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山田 武

偽善者と『吸血龍姫』 その03



「吸血鬼と言ったら……夜は強くて昼は弱いイメージが強いけど、フィレルは絶対違うよな。俺の聞いた話によれば、太陽に愛されてるらしいしな(――"サンランス")」

『そう言いつつも、太陽の力を感じる魔法を撃って来るね……だけど無駄さ!』


【極光魔法】により放たれた陽光の槍は、彼女の体に触れた途端――消えてなくなった。

 現在の彼女は体の部分部分に龍と吸血鬼の身体的特徴を出現させ、俺との戦闘を行っている。
 瞳は真っ赤に染まった縦に裂けた龍眼。
 爪が鋭く尖り、犬歯が口から見えている。
 服装としてはそうだな……紅と漆黒と陽光の色をふんだんに使った、最小限の装飾がされた戦闘用コンバットドレスだな。
 華美な装飾は無いのだが、それ故に彼女の綺麗さを際立たせる……それだけは俺でも分かるぞ。

 って、何で装備の説明をしていたんだっけか……ま、いっか。
 それより、彼女を相手に奮闘しないとな。


「太陽の力を感じるのも当然、【極光魔法】はオーロラの力を使う魔法だ。とある地域においてオーロラは、龍や神、戦乙女だとも信じられていた。その中には太陽神としての伝承も残っているんだ(――"ムーンランス")」


 そして、【光芒魔法】は光線や軌跡を司る魔法だ。
 ――その中には、月柱も含まれている。

 要するに、【光芒魔法】は太陽、月、光を操る魔法なのだ。
 俺が"ムーンランス"という、いかにも月に係わる魔法を使うのには、そういう理由があるんだよ……って、ありゃりゃ。


『吸血鬼に月の力が効くと思ったのかい?』

「デスヨネ~」


 あっさりと消失した月の槍を見て、俺はそう言わざる負えなかった。
 いや、分かってはいたけどさ。
 いくら太陽が効かないからといって、月が効くというわけでもないのは。

 でも、相反するものってのは一度試してみたくなるものだろ? ――そう、ロマンだ。


「それじゃあ、次の魔法いってみようか(――"劉軍行列")」

『これは……!』


 かつて発動した"竜軍行列"、それを強化した新合成魔法だ。
 龍と辰、それにシュリュのような劉が出現し、彼女へと襲い掛かる。

 それぞれのドラゴン×全属性を創生したから、少々の時間稼ぎぐらいにはなるだろう。


『舐めんじゃないよ、この程度!!』


 ――と言って、俺の方へと向かいながらドラゴンたちを屠っていくのだが……ドラゴンたちも必死に彼女へ食らい付いているため、中々俺との距離を詰めることができない。

 その間に、俺は今まで行っていなかった強化を一気に行っていく。


「さぁ、始めよう。全ての力を引き上げて(――"全能強化・不明")」

 その言葉で、俺の力は自身の限界まで高められる。
 ――それでも、人の身のままだ。

「さぁ、始めよう。体の中を作り変え(――"異端種化・勇魔:聖骸:英霊")」

 その言葉で、俺の体は人外のものへと変貌していく。
 ――それでも、超越者には届かない。

「さぁ、始めよう。己の限界を乗り越えて(――"限界踏破")」

 その言葉で、俺は強者へと至る。
 ――それでも、神には敵わない。

「さぁ、始めよう。現人神のその先へ(――"神眼""神手"……解放・"神体""神血""神脚"……限定解放)」

 その言葉で、神の領域へと届く。
 ――それでも、手を伸ばせただけだ。


「……と言っても、これ以上は無いしな。そもそも何で口に出して言ったんだろうな。別に今のセリフに意味なんて無いのにさ。まあ言っててテンションは上がるから、言霊は偉大だなって思えたかもしれないな、うん」


 詠唱……カッコイイよな。
 無詠唱派の俺でも、さっきのなんとなく詠唱は楽しかったんだよ。
 ……どうだった、リア?


《……ブフッ》

「おい、絶対笑ってるよな? その声は、頑張って笑いを押し殺そうとしている時のヤツだよな? 今絶対、シリアスなシーンだった気がするよ。……あーもう! やっぱり主人公みたいなセリフは似合わんじゃないか!!」


 やっぱりこういうのは頭のおかしい爆裂娘とか、痛々しいセリフでもカッコ良く言える主人公じゃないと駄目なんじゃないか!
 どうせ俺には一生無詠唱で黙ってスキルを使うことしかできないんだろ……。


《そ……そんなことない……ブッ!》

「おーい、姫様が出しちゃいけないような音が聞こえてきますよー。それで良いのかお姫様ー……というか、日本の知識を吸収した姫様を、今さら姫様と呼べるのだろうか」

《ひ、酷いことを言うね君は……ブフッ! こ、これでも根っこの部分は変わってないんだよ》

「笑いながら言うことじゃありません!」


 こっの、オタク姫は!
 自分がどれだけネタについてこれるようになったかを思い出せ!


《そうだ、良いことを思いついた! ぼくがこうなったのも全て、メルスのせいじゃないか! ここは一つ、責任を取ってもらうということで――どうだろう……》

「何が『どうだろう……』だ! 今この状況で了承すると思ったのか! ほら、見てみろよ。そろそろ迫って来て……ってもう全滅してるじゃないか! てか、どこにも関連性がねぇよその理論!」

《……じゃ、じゃあぼくは君を見守ることに専念するよ。が、頑張ってね♪》

「リアーー!!」


 作業の半分もできてないじゃないか!
 どんだけリアと話し込んでたんだよ!
 ……ま、その会話を楽しかったから、別に良いんだけどな。

 ――少しギアを上げれば充分か。


『次はアンタの番だよ!』

「いや、次はお前の番だ(――"器想纏概")」


 とある魔法を発動させると、俺の近くに色鮮やかな宝珠が出現し、クルクルと回るように飛び交っていく。

 ……さて、この紹介だけでどれだけの珠が浮いてるか理解できるかな?



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