AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者とドン○ラ粉



 特殊フィールドは川の中に存在していた。
 二股に川が裂けているその間、そこに結界がひっそりと配置されていたのだ――ちょうど、『人』をイメージすると分かってもらえるかな?


「(……さてリーさん。ここの川って、ここまで急な速度でしたっけ?)」

《いえ、前に来た時はもっとゆっくりだったと思います》

「(だよな~。それがどうしたら――こんな激流になってるんだろうか)」


 なんかこう……川が氾濫したみたいに荒れ狂っているんだけど……何なんだろうね?
 何故かめっちゃ、ゴゴゴッとかいう空耳が聞こえてくるしな。


《これって……メルスが川に入れないようにしているんじゃ……》

「(おいおい、魔法がある異世界でこんなショボいことしたって、何の意味も無いんじゃないのか? 結界を張れば川の流れも無視できるんだし、水を操ればジャクソンみたいに流れを別の所へ誘導できるし……)」

《か、川に何か細工してあるんじゃ……》

「(いやいや、そんなはず……あったな。魔力打ち消し・吸引・反射等々、流れて来ている水の所々に面倒臭い効果が付与されている)」


 言われて(鑑定眼)で覗いてみれば、そんな結果が現れた。
 タイミングが分からないから、それぞれの周期に合わせた対策をするワケにもいかないしな……。


「(他にも、普通にHP吸引とかAP吸引とかスキル封印とか入ってるし……体を小さくはしないみたいだが、色々と嫌がらせになりそうな効果があるぞ)」

《…………》

「(いやーお手柄だなリー、お前が何も言わなかったらどうなっていたことか)」

《え? ……そ、そうよね。それが分かったなら、もっとワタシを大切に扱ってくださいね!》


 あ、これ気付いて無かったヤツだな。
 ここは黙って見逃すのが普通な気もするけど……そこはリークオリティーだな。


「(……(ニヤッ)そう、だな。なら今度一緒に寝るか……二人っきりでな)」

《ふ、ふふ、二人っきりでっ……!?》

「(あぁ、そうだ。お前のことを大切に扱ってやるよ……ベットの上でな)」

《…………ッ!! ――――》


 ……フッ、勝ったな。
 信号ロスト、気絶を確認。やはりリーには刺激が強すぎたかな?
 まぁ、するならちゃんとTSしてから寝る予定だったんだが……やるのは本当だぞ。


「さって、それならどうやって結界の中に行こっか? 魔法はどう発動させても吸引やら反発で予想が付かない方向に行っちゃうし」

「なら武技で川を割るか? むしろ本気のステータスなら武技無くても地面ごと割れそうだが……それはさすがに偽善者とは行為的に程遠いし……とりあえず立体図の確認か?」


 とりあえずの案も出たので、"収納空間"から昔採掘した石を取り出して川に投げ込む。
 ポチャンッという小さな音が、一瞬だけ聞こえてくる。
 それによって生じる振動を、【七感知覚】でキャッチする。

 要はソナーだな。
 魔法も使えないし、川に触れると厄介なことになりそうだからそれは控えたが、それでもこの世界ならば、ある程度川のイメージが掴める。

 ……フムフム、割と深いんだなこの川。
 浅いと思っていたんだがな。
 だって見た感じ透明で底が見えてたし……それって浅いってことだろ?


「やっぱり『人』型のままか。地形については特に変化なし」

「結界の先はやっぱり穴が存在していて、そこから地下へと滝にように落ちていく……下の方は深すぎて確認できないぐらいだ、水にちょっとでも濡れてスキルが使えない状態になったら死ぬぐらいのヤバさだな」

「……というか、前回どうやって着地したんだっけか? 流れに委ねてたらいつの間にか辿り着いてたって感じだったし……」

「なら、普通に行けるかって訊かれても、油断して死にましたなんて結果を許してくれる眷属はいないし……ハァ、川の氾濫の原因を何とかした方が良いかな? 多分俺だけど」


 だって、特殊フィールドの出現と共に川が氾濫した仮定したら、それをしたのは俺なんだから……犯人は俺じゃないか!


「一度エリアから出てしばらく待てば……ってこれは確証がまだ持てないしな~。失敗したら再戦だから嫌だし……本当にどうすれば良いんだろうか」


 いっそのこと、本当に川を裂いて入った方が良いのかな? ……試してみるか。
 再び"収納空間"へ手を突っ込み、今度は『偽・デュランダル』を装備する。
 そして、『人』の分かれている辺りから宙にジャンプして、上から下に振り下ろす。

 ブンッ……シュパパッ!

 と、川が裂けていく……ティルだったらもう少し、時間差があるんだけどな~。

 さて、早速中に入ろう……と思ったが、濁流だった川が一瞬白く光り、すぐに川が復元される。

 ……面倒だな。
 破壊不能オブジェクト的な機能ではなさそうだが、何か変化があると自動的に元の状態へと回帰する……再生か?


「もし、これが再生として定義付けられるなら、巻き戻しか停止をすれば良いけど……できるかな? って、それだと水が固まっちまうし、水飛沫が残るか。……あ、どうせスキル無効化系の効果が盛り沢山だから意味ないのか。……本当にどうするかな~」


 しばらくそうやって考えていると、かつて見たアニメのOPが頭の中でリピート再生されていく。


「……正解はひとつ! じゃないか!! ま、証明終了する気も無いし、冒険も挑戦もする気は無いんだけどな。というか、何でこのタイミングで探偵オペラを思い出すんだ?」


 そう、別に川をどうにかして入る必要なんて無かったんだよな~。
 最近、思考が凝り固まってるのかな?

 ため息をそっと吐きながら、"収納空間"に剣を仕舞ってからある物を取り出す。


「――『ド○ブラ粉』~!」


 これがあれば地面を泳ぐことができるんだよ、フ~フ~フ~。……あとは。

(――"魔法破壊")

 結界に過剰な魔力を流し込み、強制的にそれを壊す。
 これで結界に邪魔されること無く地面に潜れるな。


「それじゃあ行ってみよう! 毎度御馴染みの地下世界へ!」


 『ドンブ○粉』を自身の周りに振りかけ、俺は地下世界へと身を投じていった。



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