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山田 武

偽善者と赤色の世界 その06



 前回の答え合わせといこうか。
 (劉殺し)は自分が倒した最も強い劉と龍と辰と竜のステータスの一部を加算するというスキルだ。

 ――そう、それぞれのドラゴンからステータスを継ぐ為、補正となる数値が恐ろしく膨大なものになるのだ。

 幸い、というか不幸と呼ぶか、(実力偽装)の効果でその力を抑え込めたので力の制御に困ることは無かったのだが、それでも力が体の中に眠っていることに変わりは無い。

 だがしかし、【憤怒】のままにその力が振るわれた時……まぁ、敵は一瞬で消え去るであろう。
 ちなみに加算される能力値の補正だが――合計して、万は軽く超える桁である。

◆   □   ◆   □   ◆


「ま、別に使って無いけどな」


 ふと、(劉殺し)のことを考えてしまった。
 眷属には龍と劉がいるので、俺はその補正に肖っている。
 確かに強者である彼女達の恩恵はとんでもなく高い。
 ……高いのだがデカすぎて使えないわ! なので、スキルの自動発動自体に制限を掛けて封印してあるぞ。
 頼めばやってくれる眷属たち、本当に助かります。


「さて、封印の解除に戻りますか」


 聖炎龍も契約によって封印には手が出せないだろうし、邪魔するものはあんまりいないだろう。


「"因子注入・神性機人""解析特化"」


 体を作り変え、封印に使われた魔法陣の解析を行っていく。
 いや、お土産が無いってのもあれだしな。
 異世界の最上封印魔法というのを持って帰るのもよさそうだ。

 この後世界を巡る予定ではあるが、ただのモブに封印魔法を視る機会など今ぐらいしかないだろうし……さぁ、解析解析♪


「……チッ、やっぱり雑魚をけしかけてくるのを選ぶか。どれだけ中の奴が外に出ることを拒むっていうんだよ。"断絶空間"」


 思考の大半がお土産ゲットの為に使われているので、思考での詠唱は行えない。
 口頭で魔法を発動させて、この先に来るであろう魔物達の侵入を防ぐ。

 聖炎龍の奴、自分ができないからって別の魔物を無理矢理こっちに送ってきたぞ。
 配下の炎龍に威圧でもさせて、こちら側に誘導すればそれも可能だしな。

 ――ったく、命を何だと思っているんだ。
 こちとら根っからの一般ピーポーだぞ!
 殺しに慣れてるワケじゃないわ! ……{感情}の所為で慣れてる気もするが。

 "断絶空間"は、そうして送られてきた魔物たちによって少しずつ壊されていく。
 段々と罅が入り、このままでは封印を解析する集中力が残らなくなってしまう。

 別にそれでも困らないが、俺はそれをやりたいと考えているしな~。
 眷属にもやりたいことをやれって言われてるし――


「……しゃあなしか、これもまた約束事の一つだしな――"ランダム召喚・眷属"!」


 ため息交じりにそう呟き、最後は意味も無く大きな声でそう叫ぶ。
 すると、俺の隣に魔方陣が展開され、その中から一つの影が出現する。


『……あれ? ここは――』

「あ、チェンジで」

『え、メルs――』


 一瞬で登場した者を確認して、即座に送り返す。
 出て来たのは、純白の輝きを纏った金色の髪を持ったイケメンであった。
 ……うん、そういえば眷属の印を刻んでありましたね。
 指定範囲をいずれ変更しなければ……。

 そんなコントをしている間も、魔物達はこちらの事情など知らずにガンガン罅を広げていった。

 あ、ヤッバ。早く召喚召喚。
 テイクツーとして再び召喚を宣言して、魔方陣を隣りに展開していく。


「あ、今回は成功だな」

『……今回は? 一体誰が呼ばれたの?』

「あぁ、アマルの奴が召喚された」

『あの人も大変ね』


 茶色混ざりの銀髪にピョコンと生えた猫耳が、彼女の可愛らしさを表している。
 のだが、その腰に携えた強烈な威圧を放つ聖剣が、凛々しさもまた示していた。

 彼女の名はティル。
 眷属一の剣士であり、麗しき剣姫な猫獣人の美少女で――


『……ちょっと、急にそんな恥ずかしいこと言わないで』

「あ、ヤベッ。精神防御できてなかった」


 いつもは色々と思考を凝らして視られないようにしていたんだが……解析で脳がいっぱいでバレてるわ。
 どうしようか、このままだとティルのカッコイイところとか可愛い所とかが頭の中に過ぎる度に全部見られちゃうじゃないか。
 いつもいつもティルが剣を持っている姿って、本当に綺麗なんだよな~。
 それなのに、モフモフを見た時の気の緩んだ表情ときたら……そのギャップがたまろぅうあああ!!


『……忘れなさい。全て、何もかも』

「ス、スキルがあるんで無理です」

『そうね。なら、口外を禁ずるわ。それは、二人だけの秘密としなさい』


 腰の聖剣を引き抜き、斬撃を(俺に)放ってからそう告げるティル。
 少し赤くなっているけど、今は深く考えないようにしよう。

 ……というか、もう結構知ってる人も――ハッ!


「や、優しくしてね」

『……ハァ。まぁいつものことよね。それでメルス、私は何をすればいいの?』


 あ、命乞いをしたら許されたみたい。
 ティルの優しさに、マジで感謝です。

 そうそう、観ていたから分かっていると思うけど、今は解析中で全然動けないんだよ。
 だから、ティルにはアッチにいる魔物達の処理を頼みたい。
 ……本当は、そんな私情に巻き込みたくないんだけどな。


『お安い御用よ、それくらいなら。それに、好きでやってるんだから気にしないでちょうだい』


 シャランと綺麗な音が鳴り、彼女は聖剣を納剣していた。
 そして――


『それに、直ぐにできることだしね』


 カチンッという音と共に、魔物がたった今斬られたと気付いて死に絶えていった。
 ……ウワァオ、スッゲーや。


「ありがとうな、ティル。それじゃあこの召喚の制限時間もそろそろ終わるし、お疲れ様でした」

『え? ちょ、私も一緒n――』


 全く、何を言ってたんだろうかティルは。
 必死に暑さに耐える姿を見て、俺が何も思わないとでも考えているのだろうか? お前の耳が全てを物語っていたぞ。

 眷属のことを大切にするのは当然のことだからな。
 強制送還で送らせてもらった。


「……さて、解析もあと少しかな?」


 聖炎龍の召喚時に光った魔方陣の強度が異常に高いからな。
 中々解析が進まなかったが、どうにか突破できた。
 あとは数枚の封印と扉そのものだけだ。

 ――はて、どんな奴が封印されてるんだ?



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