AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者なしの『極塔之主』 その03



 そして、来訪者がここに現れてから丁度一時間後……彼女たちにとって、とても懐かしい音が鳴り響く。
 それと同時に、少女が操作していた透明なパネルに書かれていた内容も書き換わっていく――

 ブー ブー ブー ブー ブー ブー

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ダンジョン『凶楽の花園』から、ダンジョンバトルの申請を受けました

ルール:無制限

勝利条件:コアルームへの到達

     申請を受託しますか

   〔はい〕    〔いいえ〕

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「『凶楽の花園』ねぇ……コア、そんな名前のダンジョンあったっけか?」

《いえ、ワタシには心当たりはありません》

「……となると、俺たちが飛ばされた後に成り上がったか、全く別のダンジョンってことになるのか……へっ、面白ぇじゃねぇか! 良いぜ。相手が誰だかは知らねぇが、挑まれたからには受けて立つ。それこそ、『天極の塔』が今までやってきたものってもんだ!!」

 少女は波動を放つスイッチを押すように、握り拳を〔はい〕の方へ叩き付ける。

 すると警告音が止まり、画面が再び元の内容へと戻る。
 コアもまた、ダンジョンバトルを始めるための設定を主の代理で行っていく――

《――受託を相手側が確認しました
 これより"天極の塔"は、対ダンジョンバトル用のシステムを起動します――

 第01~10階層――クリア
 第11~20階層――クリア
 第21~30階層――クリア
 ・
 ・
 ・
 第91~99階層――クリア
 コアルーム――クリア

 ――全ての階層をバトルモードへと変更しました。これより五分後、ダンジョンバトルが開始されます》

 4:59

 コアがそう告げると、少女の画面の端の方に、カウントダウンが表示される。
 少女が観ている画面には、自ダンジョンの第一階層の様子映っており、そこから繋がる入り口を確認していた。

 ダンジョンバトルでは、互いのダンジョンの入り口が魔法によって繋がる。
 それによって、相手のダンジョンへとNPCを入り口から送り込み、攻略を行うのだ。

 今回の場合、相手が彼女たちに勝つためには百階層を登らなければならない。
 当然、罠や防衛用の魔物も用意してあるため、辿り着くのは至難の業である。

「五分って、結構速いな」

《マスターならば、これだけあれば充分かと思いまして。それに、これならば相手も苦労しますし――一石二鳥ですよ》

 4:30

「……だから、二匹目の鳥がいないんだろ。
 まあ、良いか。コア、偵察用の小動物を数匹と、ゴブリン辺りを十匹ぐらい召喚だ」

《了解しました――
 Dラットを五匹(DP-50)、続いてDゴブリンを九匹(DP-135)、そしてDゴブリンシーフを一匹(DP-20)を召喚……成功しました》

 画面に映る第一階層に、複数の魔方陣が展開される。
 そこからは、彼女達が話し合って決めただけの数の魔物が出現していった。
 それを確認すると、再び作戦の相談を行っていく。

 4:00

「あとは……何か用意するものはあるか?」

《防衛の方はどうなってますか? 何か、特別な策などは》

「大体いつも通りだな。罠は全部作動可能な状態にしてあるし、魔物も配備してある」

《……何やら嫌な予感がするのです。自我を得たのはこちらに来てからですが、今までの記録から考えても、今回のダンジョンバトルは一筋縄にはいかない気がして……》

「そうなのか? なら、もう少しダンジョンの難易度を上げる工夫でもしてみるか」

 再び画面をダンジョンを改造する為のものにして、一つ一つ丁寧に確認していく少女。
 彼女にとって、コアの予感とは未来視に近いものと定義付けられている。

 それには、この世界にやって来たからの長い長い話があるのだが……それはまた、別のお話で。

 要するに、彼女はコアの言葉を全面的に信じているのだ。
 例えそれが理解不能な発言であったとしても、必ず意図があると思っている。

 ――それ故に、コアが嫌な予感がしたというのならば、ダンジョン運営を始めてから最高に厳しい戦いになると悟ってしまう。

 2:00

「……ふぅ。こんな感じでどうだ?」

《これ以上は……改変のしようがありませんね。仕方がありません、これで良しにしておきましょう》

「おい、なんだよその言い方」

《いえ……ただ、本当に危険な戦いになると思われます》

「……そんなにヤバいのか? 連絡役だか何だか知らねぇけど、少なくともあの女は魔物じゃなかったし、戦闘力もそれなりにあったぞ。だけど、俺たちが恐怖する程でもなかっただろ?」

《はい。あの映像を元に解析したところ、彼女はスキルによって創られた存在だということが解りました》

「ん? あの戦闘力でスキルってなると……本体がソレ関係の特化型でもない場合……」

《あの女性の数百倍は強いでしょう。さらに言えば、創れるのが一人と限られているわけではありませんので、あの女性が同等……いいえ、それ以上の戦闘力を以ってここを攻めて来たならば……》

「そりゃあ不味いな。今更新したダンジョンで勝てるかどうかって瀬戸際なわけか」

 少女は思案する。
 このままでは苦戦は確実である。
 だからと言って、新たに魔物を召喚するだけでは状況は打破できない。
 と、すれば……。


「――俺も出るかな? コア、俺はちょいと武器を見繕ってくるから、留守番を頼む」

《! マスターが直接乗り込むのは本当に危険ですよ。それこそ、マスターに死が訪れる可能性も――》

「それでも、やらなきゃいけないことってのもあるんだろうよ。それが男ってもんだ!」

《……今は女ですけどね》

「うるせぇ! カッコ良く決めさせろっ!」

 緊張した雰囲気を笑い飛ばし、彼女たちはダンジョンを整えていく。
 いつしか双方が認める防衛が完成し、手は尽くしたと話し合う。

 ――そして、そのときは訪れる。


 TO BE CONTINUED


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