AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と販売



始まりの町 裏通り


 再びお仕事に明け暮れる日々が始まった。
 メルとしてクラーレたちの手伝いを行うのはまだ良い。
 だが、どうしておっさん商人としての仕事は上手くいかないのだろうか。

 どいつもこいつも俺の態度と(鑑定)の効かない商品に苛立って裏に連れて行かれる。
 全く、一人ぐらい主人公らしい反応をしてくれる奴はいないのかよ。

 いつもなら独りで寂しく時間を潰していくのだが、今回はフェニが監視役に居てくれていた。


《ご主人も、少し条件を緩和すれば良いのではないか?》

「(でもさ、フェニは明確な目的も無いようなつまらない奴に、何かを託したいと思うか?
 DPの景品交換用のアイテムは全部試作品だから構わないが、ここに並べているの物は、それなりに試行を凝らした品だからな)」

 分かり易く言うと、武具ならば特別なスキルが付いているかどうかだな。
 武具に俺のイメージが混ざるからなのか、スキル名も特殊な物になることが多い。
 ……しかも、性能もかなりピーキーな物になってしまっている。

 ギーとドゥルによる二重のコピーは済ませてあるので、俺の元から離れた方が面白くなる気がするんだよ。
 宝具だって、原典から幾つかの偶像を重ねて元とは遥かに逸脱した性能を誇ることがあるらしいし。

 うん、俺は『製作者』なだけであって『担い手』ではないって奴だな。
 俺専用の武具は幾つか造ってあるし、なんとなく俺以外の者に使われたいと思っている(気がする)武具は放出するべきなんだよ。

「(例えば――これ、フェニに渡した聖魔剣と似たような剣だけど、持ち主の成長に沿って聖剣か魔剣に変質するんだよ)」

《……ご主人はいつも不思議な物を作っているな。して、その変質の条件は?》

「(ある程度聖人としての行動を行い続ければ聖剣に、正負を問わず純粋に力を求め続ければ魔剣に変質するな。更に、剣をベースにして、持ち主好みの武器にも変わるからかなり強いんだぞ)」


 聖剣になる条件はそこまで高くない。
 聖人とは業値が0以下ならば聖人として認定されるのだ。
 だからこそ、影のある聖人たちは業値を上げないように注意しながら行動をしているのだが……今は置いておこう。

 聖人として業値の無い体、人々を救おうとする心、そして穢れの無い魂。
 まぁ聖人らしいものと言えばこんな感じだろうか。
 一番以外全く満たしていない俺には不可能だが、主人公君ならできると思うぞ。

 魔剣は<大罪>の武具っ娘たちとは違い、あくまで魔法のような剣なだけだ。
 通常の武具と異なり特別なスキルを有しているワケだが、彼女たちと異なり、有しているのはあくまで一系統のみだ。
 例えば火を司るならば火関連の物だけであり、ヤンのように獄炎と怨呪という異なる属性の物は使えない、といった感じか?

 持ち主のイメージに沿った理想の形になるのだが、それでも属性が混ざると言うことはあまりない。
 雷のような速さで飛ぶ炎、的なイメージならば確かに具現化できそうなのだが、それぐらいなら魔法として生み出した方が速そうだしな。

 ただ、武具として持ち主のイメージを具現化してくれるのは凄いことだよな。
 俺はギーがいるからそう思わないが、一般ピーポーならば欲しがる筈だろう。


「(ただ、全く客が来ないんだよなー)」

《……ご主人が客と認めていないだけで、偶に来ているのだがな》

「(だってさぁ、主人公ってのは偏見が無い筈だろう? 自分の直観を信じて迷わず俺の武器を買う! こういうのを求めているんだよ俺はさ)」

《少し、求め過ぎではないか?》


 そうかなー? きっといるとは思うんだけどなー、そう言う考えの奴もさ。
 世の中に絶対が存在しないように、ほんの僅かな確率からそうした奴がいる筈なんだ。


「(……お、ほらまた人が来た。多分アイツならやってくれそうな気がする。勘だけど)」

《では、観させて貰おうかご主人よ》

「(任せとけ)……あぁ? どうしたんだ、観光でもしに来たんか?」


 フェニとの会話を一旦止め、目の前に現れたプレイヤーへの対処を行う。
 容姿は中の上な男だが、なんとなく今までの客と違うナニカがある気がする。
 何だろうな、大体高校生ぐらいだと思うんだけど……装備は初期装備のままだし、武器も無い。
 よくここまで来れたな。


『ここは店なんだろ。だったら俺は客だ』

「そりゃあそうだ。……で、あんちゃんは何か買う金があるのか? 視た感じ、祈念者の中でも初心者のように見えるが」

『…………黙れ。お前は俺に武器だけ用意すればいい。そして金は無い』

「ハァ!? 金も無いのに商品をどうやって手に入れるってんだ。そりゃあちぃと【強欲】が深すぎると思わねぇか?」

『口約束だが、金はいつか必ず払う。だから俺に武器を用意してくれ。普通の店は文無しに武器なんて用意してくれなかった。だからこそ、俺はここに来た』


 今(過去眼)で少しだけ視てみたのだが、偶然会った奴がリアルで知っている奴で、ソイツに全部奪われたみたいだ。
 ……やべぇ、超面白そうじゃん。


「……そうかい。なら、お前さんに必要な武具やアイテムは全部無料でくれてやろう。これからも浮気しねぇで贔屓にしてくれるって言うならお前さんに更なる力もくれてやる」

『冗談半分で言ったんだが、噂は本当だったようだな。……で、一体何を要求する気だ』

「なーに、簡単な話だ――」


 俺の要求に、男は首を傾げたが最終的には了承した。
 先程フェニに説明した剣と、他にも色々なアイテムを受け取って男は去っていく。
 ……さて、楽しんでくれよ。



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