AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と『白銀夜龍』 その01



???


 かつて、その龍は望むのを止めた。
 自分を傷つけることは、例え神にすらできない――その時はまだ、そう思えたからだ。

 幾百の刻を過ごしている内に、たくさんの者が自分へと挑んで来た。

 中でも記憶に残っているのは――勇者、魔王、聖人、龍王、海王、妖精王、異世界人、転生者……そして神。

 誰も彼もが何らかの目的を持って、その龍へと戦いを挑んでいった。
 だが誰一人として、その目的を果たした者はいなかった。

 勇者の斬撃は鱗に届かず、
 魔王の魔術は鱗に届かず、
 聖人の一撃は鱗に届かず、
 三者は何もできないままに消えて逝った。

 龍王の一息は吹き消されて、
 海王の波動は掻き消されて、
 妖精王の魔法は掃き消されて、
 三者は圧倒的な力を前に諦念の意を感じ、去っていった。

 異世界人の不可思議な技は対応され、
 転生者の特典は即座に捻じ伏せられ、
 神の裁きの鉄槌は全て撥ね除けられ、

 三者は関わる必要が失せる存在に、向き合うことを止めた。



 長い時を経て、その龍は安寧の地を手に入れた。
 誰も邪魔することもない、雲の世界。
 その龍はただ惰眠を貪り、いつか来るかもしれない『まさか』の可能性を信じ、ただひたすらに過ぎる時を生きていた。

 ――だが、止まっていた時は動きだす。

  ◆   □   ◆   □   ◆

中心部


「……よし、準備オッケーだな」

《本当に、お独りで行くのですか?》

「(今回は、思考もフルに使えるようにしておきたいんだ。別に盗聴を止めてくれと言っているわけじゃない。ただ、返事ができないと言っているだけだろ?)」


 今回は天上に居るという強者に会うため、島の中心部へとやって来た。
 上に登るためには、真っ直ぐ行くことが必須らしい……どうしてだろうな?

 アイテムや装備、スキルなどの点検を終わらせると、アンからの念話が届いた。
 ……うん、今までの強者には悪い話なのだが、戦闘能力はさておき、思考はかなりの余裕を持って邂逅していた。
 特に<千思万考>が成長してからは、どれだけ使おうと余るぐらいには余裕があったな。

 だが、かつてグーが全力を解放すれば戦えると言った次の強者。
 俺の全力とは、制御不可能な能力値を使うということだ。

 それをすれば俺は身を動かすだけで自壊するだろうし、恐らく一撃で決められないならば、勝つこともできなかっただろう。
 思考能力をフルスペックで使えるなら、もしかしたら勝算が上がるかもしれない……という理由の無い考えによって、念話が使えないような状態に陥ることが決まった。


《ですが、もしものことがありましたら……迷わずに救出に向かいますよ》

「(……もともとプレイヤーって、死に戻りできるはずなんだけどな~。どうしてこうも、命を賭けたデスゲーム的な展開になったんだろうか)」

《最初からでは?》


 うん、そうなんだけどな。
 {感情}を取るその前、『分からず屋』を入手した時から、もしかしたら始まっていたのかもしれないな。
 あの行動の末に、山へと向かっていたのだし……。


「(さて、そろそろ行くよ。この後念話を切るから、連絡はつかなくなるぞ)」

《……はい、くれぐれもご自愛を》

「了解しま~す……っと」


 アンとの念話を終了し、思考の一部を割いて行っていた念話受信の常時化を終了する。


「よし、それじゃあ空を飛ぶ前に――」


 一呼吸するごとに、詠唱擬きを行う。
 特に理由はないが、言葉による暗示にも頼りたくなるぐらいに追い込まれているんだ。


「さぁ、始めよう。全ての力を引き上げて(――"全能強化・不明")」

「さぁ、始めよう。体の中を作り変え(――"異端種化")」

「さぁ、始めよう。己の限界を乗り越えて(――"限界踏破")」

「さぁ、始めよう。現人神のその先へ(――"神眼""神手"……解放・"神体""神血""神脚""神口""神耳"……限定解放)」


 今回の(異端種化)、それはいつも使い方である種族をミックスする効果を発揮しない。
 いつの間にか記されていた新たな能力――身体能力のリミット解除を行ったのだ。

 いろいろとスキルを重ねているので、こうでもしない限り、十全に闘えないだろう。
 繊細なコントロールは有り余る思考能力で補えるので、今回はこれも使えるな。


「それじゃあ、上にレッツゴー! (――"神翼生成")」


『創糸の天衣』に魔力を流し、生やした翼と(飛翔)を使って大空へと飛び立つ。



 そこからは順調とまでは言えないものの、ある程度は簡単に進んでいけた。

 終焉の島の上空に浮かぶ鉛色の重たい空を超えようとすると、まずその厚さに驚いた。
 雲に掛かった結界を破り入ると、大海のように壮大な水の世界が広がっていたのだ。

 そこには初めて見る水中生物の他、弱めの竜などが生息していた。
 初めての水中戦だったが、今回は既に発動しているスキルたちの維持に魔力が使われている。
 なので今回は『不可視の手』を発動し、道中の魔物を一気に掻き分けて進んでいく……あとで狩りに来ようか。

 (呼吸不要)や(水中呼吸)が無ければ死んでいたと思えるぐらい、水の中を進んでいく。
 時に現れる魔物は弾き飛ばしていき、上へ上へと昇っていった先に……ソレは存在していた。


 久しぶりに拝む太陽……最初はそう思っていた。
 だが、その光はソレが放つものであった。
 ソレの持つ鱗に仄かな光が反射し、まるで日の入りか日の出の陽光かと錯覚してしまったのだ。

 ソレは、巨大な体を持っていた。
 ソレは、巨大な翼を持っていた。
 ソレは、巨大な尾を持っていた。

 ――ソレは、巨大な龍であった。

 辰と龍を継ぐ劉や、龍と吸血鬼を継いだ吸血龍姫とも異なる……純粋な龍であった。

 だが、その圧迫感は彼女達を遥かに超えるものであった。
 ただ君臨するだけで、その龍はナニカを感じさせる気配を漂わしている。

(ま、それで諦めるわけにはいかないがな)

 ゴクリと生唾を喉に流し込み、その龍へと声が届く範囲へと向かう。
 そして、挨拶をしようとした――


「よ、よぉ『――誰だか知らないが、儂の眠りを妨げた罪。贖ってもらおう』」


 言葉を遮られて放たれたその言葉と共に、世界が銀色に包まれた。



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