漁っていたら出てきた物へ、少年用としていくつか魔法を付与しただけだから。
……プレイヤーメイドの装備より高性能らしく、まだ裏路地で売れないと言われていたから余ってたんだよ。
軽鎧を纏い腰には剣、左手には丸い盾が取り付けられている。
そんな少年は目に強い意志を抱き、友人の方をジッと見つめた。
『ナーラ……絶対、救ってみせる』
ほとんどの者がその言葉で分かっていると思うが、少年の友人は女性だ。
ステータスを確認したから、恐らく間違いはないだろう。
少女は魔法によって一時的に体が楽な状態になっているが、それでも辛くないということでは無い。
少年の目の中には、苦しそうな少女の顔が映っている。
それを見て少年がどう思うか……はたしてそれは、純粋な誠意なのだろうか。
――それが見物だよな。
さて、そろそろ移動しますか。
「――オウシュ、俺の体に触れろ。さっきまでいた場所に移動する」
『はいっ!』
オウシュとは少年の名前だ。
少年が俺の服の端の辺りを掴んだのことを確認して、俺たちは先程までいた山の近くへと転移した。
手伝えないと言ったのに転移使ってるじゃないか……といったツッコミは却下だ。
少年もできるだけ早く薬草を採りたいだろうし、これからのことを考えると、それぐらいのサービスは……な?
◆ □ ◆ □ ◆
少年は偽善者に連れられて、再びその場所へ戻って来た。
(転移能力なんて、国に仕える宮廷魔法師ぐらいじゃないと使えないって聞いたことがあるんだけど……メルスさんって、そういう人なのかな?)
周りの大人たちが話していた情報を元に、少年は偽善者について考察を行う。
突然目の前に現れた偽善者は、肉体だけで魔物を倒し、魔法で友人を癒し、また優秀な魔法師にしか使えないとされる、転移魔法を使った。
(旅人だって言ってたけど……何か事情がある? この装備だって、ボクたちじゃ絶対に手に入れられないような高級品。そんな物を持っているメルスさん……一体、何をしている人なんだろう?)
この世界においては、本当にただの偽善を施す旅人なのだが、少年がそれを知る由はまだない。
「オウシュ、山には危険な魔物がたくさん居る……それは分かっているな?」
「はい、山には悪しき魔物が眠っている――村の教えです。だからみんなそれを恐れて、山には入りません」
「だからこそ、誰もあの子を救えなかったんだけどな。オウシュのような勇気があれば、山に入ることはできただろうに……」
少年の住む村では、悪しき魔物とは邪神の瘴気に当てられた魔物だとされている。
大昔に世界を恐怖に貶めた邪神の力を持つ魔物……封印をされているのだが、その力の残滓に新たな魔物が狂暴化している現状に怯え、村人たちは自分たちでは何もせず、冒険者や国から派遣された騎士に魔物の討伐を依頼していた。
薬草はそうして誰かが魔物を屠った後、村人の中でも最も強い者が採りに行っていた。
だが、少女が病に侵されたこの時期は、依頼を出す少し前であった。
故に少年は大量に魔物が蔓延る山に、単独で挑む羽目になっていたのだ。
「いいんです。みんな死にたくないのは同じなんです。だけど、ボクは自分がどうなろうとナーラを……痛ッ!」
少年は例え自分が死のうとも、少女を救う誓いを述べようとして――偽善者に頭をポカリと叩かれる。
「俺は、お前の願いを叶えるんだ。少女の願いを叶えるんじゃない。お前がもし死んだなら、俺は迷わず少女にかけた魔法を止めて、別の場所に消える」
「――ッ! そ、そんな!」
偽善者の言葉を受けて、少年は動揺する。
だが偽善者は言葉を止めず、少年を追い込むように口を動かし続けた。
「嫌なら死ぬな、生き残れ。どれだけ足掻こうと、最後に生きてさえいればいい。お前の友人は、自分を救う為にお前が死んだことを聞いて、自分を許せると思うか? ……そんなわけないだろう。
――だから生きろ。
俺を利用して、魔物を出し抜き、薬草を手に入れて帰ることだけ考えてもいい。俺はお前を強くしようとするが、ただ武力に長けた奴にするんじゃない。どんなことがあろうとも、自分のやりたいことをやり通せるようにするんだ」
ジッと少年の目を覗き……そう言った。
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