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山田 武

偽善者と『白銀夜龍』 その07



「おい、さっさと起きろ(――"完全蘇生")」


 アマルたちのときよりもごっそりとMPを持っていかれたが――それでも魔法は正常に発動する。

 殺した後に飛んでいた魂は、【強欲】と<領域干渉>によって回収済みだ。
 再び魂が器へと戻った銀龍は、いずれ目を醒ますだろう。


「……ぁ、MPを使い過ぎたな。……いや、それだけじゃないな、これは」


 一瞬立ち眩みを感じ、フラッと踏鞴を踏んでしまう。
 <久遠回路>は発動し続けているのだが、発動したはずの"完全蘇生"を通じ、さらにMPが減らされている。
 このままだと……いずれ底を尽きるな。


「チッ……。ならせめて、契約の履行だけでもさせてもらうぞ」


 フラフラと銀龍の体へと近寄り、俺は自身の右手を体へと押し当てる。
 その瞬間、視界は真っ暗になり――俺はそのまま地面に倒れ伏した。
 ……嗚呼、雲の感触が気持ちいいや。


  ◆   □   ◆   □   ◆


特殊思考内


《ん、頑張ったね》

「(リープ、今回は自分でも、俺が頑張ったと分かるよ……死にかけたし)」

《ん、それはいつものこと》


 [神代魔法]で予め<千思万考>に使うMPの準備をしていたので、こうして特殊思考内での休憩が行えている。
 ステータスを覗いてみると、『状態異常:魔力枯渇』に陥っていた。
 銀龍の奴、どんだけ持っていったんだよ。

 リープ以外の人格は……またいないのか。
 全く、こんなときぐらい、一緒に居てくれても良いだろうが。


《ん、他のみんなは覚醒していない武具っ娘たちと話してるよ》

「(え゛? 話せるの?)」


 俺、覚醒していない武具っ娘と話せるならいろいろと訊きたいことが――


《ん、貴方は無理だけどね。あくまで同じ精神体だからこそ、できること。器が現実にある貴方は不可能》

「(精神体だけにもなれるけど……そういうわけじゃないんだよな)」

《ん、だから諦めて。貴方が本当に必要とすれば、必ず応えてくれる。ただ、今の貴方が心の底から力を欲する可能性は低い。
 あの龍はあの世界で最強の生命だった。それを倒せた今、貴方が武力を欲する必要は無に等しくなった》


 ……銀龍って、世界最強だったんだ。
 ありふれていない無職でも倒せるんだな。
 だけど、確かにそれが本当なら武力は必要なくなる。
 この後ハードモードで生きろとでも言われたら、話は別なんだろうが。


「(今回は回復にどれくらい掛かるんだ?)」

《ん、貴方が銀龍の体に回復阻害を付けたから、銀龍の体はその損傷を無理矢理再生するために、繋がっている貴方の魔力を吸い上げている。だから回復するのは、銀龍の再生が終わってからになる》

「(うわ、凄い時間がかかりそう)」

《ん、『あれから、しばらくの時が過ぎた』で誤魔化せるぐらいには長い》


 それって、結構長いってことだよな。
 俺が使うと大体リーがツッコんでくれるから問題なかったけど、普通それって本当に何年か経過してるし……。


「(ま、<千思万考>の速度を調整すればそこはどうにでもなるか)」

《ん、夢現空間と世界の方も調整しておく》

「(お、ありがとうなリープ)」


 微細な調整は苦手だからな。
 こういう自分に都合が悪いことは、誰かに任せる方が一番だ。

 しばらくリープと話していたのだが、時間を調整した甲斐があったのか、すぐにその時は訪れた――


《……ん、もうそろそろ貴方は目覚める。銀龍も回復したみたいだから》

「(どんぐらい時間は経ったんだ?)」

《ん、そこまで過ぎて無い。貴方がアレを先にやっていたから、色々と手順が早まった》

「(……本当にやっといて良かった。なら、そろそろ行くよ)」

《ん、いってらっしゃい》

「(は~い、いってきま~す)」


 リープと挨拶を交わした後、俺は現実へと帰還した。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 軟らかい。
 雲のような感触を感じていた俺の体は、なぜか頭だけが別の感覚に包まれていた。

 柔らかい。
 手応えが無いと言うわけでも無く、押せば気持ち良い感触が反発する、ちょうど良い硬さも併せ持っていた。

 ……はて、そんな感触を最近経験した気がするな~。
 いつのことだっただろうか……。


「……あ、レミルの膝枕だ」

『む。目覚めたか主様ぬしさまよ』


 声が聞こえた頭上を見ようとするが、山脈がそこには聳え立っており、声の主を見ることはできない。
 聞こえてきた感じからして、たぶん女性。
 このパターンはもしや……。


「もしかして、銀龍か?」

『その通りじゃよ、主様』


 顔は未だ確認できていないが、それが銀龍だということは分かったな。
 確かに……<八感知覚>で感じ取れる魔力波は、少しだけ変質しているとはいえ銀龍のものだ。

 目に見える範囲には、戦闘中に見ていた銀龍の鱗と同じ色で構成された、新品同然の服装が確認できる。
 それは中性的な服装だが、暴力的なまだに強調された山脈が銀龍が女性であることを教えてくれる。


「えっと……女性、だったのか?」

『いや、本来の儂に性別はなかったのだが、一度だけ性別を選ぶ機会があるのじゃ。今まではどうでも良かったので選んだなかったのじゃが……今は、な』

「……Oh」


 リョクみたいなセリフを言う銀龍に、正直もう一度気絶をしたくなった。
 が、眷属も心配してるし、そろそろ帰らないとな。


「もう分かってると思うが、俺の願いは銀龍が俺と共に居てくれることだ。俺が寂しいってのが一番の理由だが、他の理由に戦力が欲しいってのもあるな。俺の眷属たちはいろいろと訳有りなのが多いからな。それをどうにかするための力が欲しいんだ……駄目か?」

『ふむ。儂は何番目でも構わないからのう。特に反論はないぞ』

「……いや、何の話だよ」

『何と言われても……ナニの話じゃろうが』


 この後、銀龍にもう一度丁寧に説明を行ってから――俺は{夢現空間}を発動した。



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