AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と赤色の世界 その14



「――結論から言うと、MPを補給してから全力で"夢現返し"を使わせてもらったぞ」


 結界を一瞬だけ広めに創り、その間にポーションを口に含む。
 喉の奥にシュワシュワとした刺激が巡っていき――炭酸ポーションは俺のMPを全回復させていく。

 再び有り余る量となったMPを使い、空間内に広がる全ての炎を、先程見た光景と重ね合わせるようにして塗り潰す。
 すると、場から炎は全て消え失せ、深い深い扉の底にあるこの空間は、ただただ暗いだけの世界へと戻っていった。


「"太陽顕……現は眩し過ぎるか。なら、少し軽くして――"適当に光れ"」


 {夢現魔法}を使い、俺のイメージする適度な光を周囲に広げる。
 日本的なイメージをした所為か、光だけを求めた筈なのに、上空に蛍光灯のような物が見えてしまっている……異世界なのに、上空に蛍光灯って。
 最初にやろうとしていた"太陽顕現"で、少女の目に多大なダメージを与えるよりはマシなんだけど……マシなんだけどさ~。


 あー、今の俺は適当な言葉だけで魔法や魔術を発動できる。
 魔法の内容は{夢現魔法}で、発動する為の言葉は:言之葉:で自由に変更可能だ。
 例えば今の"適当に光れ"、魔法では無く魔術として使いたいと意識すれば、自動的に周りには"適当InCurrent光れConvenienter"と聞こえるぞ。

 ……一応、できるだけ言語に関するお勉強もしてあるから、ラテン語以外での魔術も使えるんだけどな。
 昔、アリィが魔術をラテン語だと言っていたが、大陸によって云々……と面倒なので今はカットだ。


「しっかし、殺風景な場所だよな。封印の地に一々装飾する奴もいないとは思うが、せめて居心地のいい場所にしようぜ」


 そう呟き、この場所をよりよい環境にすべく動き出す。
 余っていたアイテムを並べていき、魔法やスキルを使って周囲を弄っていく。

 少女は……まだ掛かりそうだな。
 少女の苦悩は俺には分からないが、余ったMPでサービスをしておいたから、いづれは答えも決めて起きるだろう。

 彼女も彼女で優しい少女なんだけど、世界は優しさだけじゃどうしようもないからな。
 世界のどこかにはそれだけでも生きられる場所もあるだろうが……そこでじっとすることを俺は選ばせない。

 ――世界が彼女を否定するならば、自分が彼女を肯定をする。

 何処ぞの主人公が言いそうなセリフを言うワケでは無い。
 ただ……俺が望む未来は、少女が世界のために身を捧げる先には無いだけだ。


「ま、結局は偽善だけどな」


 どれだけ言葉を取り繕うと、人の行動の大半は偽善へと通ずるものがあるのだろう。

 恩を売りたくて、媚を売りたくて、印象を買いたくて、好感度を、信頼を得たくて……何か裏の事情を抱えながら、偽りの優しさを纏って誰かに接していく。
 ま、それでも別に良いと思うけど。


「だからこそ、そんな奴と違う者が目立つんだよ。みんな違ってみんな良い? それはさすがに十人十色を詭弁にし過ぎだろ。自分と異なる者をなんらかの形で区別するんだし、結局は時代や世界が異なろうと、やり方が違うだけで面倒事は起きるんだろうな」


 ……ハァ、何を考えてるんだ俺は。
 こんな真面目なことは、俺の考えるようなことじゃ無いな。


「よし、仕上げだ仕上げ!」


 細かいシリアスは他の奴がやればいいや。
 俺はできるだけ(偽善以外では)、適当に生きるだけだ!


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 少女が目を覚ました。
 周囲に覆っておいた炎を自分で払い、外界の景色を見ている。


「――よっ、答えは決まったか?」

 ……コクッ

「そっか。なら、ちゃんと準備しておいて正解だったよ」


 少女は恐らく、目の前にポツンと置かれた一軒の家を見てくれているだろう。
 その家には、少々メルヘンな外観で煙突などが完備されており、お伽噺に出てきても違和感を感じさせない代物だ。

 少女のこれからの住まい……の筈だったんだが――。

「この指輪を持っていれば、君はあの家の持ち主だ。帰還、と言うだけであの家の中に戻れるし、中に複数登録が可能な転送魔法陣があるから、色んな所にも行ける……ん? あれ? 外に行く気は……無いの、か?」


 コクリと頷く少女。
 うーん……てっきりあの後の展開的に、自由な空へ羽ばたく、的なものを選ぶと思っていたんだが……予想が外れたな。
 世のため人のために働く、聖女ポジになると思ったんだけどな。

 少女は、俺の方へと歩いて来る。
 毎度思うが、長時間封印されていたのに急に体が動かせるんだよな。
 魔力が栄養分になるのは分かるが、運動効果も含むのか?
 本当、万能の力にも成り得るよな。

 そっちもある程度確認済みだが……今は少女の話だ。

 少女はとことこと進んでいき――俺の元に来ると、ギュッと俺の服の裾を掴んで顔を見上げてくる。


「……何か言いたいことがあるのか?」

 コクコク

「えっと、俺の言ったことはしない」

 コクコク

「外に出ないでずっと此処に居る」

 フルフル

「なら……一人で旅をする」

 フルフル

「……駄目だな。何をしたいかさっぱりだ。あ、そうだ! 文字を書くのはどうだ?」

 コテッ?

[ほら、こんな感じでさ。さっき見たけど、少し炎が使えるんだろ? 炎で文字を書いてみれば、言葉は伝わるよ。おっと、文字が駄目なら絵でやってみてくれ]


 毎度御馴染み、(具現魔法)による空中への文字書きだ。
 (鑑定眼)で視るに、既に少女は炎を掌握している。
 ならば、どちらかはできるだろうな。

 さて、少女は何をしたいんだ?



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