AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と裏バザー



 始まりの町

 やることがなかったため、今日は初心者プレイヤーへ偽善を行うことにした。
 ……ランダム召喚をやり続けても良いんだがまた『?』付きの魔物が現れてヤバいことになっても困るからな。
 じっくりと調べて法則をある程度理解してから、もう一度やることにするよ。

 ――で、今やっていることの詳細を説明すると。


「おい、おっさん。アンタの武器、詳細が全然鑑定できねぇんだけど」

「んあ? んなもん、商品の情報なんて自分で確かめるに決まってんだろうが。スキルに頼るなんて、お前さんは馬鹿か?」

「ば、馬鹿だと! こっのNPCがぁっ!!」

「えぬぴーしー? お前さん、急にわけの分かんねぇことを言ってんだよ。おい! 誰か治療師をここに呼んでやってくれ! こいつはどうやら頭が逝っちまってるようだ!!」


 俺のその言葉に周りの人たちは笑みを浮かべる。……うん、今までにこのやり取りを何度か見ている人たちだからな。

 俺は現在市場で武器を売っている。
 もちろん、売っても問題ないレベルの商品ばっかりだがな。
 しかし、周りで商品を売っている奴らと異なることがある。――それが、商品の詳細を全く視ることができない点だ。


「ちょ、調子に乗りやがって!」


 俺の発言に我慢ができなくなったのか、商品を視ようとしていた男は拳を振り下ろそうとする……が、


「んなっ! 痛痛痛痛痛!!」

「え? 板だって? そんなら隣のとこでたくさん売ってんじゃねぇか。ほら、店はそっちだぞっと!」


 合気道をイメージした動きで男をそのまま地面に叩きつける。
 そして、木材を売っている隣りの奴の近くにポイッと投げつけた。


「……また、いつも通りでいいのか?」

「ああ、好きにしてくれ」

「そうか……感謝する」


 隣で木材を売っていた男は俺にそう言ってから、気絶した男をどこかへ引き摺って運んでいく。
 ……この先は説明しなくても良いよな。

 ほら、ちょうど聞こえてきた――。


「アッー!」


 ……まあ、そういうことだ。
 いずれ男も『職業:男娼』を手に入れて、表の世界へ帰って来れるだろう。

 この場で商品を並べるのは別に初めてではない。(変身魔法)で姿を偽り、おっさん風の姿になって商品を売っているのだ。
 場所を確保するのに裏世界のボスと取引をしたり、こうしたクレーマーの処分を任せたり……本当にいろいろあったんだよ。

 あ、今俺がいるのは路地裏である。
 丁度ここでティンスとオブリに会ったんだよなー。初心者が本当に買い物で困った時、ここに来るそうだ。表のバザーじゃ買えない物を裏では簡単に売っているからな。
 そんな甘い誘惑に誘われた愚か者が、さっきのようにパクッと喰われるわけ(意味深)。

 そこで偽善者である俺は、ある取引を裏のボスと行った。

 ――俺の商品を買った者に手を出すな。

 色んな力を駆使してそれを納得させ、俺はこの場で商品を売っている。
 ……売ってるんだけどなー。


「旦那。アンさんの商品、いったいどれだけ売れたんですかい?」


 さっきの男と反対側で商品を売っていた男が俺にそう尋ねてくる。
 こいつ、分かってやがるくせに。


「……だよ」

「へ? 良く聞こえないんですが」

「――0だよ! 誰も買ってくれねぇよ!」


 確かに俺の商品は(鑑定)ができない。
 だが、見る人が見ればすぐに優れた物だと分かる物のはずだ。
 ……だが、そもそも優れた奴はこんな所に来るはずがなかった!

 なので、俺の元に来るのは未来の男娼候補ばかりであり、商品は売れずに商品を作るばかりである。


「お前らの分は契約で用意してあるからな。ほら、『ハッピーポーション』だ」

「さっすが旦那! これで仕事も楽になりやすぜ!」


 俺から二ダース分のポーションを受け取った男は、そう言って自分の“空間収納ボックス”にそれらを仕舞っていく。

 あ、『ハーピーポーション』の詳細?
 飲んだ奴が幸せになるドリンクだ。
 別に麻薬成分があるとか中毒性がという、犯罪的な代物ではない。
 ただ……ちょっと強くなれるだけだ……そう、色んな意味で。


「そういや、ボスは元気なのか?」

「ええ、当然でさぁ。あの人はいつもアッシらのことを考えてくれていやす、ボスの体調はアッシら全員で気にしていやすよ」

「そうか。なら、ついでにこれも持っていけよ。不思議と眠気が失せて、栄養も勝手に満タン状態。おまけに元気が百倍になる。臨床実験は俺も含めて何人かで済ませてあるし、お前らの方で一度確認してから、ボスに渡してやってくれ。あの人に倒れられると俺としても不便になりそうだからな。あの人、いったいいつ休んでんだか……」

「まったくでさぁ。旦那が用意したって代物なら、それは間違いなく使えるんでしょう。ボスが本当にヤバくなった時ゃぁ、すぐに使わせてもらいまさぁ」


 そうして取り出した二本のポーションも、男は出現させた異空間へと収納する。

 臨床実験は主に内政官に試させた。
 それによって無限機関のように仕事ができるようになり、とても複雑な笑い方をしていたのが目に焼きついているよ。


「それじゃあ俺は、もう少し店をやってるから。ボスによろしくな」

「……鑑定ぐらいさせてやってやりゃあ、旦那の商品はバカ売れですのに」

「真の価値が分かる奴を、俺はスカウトしたいんだよ」

「そいつぁいけねぇぜ、そんな奴はうちでも欲してますからね」


 そんな会話をしてから、俺と男は自分のやるべきことを行っていく。



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