AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と鬼ごっこ 中篇
鬼ごっこ。
子供の遊びの一つで、メンバーから一人鬼(親)を選び、それ以外のメンバー(子)が決められた時間内逃げ続る。
鬼に触れられた子が鬼を務め、半永久的に遊ぶことのできる屋外遊びだ。
海外では、『鬼と子』ではなく『狐と鵞鳥』、『鷹と鶏』、『狼と子羊』、『コヨーテとおやじ』である場合もあるのだが……そこら辺は、端折っておこう。
今回行われるのは、その派生形である増え鬼である。
子を捕まえても鬼は子に戻れず、子を自分と同じ存在にするために、永遠と子を求めて彷徨い続ける――またの名を屍鬼とも呼べる遊びである(オリジナルネーム)。
生徒たちは、学校に用意された運動場(東の京にあるドームと同面積)の中で逃げ惑う。
相手は、あの講師なのだ。
過去の履歴などと、わけの分からない言葉の羅列で説得されたが……結局は、あの講師なのだ。
かつて、この学校では何度も講師による遊びが提案されていた。
提示された豪華景品に釣られ、並みいる猛者たちがそのゲームへと名乗りを上げた。
――しかし、有終の美を飾れた者は、今までに誰一人いなかった。
一度行われたかくれんぼでのみ、一人だけそれができた者もいたが……その者は講師の関係者であったため、例外とする。
講師が行うゲームは、基本的にルールが単純明快な物が多い。
鬼ごっこ、かくれんぼ、しっぽ取り、達磨さんが転んだ、ドッジボール、サッカーなどなど――本当に、簡単なルールを組み込んだゲームが行われている。
生徒たちは単純なルールにスキルや魔法という色を付け、より超次元な物へとそれらを高めていった。
鬼ごっこならば(念話)で連絡を取り合い、かくれんぼならば(隠形)で身を隠して、しっぽ取りならば(回避)で逃げ続け、達磨さんが転んだならば(体幹)で体勢を維持し、ドッジボールならば(投擲)で威力を高める……などなど、講師が考える以上の工夫を日々重ねている……そう思っていた。
全てが全て、無駄にされていく。
(念話)は結界で連絡を拒まれ、(隠形)は嗅覚による索敵で見破られ、(回避)は道を塞がれ、(体幹)は異常なまでの観察眼に挙動を視られ、(投擲)はそれ以上の体術に阻まれた。
それでも生徒たちが絶望しないのは、講師が行うそれらに付き合うことこそが、将来のスキルアップになるから、という理由が多いだろう。
過酷な状況に置かれることで、スキルは成長しやすい。それは極限までに追いつめられることで、器がスキルを受け止められるように適応するからである。
スキルはあくまで免許証であり、それが完全に扱えるかどうかは個人次第である。
修練に励まば励む程、体はスキルに慣れ、よりスキルを扱えるようになる。
たしかにそうだ、基本的にはそうだ。
だが、講師の育て方は──普通とは少しだけ違うのだ。
この世界で講師は異常なスキルを手に入れたことから、自称する『モブ』を逸脱した特異なスキルを複数所持していた。
それらの性能はとても高く、生徒たちが束になってもそれらに勝つことはできない。
ここで、異界の知識を有する講師は思案する――「レベリングだな」と。
自分の強力なスキルに打ち勝つため、生徒は一心不乱にスキルを高めようと努める。
そうなれば強引にでも器がその異常性に適応して、生徒は今以上に、自分以上に成長する……そう考えた。
……まあ、ここからもまた端折るのだが、その目論見は成功し、生徒たちは世界の外にいる猛者たちと同等のスキルを有していた。
それでも、講師が運営するダンジョンの経験者級がクリアできないのだから、彼らの居る世界のシビアさが痛感できるものだ。
講師はいずれ、生徒たちに選択を求める。
このまま世界に留まるか、それとも世界の外へと飛び出すか。
講師はどちらを選ばれようとも、その生徒が生きるための力を教えようとしている。
……彼らの答えは、ほぼ決まっているが。
◆ □ ◆ □ ◆
「5、4――」
講師は周りで逃走を行っている生徒に聞こえるよう、大きな声でカウントダウンを行っていた。
その隣ではただ一点を見つめ、講師の過去の影が直立している。
今回偶然によるアクシデントが起きたが、生徒たちの熱い要望(と思っている)に応え、影は召喚された。
<次元魔法>と【陰影魔法】の合成により、過去の時空から切り取られたその影は、講師の意思無き人形である。
今の講師と異なり、しっかりとした職に就き、その上いくつもの職を極めたまさにスペシャリスト。
――無職であるのに講師をやっている、そのような矛盾を抱えた現在とは大違いだ。
今回、講師はあるプログラムを組み込んだその影を使い、屍鬼を行う。
「3、2――」
カウントダウンが0に近づいていく度に、生徒たちに緊張が走る。
無音の静寂の中で、講師の気の抜けるような、それでいて体にスッと浸み込む声だけが響いていた。
しかし、これから行われるのは勝つか負けるかの真剣勝負。
己が目的のために仲間を見捨ててでも生き延びる必要のある――命懸けの戦いなのだ。
「1――」
そして、ついにそのときが訪れる。
生徒たちはすでに発動させていた(隠形)やそれに系統するスキルや魔法を念入りに確認し、自分の身がしっかりと隠れているかどうかを把握する。
そんな生徒たちの涙ぐましい努力を踏み躙る言葉が――。
「0! あ、影も更に分身とか使えるし、それらと共有した索敵ができるから気をつけろよ……気を取り直してスタート!」
今、講師の口から発せられた。
『──もっと早く言えよ!!』
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