AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者なしのダンジョンイベント その02



 ピンポンパンポーン
≪さぁ、御集まりの皆様方、大変お待たせしましたわ。
 只今よりダンジョンイベント――その概要の説明を始めさせていただきますわ≫

 その声を聞いた途端、草原にいた者は口を閉じた。
 そして、その声が続きを語る瞬間を、待ち望んだ。

 その望みに応えたのか、辺りに静寂が訪れた丁度そのとき、声の主は再びプレイヤーたちに向けて、一方的に音声を綴っていく。



≪今回のダンジョンイベントは、同時参加制限無しで行う、二段階のイベントとなりますわ。

 一段階目では、一チームごとに一つのダンジョンを作成してもらいます。チームごとに転移した先には、一つのダンジョンコアが設置されています。貴方方にはそのダンジョンコアの操作権が与えられており、今イベントの間のみ、擬似的なダンジョンマスターのような状態になりますわ。
 ダンジョン作成に関する説明自体は、ダンジョンコアがやってくれますので端折りますが、一つ注意して欲しいことがありますわ。
 ダンジョンの作成にはDPと呼ばれるポイントが必要なのですが、チームのメンバーが多ければ多い程初期のDPは少なくなっていきますの。メンバーのステータスが高い場合もまた、設置できる設備や魔物が減るというリスクがありますわ。多くても問題はありませんが、バランスを取る為にこのような仕様となりますので、予め注意しておいてください。

 二段階目では自ダンジョンの防衛、または他ダンジョンの踏破を行ってもらいます。
 一段階目で作成したダンジョンを使用し、ダンジョンバトルというものを行います。そして別チームからダンジョンコアを奪ってくることで、踏破を判定させていただきます。
 この時、自ダンジョン内に侵入して来たものからDPを徴収することが可能ですので、一段階目でDPを使い尽くした方でも、DPを使用せずとも敵の妨害などができますので、積極的にDPを使用してください。ただし、他チームの方が侵入している間は設定を変えることができませんの、注意してくださいね。

 なお、ダンジョンは貴方たちが作った物以外にもこちら側で用意したダンジョンもありますので、そちらもお楽しみください。
 色々なアイテムを設置してありますよ。
 また、イベント中にHPが0になった方は、ダンジョンコアが奪われていない場合のみ、ダンジョンコアの置かれた部屋に死に戻りいたしますわ。奪われていた場合はそのプレイヤーは失格となり、待機室に送られますので注意しておきなさい。死に戻りした場合も、HPが0になったダンジョンにはもう行けなくなりますから、ゾンビアタックはできませんわよ。

 では、貴方たちのメニューにダンジョンという項目を追加しておきますから、そこから選べるメンバー登録という部分を選択して、先程言ったことを考慮しながらメンバーを決めてください。制限時間は10分ですよ≫



 声の主がそう言った後、プレイヤーたちの目の前には『メンバーリスト』と書かれた横罫線と、〔申請〕〔受託〕〔拒否〕と描かれたボタン型のUIが表示されていた。

 プレイヤーたちは、予め集まっていたチーム候補たちと共に、話し合いを始めていく。

「それじゃあ、僕たちもチームを組もうか」

 ユウのその声に、周りにいた仲間たちはすぐさま〔申請〕と書かれたボタンを押して、ユウのメンバーになろうとする。

「……って、ちょっと待って。どうして僕なのさ?」

「私は、こういうことはいつもユウに任せていたからよ」

「私は目立ちたくないからよ」
「俺もだ」

「私とオブリも、内密に動けと言われているわ。よろしくね、ユウちゃん」

「え、えぇぇ……」

 色々と説明されてはいるが、直訳すれば面倒と言われているのが分かり、どうしても気乗りしないユウであったが――

「私もお願い、ユウお姉ちゃん!」

「――うん、僕に任せてよ!」

 オブリの一言に一瞬で陥落した。
 実際、オブリと行動を共にしているティンスも、この一言には弱く、頼まれると大体のことは引き受けてしまう。
 オブリガーダ……恐ろしい子である。

 彼女たちの話し合いは、放送直前にオブリの話そうとしていた内容に戻る。

「――それで、真の眷属の方々とは、いつ合流するんだ?」

「えっとね、レンちゃんたちは『後で合流するから、先にイベントサーバーに向かっていてください。普通の方法では侵入できませんから』って言ってたよ」

「……そうか」

 その答えを聴くと、シャインは再びイベントに向けての準備を再開する。
 他のメンバーたちもまた、その言葉をしっかりと聴いていた。


 もしここにいる全プレイヤーが、彼女たちと別口の眷属たちに挑んだとしても――プレイヤーたちが勝つ可能性は皆無と言えよう。
 ……プレイヤーの中でも強者と呼ばれる者たちが、その一人に勝つことが全くできないのだから。

「でも、実際誰が来るのかしら? レンさんは確定でしょうけど、二人以上が来ると言うこと以外は分かっていないのだし……」

 プレイヤー側の眷属は、この世界側の眷属の人数を完全に把握していない……というより、主が何も言っていないという方が正しいだろう。
 彼女たちの主は色々と面倒な者で、様々な欠点を持っている。
 その中に、秘密主義という欠点がある。

 やれ説明するのが面倒だの、やれそれの方がカッコイイだのと言って、一々口を開かない無駄な考えの持ち主だ。

 この世界側の眷属たちは、記憶共有によって主の考えていることが大体分かる為何も言わないが、それができない者にとっては堪ったものではない(そもそも、できる方が異常であろう)。

「あの人たちって、二人いれば充分よね」

「大火力で何度でも蘇るフェニさんに、身体能力を幾らでも上書きできるリョクさん。他にもいっぱいいるわね」

 ティンスの言う通り、一人一人が一騎当千の猛者である。
 全眷属を把握していない今でも、今イベントでの無双は確実なものだと理解できてしまうのが現状だ。

「――後で合流すると言ってるんだから、必ず来るよね。僕たちは最善を尽くすための準備をしよう」

 ユウのその言葉は、全員の意思を示すものでもあった。
 彼女たちの主が何の目的があって眷属を寄越すかは分からない……何の目的も無いかも知れない。

 ――主の真の眷属たちは信用できる。

 それが彼女達の見解である。
 だからこそ、彼女たちは動く……今はトラブルに巻き込まれている主に、自分たちの成長を見てもらうために。

 ――そして、十分の刻が過ぎる。


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