AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と『白銀夜龍』 その05



「……なあ、合格まであとどれくらいってところだ?」

『ふむ、そうじゃのう……これまでの攻撃を百倍にしたものを、あと百回と言ったところじゃろうか』


 無理ゲーだな、今のままだと。
 今まで使ったことの無かったポーションを口にして、再び銀龍と闘いを行う。
 水晶の形を槍へ変え、両手で強く握り締めて構える。


「なら、一万倍の一撃を放てばいいよな? 見せてやるよ、その一撃を!」


 とあるスキルを発動させて、俺は今まで維持し続けていたスキルを停止させる。
 そして、真紅の槍を握り締めて……動く。


「抉り穿つアレ! ("屠龍之技・槍雷")」

『……これは面倒な』


 高速で投擲した槍は武技の効果を受け、雷が如き速度で銀龍へ向かっていく。
 それを投げた衝撃により、俺の体も悲鳴を上げそうになるのだが――<物質再成>によって体は即座に復元しておく。

 銀龍は息吹で槍を掻き消そうとするが、異常なほどMPを籠めたので、それが叶うことはない。
 だがそれでも、光に匹敵する速度になかなか追い付かない……ならば――


「("転移眼")――蹴り穿て! ("光転蹴")」


 オーバヘッドキックの体勢になってから、槍の元へと移動して……それを蹴り飛ばす。
 腕力よりも優れた脚力で蹴られて銀龍と同等の速度を手に入れた呪いの槍は、その姿を三十の鏃へ変えて再び銀龍へと切迫する。


『舐めるなぁああ!』


 銀龍がそう吠えると、衝撃波と共に銀龍が光り出す。

  ――それは、大気中の塵が光っているのだろうか。銀龍の周りはまるで朝焼けのような美しい光景に見て取れる。

 だが、そんな光景は一瞬で終わる。
 禍々しい鏃はそんな幻想を穿ち、銀龍へ到達する。
 それでも光の影響か、心臓を穿つことはできなかった……が、一千万という膨大な量のMPを注ぎ足したその鏃は、命中した部位で弾けて肉を抉り取っていった。


「なあ銀龍、これならどうだ?」

『……若造が、舐めた真似をしてくれるわ』

「おいおい、ちょっと力を解放しただけじゃないか。銀龍がそうさせてくれたんだ、お礼はたっぷりするぞ」

『……その技、いや、それ以前にその体。既に動くだけで壊れているではないか。身の丈に合わないそれは、そのままでは儂が手を下す前に崩壊するぞ』

「大丈夫大丈夫、俺は銀龍を満足させるまでは止まらない。俺を心配してくれるなら、早く俺の勝ちにしてくれないか? 少しずつ生命線が切れて逝ってるからさ」

『体の傀儡のように操り、無理矢理最適な動きを取る……か。お主の限界がどこにあるかは分からんが、先ほどまでの動きがお主の自壊せずにいられる限界であったのだろう? そのような方法で無茶をするならば、少しでも操作を誤った時……死ぬぞ』


 銀龍のセリフは大正解だ。
 今の俺は、{他力本願}によって制御していた(実力偽装)を解除している。
 様々な補正を受けた今のステータスは、眷属たちを相手に舐めプが可能になるほど、向上している。

 しかし、代償として少し体を動かすだけで俺の体を内側から崩壊していく。
 体の筋という筋がブチブチと千切れ、引き締められすぎた骨がバキバキと砕ける。
 <肉体支配>で立つことは維持できるので支障は無いが、普通ならばその痛み、耐えることはできないだろう。

 俺はその痛みを【忍耐】で耐え抜き、<物質再成>で即座に復元――これを思考の一部で常時行うことで対応している。
 だが、これはかなりのMPを奪っていく。
 今も<久遠回路>が駆動し続けMPを補給しているが、レベルアップを既にかなりしていても追いつかない。
 凄いレベリングになってるんだよな~。


『槍に面妖な呪いが掛かっていたな。お蔭で再生が止まっておる。しかも、お主が死なねば解けないとは……よほど逝かしてほしいと見るぞ』

「そうだな、俺は銀龍に生かしてほしいと思うぞ。なのに、どうしてそのタイミングでそれを言うんだ? :言の葉:に不備でもあったのか?」


 どうして生存アライブを望んでいるのに、死亡デッド志願者みたいな見解になっているんだ。

 ――まあ、今は置いておこうか。

 槍に持たせた回復阻害によって、銀龍の傷が癒えることはない。
 これで時間を置けば置くほど、出血によって銀龍は衰弱していくだろうな。
 鱗の隙間からは、今も血を流しているので間違いない。
 運が良ければ毒も付与されるしな……あ、凶運だからそっちは無理か。


「さて、お次はもう一本追加だ。耐えてくれよな、銀龍(――"分裂")」


 俺の右手に握られていた槍が光を放つと、左手にも同様の槍が握られる。
 ……本当は回復阻害にかかるMPの消費が激しいから使いたくなかったんだが……そういうわけにもいかないか。

 俺がそんな風に思いながら銀龍と相対していると――突然、笑い声が聞こえてくる。


『……ククッ、面白い。面白いぞお主……いや、メルスであったな。認めよう、お主が儂に魅せてくれたその力。じゃが、まだ儂は満足しておらん。生と死の狭間……それこそが命を燃やす篤き闘いじゃろう!』

「俺はそこまで戦闘狂じゃないんだけどな。なら、俺も命を賭けてやるからよ、銀龍が負けを認めたら俺の願いを叶えてくれよ」

『ふむ。相応の対価と言うヤツか。正直つり合わないとは思うが……まあ、面白いと思わせてくれた礼だ。希望を持たせてやろう』

「つまり、了承ってことで良いな?」

くどいのう。それで良いぞ』


 よし、言質は取った!
 これで闘う甲斐が見つかったな……死ななければだが。


「俄然やる気が湧いてきた。なら、俺も全力で逝かせてもらうぞ!」


 再び体へと指示を送り、俺は銀龍へと猛スピードで突っ込んでいく。
 ――そろそろ決着をつけるぞ。



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