AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者とウーヌム緊急依頼 中篇



 かつて彼女たちが闇泥狼と戦闘した場所、その周辺へ辿り着く。周囲に魔物の気配はなく、ただ静かな空気だけが漂っている。


「よし、少し休憩だ。武器の点検や体調管理は今の内にやっておけよ!」


 ギルドマスターおっさんの指示に従い、彼女たちもまた、休憩に入る。
 整えられた地面に布を敷き、一時の安らぎの時間を得た。

 俺も一度妖女フォルムに戻り、彼女たちの世話を行う。
 ……うん、予め作った物を配るだけだから簡単だよ。


「はい。今日は味よりもバフ効果の高い物にしたよ。武器は今の間に整備しておくから、こっちに頂戴」


 耐性効果や能力補正の効果を持つ食べ物を並べ、一品ずつ彼女たちに渡す。
 代わりに俺は武器を受け取り、修復を行っていく。

 (生産神の加護)と{夢現工房}によって、俺みたいなモブでも一流の職人のように耐久度の回復ができる。
 木製だろうが金属製であろうが、何でも修理できるからな。いつか彼女たちが職人をギルドメンバーに加えたら、しっかりと技術を叩き込んでやろう。


「メルちゃ~ん、お代わり~」

「はーい、ちょっと待ってねー」


 プーチのオーダーに応え、MP補正がある冷やしパスタを提供する。
 フォークでクルクルと纏めて口に入れ、至福の表情を浮かべてくれている……美味しいみたいだな。

 彼女の杖には宝石がくっついてるんだが、その質があまり宜しくなかった。
 前に一度確認を取ってから宝石を取り換えたら……凄くなりすぎて質問の嵐に遭った。
 反省はしたが、後悔はまったくしてないんだけどな。


「メル、私にも頼めないか?」

「もちろん、だいじょうぶだよー」


 ディオンにはATKとDEFがに補整が入るビーフシチューを用意し、手渡しておく。
 スプーンで一掬いしてグイッと飲むと、ハフハフとしながらも満足げに見える様子だ。

 彼女の装備は、パーティーの中で一番大切にしなければいけない。
 彼女こそがパーティーの盾となる存在であるため、油断をすると重大な危機を招く。
 だからこそ、彼女には最大級の魔改造を施し、絶対に崩されない壁として働いてもらっている……もちろん、ある程度のセーブ機能は付けてあるけどな。

 他にも、ノエルにはCRIの上がる蕎麦、コパンにはMPとDEXの上がる角煮饅、シガンにはATKとDEXが上がる肉サラダ、クラーレには──蕩けるほど甘くて美味しいショートケーキである。

 昔フィールドボスを倒して手に入れた牛から絞った最高級の乳と、植物園で丹精を籠めて作ったイチゴを使用した一品だ。全能力値に補正が付き、リジェネ効果まで付与される代物となっている。

 一口含むと甘さのビックバン!
 俺の語彙力の無さを恨めしく思える程、至高の甘さが待っている。


「……ねえ、メルちゃん。いつもいつも思っていたけど、どうしてクラーレの食べ物だけ毎回甘い物なの?」

「もちろん、ますたーだからだよ」

「アタシたちには無いのかな?」

「うん、ますたーのだからね」

「ええー、頂戴よ~」

「ますたーが良いって言ったら……ね?」

「~~~~~♪」


 グリンッと三人の首が、クラーレの方へとおかしな角度で動く。
 しかし、彼女はそんな様子に気づくこともなく、自家製のケーキを美味そうに頬張ってくれている。
 顔が紅潮し、何やらプラズマ的な何かが飛び出しているように見えるんだが……そんなに美味しいのか?


「無駄よ、無駄。クラーレはね、甘い物を食べている間は意識を失う……そんなこととっくに知ってるじゃない」

「うぅ。でも、諦めたくない」
「目の前にデザートがあるのよ!」
「食べたいよ~」


 シガンはそう言うが、彼女たちはそれでも粘るようだ。
 眷属や国民にも回さないといけないので、そんなに数が無いんだよ。
 そもそも最高級の嗜好品なので、そう大量に生産できない。


「しょうがないなー。なら、アイスクリームでも食べる?」

「「「「「「頂戴!」」」」」」

「はーい」


 一瞬だけ覚醒したクラーレの分も含め、彼女たち全員のアイスクリームを用意してこの場に出しておいた。
 バッと全員がそれを回収した姿には、思わず目を疑ったが。

 さて、俺は装備のメンテだな。
 意識を深層に沈め、半ば本気で生産活動へと取り組んでいった。



 さて、時間はさらに過ぎてボスの手前。
 ここまで来るのに、いったいどれだけのプレイヤーが死に戻ったことやら。
 彼女たちも主人公君も死んではいないのだが、奥へと進むにつれて、出現する魔物の力も強大になってきた。


『―――、―――?』

「ええ、そうね。頑張りましょうね」

『――!』


 主人公君は、ここまで共に戦ってきた彼女たちに話し掛けようとしてた。
 ……なので、再びシガンに代表として会話してもらい、周りのみんなには主人公君の声が入らないように音声をカットする。

 彼がいなくなると、不服の目でこちらをジトッと見てきた。


「メル、私にだけ酷いんじゃないの?」

「(アハハ、お詫びはちゃんと裏で渡しているじゃん。あの量の甘味じゃ許せないの?)」

「ちょっ――」

「リーダー」
「少し」
「お話が~」

「メ、メル! 覚えておきなさい!」

「(うーん、無理ー)」


 もちろん、そんな面倒な仕事を代わってくれていた彼女には、お礼として雪のような口溶けのチョコレートなどを渡している。

 そんな裏取引を知らなかった甘味トリオに情報がバレたシガンは、体育館裏的な感じで少々離れた場所に連れて逝かれた。


「シガン、昔みたいに戻れてよかったです」

「(ますたーが、それを望んだ結果だよ。ますたーがそう望まなければ、私には何もできなかったしやらなかった。ますたーだけが、シガンお姉さんを救えたんだよ)」

「そう……ですね。メルちゃん、ありがとうございます」

「(もう……だから、ますたーのお蔭なんだってさー)」

「それでも、言わせてくださいよ」


 いつも通り、優しい瞳を少し潤わせた彼女は杖状態の俺を撫でて……そう言う。
 いや、微妙にくすぐったくなるから止めてくれ! 主に心と体が。


「おい、そろそろ最後の戦いに行くぞ!」


 丁度いいタイミングで、ギルドマスターおっさんがそう叫ぶ。


「(ほ、ほらますたー、早く行こうよ)」

「フフフ、はいはい。まずはみんなを呼びにいかないとだめですね」


 そうして、クラーレが離れていた四人組を呼び戻し、俺たちは森の最奥地へと向かう。



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