AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と大会予選 その04
野郎との会話は一部省略だ。
要するに、参加することをとある人物から頼まれたらしい。
いやいや、どうして上司の許可なくやっているのかな? とかツッコもうと思ったが、確かやることさえやってくれれば後は自由にしてくれて構わない、的なことを言った記憶があるので、その発言は控えておいた。
ま、説明はしてくれたがな。
なんでも、別大陸で有名な冒険者になっていたら、この大陸との交流を示すためにこの闘技大会に出て欲しいと依頼されたとのことである。
「(アマル、お前のランクって……)」
《メルスさんと同じ、Sですね》
「(その上のランクがあるって知ってるか? 俺、結構それ関係で絡まれたんだが……)」
《そういうことはまだありませんね。ただ、ランクがSの冒険者カードを見ると、どの受付嬢さんも何か印が無いかどうかをこっそり探していますね》
そう、それだよそれ。
だから俺も、カードを偽装しなければならなくなったんだよ(協力byルーンのギルド)。
えっと……話の途中だが、ちょっと周りの状況が少しだけ変わっているな。
何やら参加選手の一人の発言に、他の奴らが反応してイラついている? のか。
そんな感じで空気が澱み始めている。
「(アマル、アイツはなんて言ってたんだ? どうでもいいから聞き逃していた)」
《『糧となるために集まって頂き感謝いたします。これで俺は、新たな段階へと至ることができる。お前達は礎になれることを誇ると良い』だそうです》
「(糧、至る、礎ねぇ~。ま、普通この場所で言うセリフでは無いよな。理由があるのかもな、ここでこれを言うだけの)」
《……やはり、そうですか》
挑発でしか無いこのセリフ。
相手に悪印象のみを与える行動であるが、こうすることで得られることもある。
――相手の力を入れた攻撃だ。
トーナメント制のような継続的な戦闘力が求められる試合の場合、選手達はある程度使う技を制限するなどして力をセーブするであろう。
しかし、こうして相手が自分にとって害でしかないと認識させれば、本気とまではいかないものの、抑制した際の最小限の力以上でその者を倒すと思われる。
例えば、普通は使わないようなスキルでも使ってな。
「(とりあえずチェックだけしておいてくれ。俺は関係各所に注意勧告を流しておく)」
《あ、はい》
この場にいる俺の知り合いに、念話を繋いでそれとなく遠回しな説明をした。
思考速度も体に影響がない程度に上げていたので、説明を聞き逃したというクレームは来ない。
少し強引な方法を取ったので、暴力に訴えられるかな~と覚悟していたのだが、幸い誰も気にしていないようだ。
実際は……諦めていただけだが。
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夢現空間 修練場
「それからさ、色々とあったわけだよ。抽選会が始まってからも。挑発をしまくる犯人候補に、どうにかしろという目を向けてくる関係各所。おまけに視界を通してイベントを満喫している眷属達……大変だったな~」
『それを私に言ってどうするのよ』
「いや、特に何も。あまり考えないで口を開くのが、俺の悪いところであり欠点だしな」
『どっちも駄目じゃない』
高速で剣をぶつけ合いながら、軽口を開いてティルと話し合う。
闘技大会の本選は、抽選会から数日後に開かれる。
本選の参加者が各所から結集するために、少々時間が要るらしいのだ。
その時間を有効に活用するため、現在剣の師匠と練習中というわけだな。
高速で行われる剣舞を、息切れ一つ零さないで捌くティル。
スキルや武技を使わなければ、俺の実力など知れたものである。
「まぁ結局、抽選自体は滞りなく進行していたな。何処かで強豪ばかりが集まるような仕組まれたトーナメント表……一度で良いから見てみたいものだけどな。そうならば俺も楽ができるのに」
『絶対にメルスもそっち行き、それでもそんな表が良いのかしら?』
「いやいやいや、今回はちゃんとセーブした状態で参加してたじゃないか。戦闘だって全くしなかったし、特に怪しまれるような行動もやらなかったぞ」
そもそも、ティンスの妨害さえなければ上空でずっと試合観戦をする予定だったんだ。
何処に怪しまれる要素があるんだ。
『……ハァ。他の人達が感情を乱すような状況で、全く変わらず平常を保っていられる子供を、相手は当然怪しむわ』
「――ッ! 気付かなかった」
さて、少しだけ伏線があったと思うが――俺は大会に中学生ぐらいの容姿で参加中だ。
日本人は外国と比べると小さ目だからな。
こっちの世界の人にとって、中学生はまだまだガキ扱いなんだろうな。
おっと、ヤバいよヤバいよ。速度が上がっているや。
使用を許可されている氣を錬り上げ、体中に巡らせていく。
身体強化を瞬時に終わらせ、全く強化など行っていないティルへ、剣撃を再度行う。
「でも、感情はあんまり制御できないんだよな。眷属に関することならまだしも、自分に関することはどうでもよく感じてさ」
『メルスは無いの? 心の底から何かを感じたことは』
「何かを感じる……どうだろうな。俺としてはティルの言うそれとやらを自分のものとして捉えているけど、{感情}が絞り出したものかも知れないんだよな」
『リオンはなんて言っていたの?』
「いや、自分の管轄外だってさ。いつか{感情}の持ち主にでも会ったら聞いてみるよ。
それより、今はもうちょっとやろうぜ」
『そうね……行くわよ』
「嗚呼、逝くさ」
……俺は真剣なのに、どうしてティンスは木刀で打ち合えるんだろうな。
そんな疑問は、ティルの剣氣を浴びた瞬間に消え去った(思考をしたら死ぬからな)。
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