AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と水着イベント後半戦 その17



「おおー! やってるやってるー!」

 気が付けばイベント最終日、目の前ではレイドボスとプレイヤーたちの闘争が観れる。
 全プレイヤーが水中に潜り、最終日にのみ現れるラスボス的なレイドモンスターに挑んでいた。

 上半身はおっさんで、下半身からは数十もの触手が生えている化け物。
 本神的には海の邪神らしいが、プレイヤーにそんなことは関係無い。
 神への信仰心など犬に喰わせたプレイヤーは、あらゆる手を駆使してどうにか邪神を倒そうとしている。

 いやー、実に面白い。
 順調にイベントをこなしていれば勝てるはずであったボスに、悪戦苦闘の四苦八苦状態であった。
 ある存在らの妨害によって、勝てるか負けるか分からないギリギリの状態にまでしか攻略が行えなかったプレイヤーたちは、自身の限界を超え、他者との連携を行うことによって戦況を有利にしようと努める。

 しかし、ラスボスとして現れたレイドモンスターがそんな簡単に倒せるわけもなく、プレイヤーたちは何度も死に戻りを行うという危機的な状況である。

「それでも諦めないのがプレイヤーだ。縛りプレーを強制しても、マゾゲーマーなら這い上がってくると信じていたよ」

 実際一部のプレイヤーはそんな状況を悦んでおり、その様子を見た別の者からドン引きされている。

 何度攻撃を当てても回復する時は――スキルレベリングと笑う。
 一撃必殺の弱攻撃を受けた時は――パリィの練習と嗤う。
 大量の配下を呼び寄せた時は――ポイント稼ぎと哂う。

 正直、ボス側が可哀想にもなるのだが、悪役っぽいセリフを言うぐらいには余裕そうだから、気にしないでおこう。

「はてさて、全てのプレイヤーが力を合わせれば、人の身で神を倒すことができるんだろうか?」

 神殺しとは、いつの世でも歴史に飾られることになる――偉業であり罪過である。
 悪しき神を人が倒し、新たな時代を築き上げる物語。
 プレイヤーに与えられた使命は、その神殺しを成すこと。

 いつの日にか出会うであろう、かつての神との邂逅時――迷うことなく殺害を選択させるために。

◆   □   ◆   □   ◆


「――と、言ってみるととても盛り上がるように聞こえるが大半がジョークだから気にしないでくれよ。折角考えたんだから、言ってみても良いじゃないか」


 うん、前半は大体正しいことを言っていたが、神殺し云々は別に関係無い。
 地球の運営側がデザインした邪神が、プレイヤーと戦っているのが現状だ(触手の辺りを特に頑張ったらしい)。

 まあ、デザインを用意するのにも理由があるのだが、そこら辺は割愛で。
 ――ただ、用意された器デザインはあくまで姿のみデザインであることは、覚えていてほしい。


《メルメル、どうだった?》

「(とりあえず順調に進んでいるぞ。しっかりと弱体化も成功してるし、アイツらだけで討伐も可能だろう)」

《……よかった》

「(フーカが頑張ってくれたお蔭だ。俺だけだと、あそこまで救うことはできなかった。全部を救えなかったのが心残りだが……何はともあれ、お疲れ様)」

《わたし一人じゃ、ただそれを見ていることしかできなかった。メルメルと、みんなが助けてくれたから……助けられたんだよ》


 さて、察しの良い方ならもう理解できているだろう。
 俺と眷属たちが後半戦の間、プレイヤーたちの妨害をしていたのはこれが理由である。

 イルカと話していたことを思い出してもらえると簡単に説明ができるな。
 海底に縛られていた凶悪な魔物……それがプレイヤーたちが戦っている邪神だ。
 レイドモンスターはその封印の守護者として生み出され、邪神を解き放とうとする者から封印を守っていた。

 仮に守護者が倒されようと、守護者の命を引き換えに邪神に直接封印を行い、弱体化を行うまでがワンセットだったらしい。


 そして、フーカと俺はその設定定石を拒んだ。

 プレイヤーたちにレイドモンスターが殺されないよう、眷属たちに警備を頼み。
 守護者それぞれが行う弱体化を、代理で行えるように準備を整え。
 最後の邪神との戦い時のみ、弱体化が機能するようにしたのだ。

 ちなみにだが、プレイヤーが守護者を討伐してしまうと、運営神が何かしたのか弱体化の効果が全守護者に反映してしまう。
 だからこそ、守らなければならなかったのである。

 俺はイベント中に全てのレイドモンスターの場所を巡り、俺とフーカが考えたこの話をした。
 理不尽な死を与えられた者に、救済を授ける――それが偽善者の使命だしな。

 だけど、一部のレイドモンスターはそれを頑なに拒んだ。
 最低限、プレイヤーに殺されても周りの守護者に影響が出ないようにしてもらうのが精一杯であり、それ以上の譲歩は一切してくれなかったな。

 ソイツらを救うことはできず、俺は大人しく引き下がった。
 意思は固く、例え俺が無理矢理救ったとしても、あとで自決するような覚悟を持っていたんだ。


「(……なあ、その気になればきっと救えたんだと思うんだ。俺が誰の言うことも聞かず、勝手に救おうと思えばさ。だけど、みんなアイツらの意志の固さを見て俺に止めるように言ってきた。フーカもそう言ってたよな?
 ――偽善って、どこまで救えるんだ?)」

《うーん……メルメルだって、世界中の人全てを救えないのは分かってるんだよね?》


 そりゃあ……まあ、そうだよな。
 幾らなんでもそれは難しい・・・よな。


《メルメルは多分、頑張り過ぎなんだよ。本当はただの一般人だったのに、こうしてこっちの世界の魔物まで救おうとしている》

「(……救いたいから救ってるだけだ)」

《そう、メルメルは救ってるんだよ。わたしじゃ救えなかった魔物も。全員を救えないのは、メルメルが人だから。人間だからこそ、メルメルは失敗するんだよ。……全員を救わなくたっていいじゃない。メルメルは、本当に救える人だけを救えばいいの》

「(…………少し、考えさせてくれ)」


 フーカが言いたいことは分かる、それでも子供の我が儘のように、腹の中へナニカが溜まっていく。
 それはムカムカと疼き、【矛盾】する意見に対して異議を唱えているようであった。

 俺の考えが纏まったのは、このプレイヤーたちが邪神を倒し終えた後である。
 そのときにはもう、疼くことはなかった。


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