AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と高速休憩



特殊思考内


 加速した世界で、一旦俺は休息する。
 "終極開思"を放つために、消費したやる気は膨大であった。
 なんせ――放った弾丸が起こす現象全て、俺一人のイメージで補わなければならないのだから。
 なので途轍もない程の集中力を、俺へと要求してくるのだ。


《ん、お疲れ》

「(――リープか。本当に寝てるときしか話しかけてこないな)」

《ん、まだ貴方が条件を満たしてない。他のみんなも同じ》


 俺しかいないはずの特殊空間に、俺以外の存在が現れて話しかけてくる……まあ、俺でもあるからな。

 俺の別人格の一つ、主に【怠惰】な感情を元に形成された人格――リープである。

 ちなみにだが、輪郭やシルエットは全く分からない。
 この空間では、俺には何かを見るための目が存在しないからだ。
 ……一々、自分の目を正確に覚えているわけが無いだろう。
 そもそも、まだこの島に来てから一度も自分の容姿を詳細に確認してないしな。

 さらに言うならば、声も聞こえていない。
 耳を生成できないというのも理由の一つだが、最もな理由は、念話で言葉を直接受信しているので、言葉を聞いて会話をする必要が無いからだな。

 さて、条件とは俺の呼びかけに応えるためのものである。
 ここに居るリープの場合、その条件は『俺が眠っている』ことだ。
 普通の奴は寝ている間は身動きが取れなくなるため、それは酷くハードルの高いものとなる……が、俺は寝ている時でも少しならば動けるためその条件は苦にならない。

 他の奴らもたまに条件を満たせるんだが、常時可能なのは……今はリープのみだ。


「(――にしても疲れた。ロボットの数が多過ぎたのか? それとも……)」

《ん、貴方の考えた通り。やり過ぎ。神器は本来、一本使うだけでも【勇者】や【魔王】みたいな埒外の存在が全力を振り絞る。そんな代物を何百本も、それも適性を全て失った貴方が振るうのは非常の危険。貴方の魔力MPはあくまで、眷属という外部から増大されている物。貴方本来の魔力以上を消費すると、魔力欠乏症と似た症状が発生する。今感じている気怠さはそれが原因》

「(……全く、製作者は俺なのにな)」

《ん、【鍛冶神】に就いていた頃なら、適性が無くても振るえていた。職業とは本来、無くてはならないその者の役割。貴方はその資格を失った。だから何もかもが全て通常以上の力の供給が必要になる。そう思えないのは【節制】の力があるから》


 消費を抑えられる能力があったしな。
 あれ、でもなんでそこまで知ってるんだ?


《ん、詳しくはまだ言えないけど、貴方とは別の伝手があるから》

「(……あのさ、俺の創った人格だよな?)」

《ん、その通り。だけど貴方独りで創り上げたわけじゃない。それは分かっているはず》

「({感情}……か。本当に謎だな)」

《ん、真実はいずれ分かる。だからその時を待つべし》


 モブをここまで育ててくれた{感情}……本当に何なんだろうな。
 すぐに知りたいわけでもないが、そこまで言われとな~。


「(そういうのって、主人公とかが背負うシナリオだろ。なんで俺が関わってるんだ?)」

《ん、それも言えない。それと、人生は一人一人にスポットライトが当たる。そういう意味ならみんなが主人公》

「(……話を逸らしてるな。まぁ、それは別に良いが。そういったセリフは、舞台世界何処か歌い踊る働いている役者歯車たちに言ってやってくれ)」

《ん、分かった。人生は一人一人に「(今止めたばかりだよな!?)」……ん、だから言われた通り、貴方に伝えた。自称モブ歯車に》


 全く、誰に似たのか屁理屈が多いな~。
 そうしてしばらく会話をしていると、魔力が満タンになる。


「(――おっと、だいぶ気分が楽になってきたな。時間は……多分そこまで経って無いが、そろそろアッチに戻るか)」

《ん、気を付けて。条件を見つければ、私も貴方と共にいられる。だから、早く見つけ出して》

「(……へいへい)」


 本当、条件って何なんだよ。
 ……ってか、そんなことを言っても見つけれるかどうかは変わらないだろ。

 最後にそんなことを思ってから、再びリアのいる地下世界へと回帰する。


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「(リア、そろそろ体を動かす)」

《……どれだけ加速してたんだい?》

「(どうだろうな。十倍は確実に超えていたと思うが、時間の感覚が良く分からなくてな)」


 そもそも、それ時の流れに気付ける奴の方が少ないだろ。
 俺がそれに気付いたのは、当然スキルのお蔭だ。
 実は世界の時間が加速していると言われても、周囲の速さも同様に引き上がっていたら気付けないだろうしな。

 必死に布団の誘惑に抗い、どうにかして"収納空間"へ『魔の布団』を仕舞う。


「う、う~ん……。いよーし、やる気補充完了だ!」

《あれから、こっちではまだ一分しか経って無いけど……メルスはこの後どうするの?》

「そりゃあもちろん、当初の目的通り――強者に会いに行くってことで。目的地はあそこに見える塔の真下だ。リア、行くぞ」

《はいはい、気を付けて行きなよ》


 そうして俺は、摩天楼のような建物の中へと入っていく。



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