AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と水着イベント後半戦 その16



「……教える気は、ないようだな」

「ああ? だから、俺はただの商人さ。他に何があるってんだ」

「もういい。お前がいつまでも隠すってんなら、お前に貰ったこの剣で……全て暴いてやるよ!」

 少年は、自身の復讐にリッドを巻き込んだ商人へ若干の怒りを感じている。
 今まで抑圧されていた復讐心を解放し、感情に制御が緩んでいるため、商人に感じた不快感が増大し、即座の攻撃を決意したのだ。

「全てって言われてもなぁ。お前さん、男のプロフィールなんて知ろうとして……まさかそっちの気があるのか?」

「――死ね」

 聖魔剣を引き抜き、少年は商人へとそれを振り下ろす。
 靄に肉体を変換し、商人の死角へと異動しての一撃だったのだが……。

「死ね、と言われて死ぬ阿呆にはなりたくないんでねぇ。俺はしぶとく図太く永遠に生き続けるんでな。お前の私情に付き合う義理はねぇからな」

 死角から放たれた斬撃を、商人はあっさりと避ける。
 ステップを踏むように軽快に躱し、少年から距離を取ってそう言う。

「大体、魔剣を聖魔剣にするってことはな、その気になれば誰でもできるんだ。本人が魔剣の魅力に抗い、ひたすら正の心を注げりゃあな。お前はそれを、最後の最後にやれたからこそ、その剣は聖魔剣となった。実に面白いな、お前は。祈念者は何もかもが速いって聞くが、まさか魔剣の覚醒速度まで早めちまうとはな」

「……プレイヤーかなんて関係ない。俺はコイツだからこそ、ここまで来れた」

「へっ、好いじゃねぇか。熱い話だねぇ。俺も力があるなら、そうして自分自身でやってみたかったさ」

 へらへらと笑みを浮かべてそう語る商人。
 だが、瞳は真剣なものであった。

「さっきの攻撃を、力のない奴は避けられないと思うぞ」

「スキルが有れば、どうにかなることだってあるさ。それにしがない商人にはな、力がないと世の中を渡っていけないのさ。道中の魔物や盗賊、町中でも強盗を追い払うだけの力が無いと、売り物がパーなんだ」

 商人は手をヒラヒラと振りながらそう言って――何処からか剣を取り出す。

「コイツもまた、お前のそれと同じ聖魔剣だな。……紛い物ではあるが、性能はほぼ一緒だから問題ない。名は『クラウ・ソラス』ってんだ。どうだ、カッコイイだろ」

「それが、お前の武器なのか」

「ま、そうだな。結構便利なヤツでさ、こういう時に使うんだよ」

 剣を構え、商人は少年に説明する。
 商人が紛い物と言ったのには、これがかつて読み取った設計図を元として、今この瞬間生成された物であることが関係するが……それを少年が察することはない。

 ただ分かるのは――目の前で商人が握り占める剣が、自身の持つ聖魔剣と同等の力を周囲に放っていることであった。

「さぁ、お前は俺を倒して情報を吐かせたいし、俺は面倒事は御免だからさっさとお前から逃げたい。互いにやることは決まってんだから……早く始めようじゃねぇか」

「ああ、分かってるさ!」

 聖魔剣の力によって、再び体を霞に変えて商人に向かう。
 一方の商人も、剣に魔力を流し込んで剣身に輝きを放たせる。

 そして、剣と剣がぶつかり、周囲に衝撃波が飛んでいく。

◆   □   ◆   □   ◆

「お前、絶対ただの商人じゃないだろ!」

「いやいや、大豪商なら優れた武人で雇ってるだろ。俺にはそれができないからこそ、こうして武器を磨いていたんだろうが。商人が相手に勝つ必要は無い。相手に負けた、もうコイツとは戦いたくないと思わせればそれで充分だしな」

 商人の剣は光線を放ち分身を作り、大地を割って砂を生み出した。
 白と黒の靄を生み出し、そこから派生した力を操る少年の聖魔剣の相性は悪く、光線で穿たれた靄は消滅してしまい、少年は防戦一方で戦い続ける。

「"撒き散らせ"!」

「おっと、なら――"煌け"!」

 持ち主以外の体内魔素を乱す煙霧を放つ少年だが、商人は剣から発火する光線を放出してそれを一掃していく。
 靄に含まれる魔素が光に触れると、それは連鎖するように燃えていき……辺りは眩しい業火に包まれていった。

「いつまでも足掻きやがって、もう俺に勝てないのは分かってんだろ? 祈念者で言うところの……あれだ、『負けイベント』ってヤツだ。さっさと死んで、何処かで俺以外の奴と遊んでこいよ」

「……そう、簡単に諦められるかよ。ここでお前を逃したら、俺は絶対に後悔する。だから、死んでも逃さねぇ!」

 商人は少年相手に、余裕を持った戦いを行い続ける。
 誰も居ない場所に剣を振るい、上や下に向けて剣を薙ぐなど、傍から観れば奇知外と思われる行動を何度も行っていた。

 それだけ余裕を持たれてしまう相手だろうと、少年は諦めずにそう告げる。
 ――今の少年は、それだけに燃えていたからである。

「熱いねぇ、暑いし篤いと感じるよ。ただの商人相手に、どうしてこうも熱くなってるんだか、俺には皆目見当が付かねぇや」

「……なら、黙って情報を吐け」

「…………はいはい、分かった分かった。俺はもう戦えねぇ。ここまで頑張ったお前に免じて、一つぐらいなら答えてやるよ。質問する時間はゆっくりとやるけどよぉ、早く考えてくれ」

 商人はドカッと地面に腰を下ろし、武器を光の粒子にして消し去る。
 無防備になった商人の姿を見た少年は、戦意を少しだけ弱め、本当に質問したいことを考えていく。

「なら、これを訊く。――お前は、自分の御眼鏡……いや、色眼鏡に適う奴に商品を渡していくのか? 相手が誰であろうと」

「お? そんな質問で良いのかよ」

「ああ、それで構わな――ッ!?」

「そうか、なら答えてやろう」

 少年は、突然体を斬られるような痛みを感じ、そのまま地に伏せることになる。
 視界は少しずつ黒色に染まっていき、HPもだんだんと減少していく。

 商人はそんな少年の前に歩み寄り、二カッと笑って――。

「当然だろう。俺は俺のやりたいように他者に力を譲渡する。俺が持っていてもどうせ宝の持ち腐れさ。ならせめて、役に立たせる奴に渡すのが一番だろう。相手が善人だろうと悪人だろうと、それを一番使いこなしてくれるのが、武器の本懐ってヤツなんじゃないのか? 大体、お前みたいな復讐者にだって武器を渡してるんだから、俺ってばある意味で凄い商人だよな。可能性を見抜く才能! いや、ほぼ無いと思うけど楽しみが増えるってもんだよな!」

「……お前は、それで自分の身が破滅しようとも、構わないと言うのか」

 どうにかぼんやりとだが見える商人へ、少年はそう問う。
 商人はあっさりと、そして楽しそうに笑顔で答えた。

「ああ、もちろんだ。いつか来るであろうその日を、是非待たせてもらうぜ! ……だけどよぉ、今のお前じゃあちと役不足だ。そろそろ死んでもらうぜ」

「俺は、お前を――」

「あばよ、その言葉の続きは次に会った時にでも聞かせてくれや」

 商人がそう言って指を鳴らすと、少年の身体に何十もの斬撃痕が生まれ――少年の身体は、光となって消えて逝った。

「…………さて、次は残りの奴らを一気にやるかな? もう面倒になってきたや」

 商人は一度も傷を負わなかった体を摩りつつ、そう呟いていく。
 その後淡い光を纏った商人の姿は、先程までとは全く異なる風貌であったという。


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