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山田 武

偽善者と『白銀夜龍』 その08



夢現空間 修練場


「ほへ~~」


 再び【怠惰】モードへとシフトした自身の体のために、俺は"不可視の手"を発動させて上空でまったりとしていた。

 ……うん、まさかマッサージまでできるとはな。
 最初の頃は力の制御に苦労したが、今ならそういった微細なコントロールも可能になったよ。

 そうしてだらだらと休んでいるが、口の中では鼈甲飴のようなものを舐め回すために活動中だ
 甘ったるい味が口いっぱいに広がるのが、疲れた脳に良いんだよ~。


「にしても頑張ってるな~」


 地面を覗くと、眷属たちがたった独りを相手に協力しながら、戦いを挑んでいた。
 だが相手もそれを相手取れるほどに強者であるため、戦いは激化の一途を辿っている。

 ……いろいろなことがあったものだ。
 俺はこちら側に戻って来た際の出来事を思い出し、そう考える。

 今回はガチでヤバい闘いだったので、日常に用いるさまざまな機能をOFFにして闘いへ向かった。
 その影響で眷属の大半が、今まで行っていた盗聴方法を取れなかったらしい。
 ……うん、この時点でいろいろとおかしい気もするが、そこら辺はもう慣れだな。

 そのため、情報を知れる眷属の元に他の眷属が集まっていたらしい。
 そしそういったことからなぜか、帰って来た俺は様々な批判の嵐を受けることになったのだ……本当に、なぜそんな目に?

 曰く、『せめて動画配信ぐらいしてください』とか『ごしゅじんさま、ぼくたち凄ーく心配したんだよ』とか、『おいおい、連絡ぐらいつくようにしようぜ? 今回俺もかなり仕事させられたんだぞ? ったく……あ、美味い飯で手を打とうじゃないか』などと言われたな。

 最後の奴に関しては、冗談九分九厘で媚薬入りと言って、Mの店のバリューセットをプレゼントしたぞ(そのとき、なぜかソイツの相棒が舌舐めずりをしていた光景を、俺は見てしまった)。


 まあ、とにかくいろいろあったわけだよ。
 あれから、体感で一週間ほど経っている。

 本当に、やる気が湧いてこないものだ。
 既に膝枕療法はやってしまったからな、長時間やる気を継続することはできなかった。

 俺に色んな意味で勇気があれば、山脈やムチムチを枕に寝ることもできるだろうが……桜桃にそれは無理だ!
 一応でも【色欲】を持ってるんだけどな。


『主様よ、儂の戦いはどうであったか?』

「……すまん。正直、黄金糖と最近のことを思い返していたから観ていない」

『……むぅ。ならば、儂にもその黄金糖とやらを寄越すのじゃ』

「へいへい、ゆっくり舐めろよ」


 何が『ならば』なのかは知らないが、顔をムスッとさせている目の前の女性に、俺は自身の舐めていたのと同じ鼈甲飴――通称黄金糖を渡した。


「それで、みんなはどれくらい強くなれそうだ? ソウ」


 ……ああ、説明を忘れていたな。
 目の前にいるのは、銀龍改め名を『ソウ』と言う。
 理由は植物の一種『ギンリュウソウ』だ。
 俺のセンスはもうどうしようも無いから、気にしないでくれるとありがたい。

 ソウは俺の質問に、腕組みをしながら答える……ワォ、乗っかってるよ。


『うむ。儂のお蔭である程度は向上してようじゃ。これは褒美の一つや二つ、あるかもしれんのう』

「へぇ~。本当にソウ自身がその戦闘力で満足しているなら、褒美について、考えないこともないんだがな」

『……むぅ、その言い方は失礼ではないかのう? 主様よ』

「そうか――なら、止めようか」

『そ、そうは言ってはなかろう。儂はただ、今までの功績を認めてじゃな……』

「……ハァ? 功績も何も、ただ舞台から一歩も動かず眷属たちを弾いてるだけだろ? ソウのやっていることを客観的に言ったら、所詮それしかできてない能無しって結果しか残ってねぇんだよ。大体、最強の生命なんだろう? なら、なんで俺に負けてるんだよ。なんで眷属たちとの戦いで掠り傷が付いてんだよ。本当に駄目だな、ソウは」

『~~~~~~~~ッ!! も、もっと、もっと罵ってほしいのじゃ、主様!!』


 ……ここ最近、俺の心身を最も悩ましているのがソウのこの性癖である。

 これは俺が原因とのことなので、仕方なく責任を取って、時折こうして対処している。
 甘い言葉でも喜ぶと言えば喜ぶのだが、罵ると悦ぶので……仕方なくやっているのだ。
 まあ、今のセリフに関しては素で浮かんだものだけどな。


「……さて、アイツらはどれくらいしたら俺に勝てると思うか?」

『……放置プレイは勘弁してほしいのじゃがのう。お主の眷属じゃ、そう長くない内に儂らと同格の力を手に入れるじゃろう』


 落ち着いたソウが答えてくれる。
 ……同格、か。

 修練場に置かれた一つの門を見ながら、俺はソウに尋ねる。


「ソウは最強の生命だったんだよな」

『……うむ。主様に貫かれるまでは、神すらも撃退する最強の生命じゃったよ。それがどうかしたのかのう?』

「いや、俺はどうせなら最強より、無敵になりたいなってさ」

『無敵か。この世界にその言葉を冠することができる者は、神を含めても存在せぬじゃろうて。何せ、生命は生きているだけで敵を生むからのう。敵がいない者など、その者以外に生命が存在しない世界にしかおらんじゃろうに』


 最強には誰にでもなれる可能性がある。
 強くさえなれば、その最終到達点が自動的に最強になるのだから。

 なら、無敵はどうすればなれるんだ?
 敵が一人もいない環境にする?
 ……それこそ不可能だろう。
 誰かと関係を持てば誰かの反感を買う。
 誰とも関係を持たないならば、それもまた反感を買う。
 リアル人生ゲームはそんなものだととあるゲーマーは言っていたが――要は無敵は不可能に近いってことだな。


「……まあ、自分の手が届く範囲での無敵なら可能なんだろうけどな。自分の知っている奴の中に敵がいるかいないか……それぐらいだったら、まだどうとでもなるのかな?」

『主様は無敵になってどうするのかのう?』


 ソウが尋ねてくる。
 う~んと……クソッ! 『そうだな~』って言えないから面倒だ。


「……偽善者として行動するだけだよ」


 敵がいないなら、思う存分活動ができるからな……あのときと違って。
 少し下がったテンションを盛り上げ、この後はただソウと色々なことを話した。
 なじることも忘れずにやったぞ。



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