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山田 武

偽善者と聖霊無双 後篇



「パ、パネェ……」


 目の前で起きている事象を纏めるために必要な言葉は、それだけで充分であろう。

 エリアボスとして出現した大木――『ハイエルダートレント・モルタル』を、ユラルが圧倒しているのだから。

 ハイエルダートレント・モルタル――ハイエルで良いか――は、東京のタワー並の大きさを誇る、黒い木である。
 根っこを動かしての移動や攻撃ができるので、ただのサンドバックというわけでも無いらしい……のだが。


『てりゃーーー!』


 そんな相手にユラルは、自身の周りから生やした樹木を操り、立ち向かっている。
 大人の男性の腕より一回りか二回り程太い木が、ハイエルの根っこや枝や幹を縛り、穿ち、破壊している。

 ハイエルも即座に根っこの再生を行い、ユラルをどうにかしようと根っこを当てにいったり、鋭く尖らせた葉を飛ばしたりしているのだが、それはユラルの操る木によってあっさりと防がれている。


「……本当に、強いんだな……」


 そんな光景を【神出鬼没】で隠れながら見ているのだが、ユラルの無双っぷりにメルスさん……ビックリである。

 契約した聖霊が異常な程に強い、そんな主人公みたいな話ってあるんだな……聖霊という単語からして、大体理解できる事案だが。

 能力値は[眷軍強化]で俺以上、フィールドは最適、スキルはチート……うん、俺より強いこと間違いなしだな。

 それでも俺は、彼女を……彼女たちを戦闘には出したくなかった。
 男に沽券に係わるとか、そういう感じの理由もあるが。

 最もな理由は、俺が信じ切れていなかったからなのかな?
 信じていれば任せられたはずなのに……信じられなかったから、俺は彼女たちに何も望まなかったのかもしれない。

 だが、それは【傲慢】過ぎたな。
 彼女たちは、間違いなく俺以上に強い。
 そして、戦うことを望んでいる。
 なのに、俺がそれを止める理由があったのだろうか。

 俺にできることは、彼女たちが安らげる場所を用意しておくことだけ……本当に、ただそれだけなのかもしれない。

 ――ま、そんなの嫌だけどな。


「……ハーレムの主らしく、たまには俺も無双プレイをしてみたいものだ」


 そう遠くない未来、彼女たちは狭い鳥籠夢現空間から飛び出して、伸び伸びと行動を起こすであろう。
 それでも俺はそのとき、彼女たちと肩を並べていたいものである。

 そんなことを、ユラルがエルトレを倒している最中に思っていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


≪彷徨の森林の『ハイエルダートレント・モルタル』が討伐されました≫

《初討伐称号『プラントスレイヤー』を入手しました》
《ソロ初討伐称号『プラントスレイヤー・ソロ』を入手しました》
《初討伐報酬を『樵の鉞』入手しました》
《ソロ初討伐報酬『古老樹の苗』を入手しました》

≪この放送の全ては秘匿されます≫


 全てが終わった時、俺の頭の中にアナウンスが鳴り響いた。
 ……予想通り、俺と契約したユラルが倒しても、俺が倒したことになるんだな。
 プレイヤーの人数で、ソロは決まるのだろうか?


『メルス~ン! どうだった?』

「確かに凄かったぞ。だけどな……」

『……アイタッ!』


 ユラルに俺は、デコピンをした。
 (神手)を発動させたので、聖霊モードのユラルでも痛いと思うぞ。


「危険なシーンもチラホラあったぞ」

『メルスンのくれた装備もあったし、大丈夫だって信じていたもん』

「…………そういう問題じゃないんだ」

『はは~ん……さてはメルスン、私のこと、心配してくれてたんだね』

「ッツ! ばば、馬鹿なこと言うなよ!」

『イイねイイね~その反応。なら、無事に帰還した私を褒めて……』

 ゴンッ!

「あまり調子に乗るな。心配したのは事実だが、褒める気にならないわ」

『……ずびばぜんすみません


 ノリが良いユラルは、こういったことも受け入れてくれる。
 ユラルはユラルで、周りの空気を読める娘なのだ。

 脳天に振り下ろした衝撃で傷付いた拳を、こっそり再成させながら話を戻す。


「――確かに、ユラルは無双できていた。だけど、体力が減少しているぞ。……エルトレの攻撃、全部防げなかっただろう。俺のHPが減少していたぞ」

『それは……』

「使えるものは全部使え。俺の能力値補正だけじゃ駄目なら、他の奴らのスキルや魔法も借りて戦え。俺なんて、お前たち全員から何かした借りてるんだぜ? ユラルだって一つや二つ、借りたって構わないだろう」

『だけどこれは、私独りだけで、どこまでできるかって話なんじゃ……』

「そんな話じゃないだろう。戦うのは独りだと言った気がしないでもないが、その前段階に関しては何も言って無いぞ。策は持てるだけ持っていた方が良い」


 最近はアリとのゲームで、それを思い知らされる。
 イカサマだろうが何だろうが、それが目的に繋がるのならば構わない。
 善行は偽善をする際だけで充分だ。
 必要な時に必要なことを行って、一体何が悪いんだよ。


「ま、それでもエリアボスぐらいならどうにかなるか。ユラル、眷属たち全員に伝えておいてくれ」

『え、何を?』

「何をって……戦闘許可だよ戦闘許可。強者はさすがに譲れないけど、エリアボスなら、その日の当番がやってくれても構わない。今までも雑魚狩りは頼んでいただろ?」

『……ほ、本当に……私たちがやって、良いの?』


 おいおい、なんでそこで泣きそうになってるんだよ。
 特別シリアスな場面でも無いだろうに。


「はいはい、オッケーオッケー。盗聴組も聴いてたよな? 俺が一緒にいる時なら自由に倒してくれて構わない。『最果ての草原』以外での戦闘も、北以外ならオッケーだ。……だけどもし、魔獣を見つけてもそれだけは駄目だぞ。アレだけは、俺に考えがあるから」


 絶対強くなって対話して見せる。
 アレは多分、話せる奴だろうし。


「さて、ユラル。もう入り口は見つけてあるよな?」

『……グスン、アッチ』

「分かった。ほれ、これで顔を拭いたら行くからな」

『……うん』


 俺の渡したハンカチを受け取るユラル。
 ……何故だろう、ハンカチが返ってこない気がする。

 そんな一抹の不安を抱えながら、俺たちは強者の元へと進んでいく。



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