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山田 武

偽善者と水着イベント前半戦 その01



 青い空、白い雲、燦々と照り付ける太陽。
 この言葉から連想される物は、一体何なのだろうか。
 これらは環境さえ整っていれば、どの世界のどの場所でも観ることのできる物だ。
 どれか一つに……と言われても、中々共通の答えという物は存在しないと思われる。

 ――だが、こうすればどうだろうか。

 天地鳴動が如く激しく行き交う視線、その先で玉のような至宝たち、たった一枚の壁が視線を釘付けにする蠱惑の力を放っている。

 ……うん、さっぱり分からん。

 ある物によって隠されたナニカは、ある集団の視線をガッチリ掴んでいた……これぐらいの簡潔さで無ければ。

 え、何が言いたいかだって?
 それはつまり――

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イベントエリア


「――遂に、始まったのか」


 ガラスのように光を通し、輝く砂を踏みつけた俺はそう呟く。

 目の先では先程上げた至宝たちが、それぞれ独特の揺れを魅せている。
 激しく動くものも小さく動くものも、どれもが視線を釘付けにする舞を踊っていた。
 くっ、抗えない!


「水着イベント、実に絶景だ」

《変態、ただの変態だよ》

「いいか、無理に俺に何かを求めてくるような眷属じゃない。あそこにいるのは、後腐れも無く観られることを理解している者なんだぞ。それなら俺も、ただただ男子らしく眺めることにしたんだ」

《ふーん、満足できなかったんだ》

「いやいや、そうじゃなくてな。お前たちの体は良くも悪くも世に出してはいけないようなもんだ。俺はそれをしたくない、だけど男としての小さな願望は残っている……その結果がこうなんだ、分かってくれ」

《……変態》


 グフッ。
 ミシェルの鋭い指摘せいろんに、俺の心は少し欠けて吐血する。

 いいか、ただでさえ様々な事情を抱え込んでいるような眷属だぞ?
 それに似合うだけ能力――CHMカリスマを兼ね揃えているんだよ。

 人を惹きつける力、それをカリスマと呼ぶことがある。
 物語で語られるような英雄たちが持つ、無意識に放たれる力。
 俺には無いが、眷属には確かに存在する。
 自身の運命に向き合うために必要な全てを与えて、心身ともに作用変質を促す――そんな力だ。


「……要はな、お前らのCHMは数値が主人公級にデカいし、その作用か知らないが日々可愛くなってるんだよ」


 能力値が肉体にどのように作用するか、それは島に飛ばされる前から調べていた(極振りとかの研究にもなるしな)。
 何か切っ掛けさえあれば、能力値は持ち主に数値が示すだけの力を与えるのだ。

 眷属の場合は……俺への対抗心か?
 俺が手を出さなければ出さない程、より綺麗になろうと努力する。
 するとCHMが作用して、眷属が本来持っている魅力を肉体へと顕在させていく。

 ある意味で、負のスパイラルなんだよな。
 俺はどれだけ眷属が美しくなろうとも、鉄の意志を以ってそれに抗う。
 眷属は意志を折ろうと、更に美しくなる。

 傍から見れば、それは素晴らしいことなのだろう。
 主のために日々美を磨いていく女性たち、そんな風に見て取れること間違いなしだ。

 その実、それは戦いでもある。
 拗らせ童貞とも呼べるような俺に、形だけでも許可を得て襲い掛かるのだ(意味深)。

 ……実際に被害を被る俺からしてみれば、厄介極まりない。


《みんなは嬉しいし、メルスも表面上は喜んでいる……これじゃあ駄目なの?》

「頻度が多過ぎるんだよ……おぉ、ありゃあ凄いな!」


 嗚呼、揺れているよ揺れている。
 プルンプルンのプリンプリンやー!
 あっ、でも――


《……物足りて、無いでしょ》

「…………」

《みんなの体を見て、メルスは普通じゃ満足できない体になった。少なくとも、あそこにいる有象無象じゃ無理》

「い、いや、そうじゃない。俺が求めることはそうじゃないんだ。……あれだ、心の洗濯的な感じのヤツを求めているんだよ」


 え、何!?
 俺ってそんなに改造されてたの!?
 元々三の女子が着替えていようとどうでもよく感じていたが、ここでも似たような気分だったのはそれが理由か?


《心の洗濯……本心から望んでいるの?》

「うん、癒しが欲しい。俺も男子なんだ、せめて育った果実を眺めるぐらいしたいぞ」

《でも、眷属じゃ駄目だと》

「そ、そうだ。だからこうして――」

《私も、メルスとのデートで考えた。対等な家族だと、メルスは言ってくれる。対等だと言うのなら、私にも私自身で行動を決める権利がある》

「……そうだ、その通りだ」

《だけど、メルスは亭主関白――自分だけが動いて私たちを束縛しようとする。どういう考えであろうとも、それが事実》

「……あぁ、そうなのかも知れない」

《それでも、それによって安寧の時が過ごせているのも事実。だから私たちは、共に居たのだと思う。……だけど、それだけじゃあだめなのかも知れない。メルスはずっと本心を隠したままだし、視れないまま。それなら、別の方法を取った方が良い》

「……ん? んんんんんん?」


 あれ、なんだか話の流れが……。
 誰もいない場所でこっそりと水着女子を眺めていた俺の隣に、ミシェルが現れる――予め用意してあった水着を装備して。


『もう、メルスは私たちに負けている。だからこそ少しだけ自由をくれるようになった。それは、メルスの体が負けを認めたから。
 ……今度は、メルスの心に負けを認めさせてみる』

「ちょ、ミシェル!」

『あのときは、私が手を引かれたけど――今度はメルスが手を引かれる番だよ?』

「――――ッ!」


 そう言って澄んだ笑みを浮かべるミシェルに……俺はただ、顔を赤くすることしかできなかった。



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