AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者とウーヌム緊急依頼 前篇



 ラントスにはご満足頂けたようだ。
 途中であの・・『ユニーク』のメンバーに遭遇して喜んでいた彼女たちを見て、こっそりニマニマとしていたよ。

 いちおうラントスへの道は、俺以外でも開くことができる。
 眷属の誰かに接触し、ラントスに行くことが可能だ……うん、自分で言っても確率の低い話だと思うよ。
 その呼ばれた奴がラントスで暴れたら、その責任は呼んだ奴が取らなけねばならないからな(俺を除く)。

 ま、そんなラントスで彼女たちは、いくつかのダンジョンに向かった。
『偽・世界樹の迷宮』には辿り着けなかったようだが、いくつか難易度の低いダンジョンの攻略ができたみたいだ。
 こっそりその光景は中継されていて、他の攻略者のヒントにもなるのは裏話だな。

『天魔迷宮』は……ミントにやられたな。
 彼女たちが気付く前に暗殺者のように、一人ずつ倒していった。
 クラーレたち、めっちゃくやしそうだったな~。

 俺がラントスでは全く助力を貸さないことは予め伝えてあったので、今回ダンジョン攻略に手を貸したということは一度もない。
 彼女たちは、彼女たちだけでダンジョンを攻略したのだ。

 ……気分はお父さんだったよ。
 なんかこう、見届けてる感じが。


 まあ、そんな休日気分も終了し、今は町の湿地帯へと続く道の辺りに居る。
 数日が経過し、もう緊急依頼の始めるときが来たのだ。


「──メルちゃん、準備は良いですか?」

「(うん、ますたーは?)」

「はい、バッチリですよ」


 プレイヤーも数百人程集まり、ボス戦への準備はバッチリだ。


「今回の指揮は、ウーヌム支部のギルドマスターであるこの俺が担当する」


 名前は聞いていないが、俺たちはマッスルなおっさんの指揮の下で動くようだ。
 ギルドマスターはたくさんいるであろうプレイヤーたちを、ある程度の成果で振り分けているのだろうか。
 呼ぶ際にギルドランクを言ってるし……。

 主人公君も彼女たちも最前線に選ばれ、レイドボスとの戦闘を行うようだ。

 やはり、主人公君がチラチラとこちらを見ているな。
 彼女たちのことを、自分の物語のヒロインとでも思っているのだろうか?
 まあ、それは無視しても構わないだろう。



 振り分けも終わり、ついに緊急依頼が開始された。
 今回行うのは攻め、防衛戦になる前に闇泥狼王を住処から追い出した存在の討伐をやるわけだな。


「──行くぞ、お前ら!!」

『オォーーーッ!!』


 ギルドマスターが叫び、プレイヤーたちも呼応する。
 武器を掲げ、魔法を光らせ、皆いっせいに湿地帯へ駆けだしていく。


「私たちも行くわよ!」

「メルちゃん、行きましょう!」

「(はーい、援護は任せてねー)」


 彼女たちもそれに続き、陣形を組んで森の中へと向かう。
 俺は長杖に形を変えて、クラーレに装備されている。
 別に剣でなくても俺は装備可能だしな。
 魔法補助の効率を高めるため、今回は剣ではなく杖としてお仕事するぞ。

 それじゃあ、張り切って行ってみよー!



 プレイヤーたちは森の魔物を倒し続け、奥へ奥へと進んでいく。
 そこに闇泥狼は存在しないが、スライム型の魔物や猿型の魔物、色んな魔物が彼らに立ちはだかる。

 だが、どれだけ魔物がいようとも、死を厭わないプレイヤーたちには関係ない。
 時には自分の命をも戦略に組み込み、狂気に等しい行動を行っていく。

 そうした積み重ねは、彼らは奥地へと進めていく。
 そして彼女たちもまた、そこまででは無いが必死に戦い、前へと向かっていった。


「(ますたー、いっそのこと周りの人たちに魔物を嗾けて真っ直ぐ進むー?)」

「どうやるつもりなんですか?!」

「(簡単だよー、ますたーたちの道を整備してから、その道の左右を壁で囲っておくのー。そうすれば、ますたーたちのためだけに造り出された道路の完成だよー)」

「あの頃の私なら、絶対にやってたわね」

「うん、間違いなくやってたよね」


 そうした会話をするぐらいの余裕はあるのだが、表情は少し硬い。
 俺がフルパワーで無双すればすぐに終わる戦いであるが、必要以上に動いて運営神にバレては困るので、見届ける以外の選択肢は取りたくない。


『――――!』


 あ、主人公君? うん、頑張ってるよ。
 シャインと違って【勇者】には就いていないのか、光迅系の能力は使っていないけれども、王道である剣や魔法を用いた方法で、魔物たちを相手に殺戮の限りを尽くしている。

 強いよー、本当に。
 昔戦った頃の、『ユニーク』のメンバーと同じぐらいには。

 あとから初めてその実力なら、本当に凄いと言えるよ。いずれ成長すれば、いつか俺を倒せるようになるのかもしれないな。
 ……うん、俺と主人公君に接点ができないのが一番ありがたそうだ。


「(ますたー、どうするー?)」

「駄目ですよ。それよりメルちゃん、周りの地面を固められますか?」

「(はーい。ますたー、思いっ切り地面を踏んでみてね)」

「こ、こうですか?」


 彼女が俺の指示に従うのと同時に、<箱庭造り>を発動させて地形を整える。
 脚に粘つく泥は固まり、踏んでも硬い感触だけしか感じられなくなるだろう。

 プレイヤーたちもその変化に気づき、誰がそれを行ったかを少し見回す。
 が、すぐに見つけられなかったので、再び戦闘へと戻っていく。


「(む、ますたーの手柄にできなかったー)」

「もともとメルちゃんの力じゃないですか。わたしには、貰えませんよ」

「(良いんだよ。ますたーが喜んでくれることが、私も嬉しいんだからね)」

「メルちゃん……!」

「二人とも、もう少し真面目にやりなさい」

「「(はーい)」」


 楽しみながら俺たちは、森の中を突き進んでいった。



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