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山田 武

偽善者と『禁忌学者』 その09



《メルス、大変だ!》

「(おいおい、どったの?)」


 とりあえずスキルが発動できるようになるまでMPやAPが回復したので、"不可視の手"を使い、体を先程までいた所に運んでいた。
 そんな時、クエラムから念話が届く。


《先程までの戦闘の映像を見た眷属たちが、そちらまで行ってゴーレムを破壊しようとしているぞ!》

「(は!? なんでそういうことになるの!?)」

《そんなもの決まっているだろう。メルスがそいつに傷つけられたからだ》

「(えー……)」


 確かに今も脳震盪状態だけどさ。
 謹慎中の身で、何をしようとしてるんだ。


「(まだ{夢現空間}も繋げていないのに、一体どうやって来る気なんだ?)」

《どうやってと言われても……メルスの作った転移アプリがあっただろう》

「(あれなら、使用不可にしておいた筈なんだが……)」

《ハッキング……と言えば分かるだろう?》

「(……ったく、あの天才共め!)」


 カメラのときに、もう既に対応できるようにしていたな。
 俺だってロックするのに色々と工夫した筈なのに……自信無くすわ~。


《それで……どうする?》

「(……ハァ、来た奴はペナルティを加算すると伝えておいてくれ。今ならまだ、間に合うだろ?)」

《急いで伝えてくる!》


 良くも悪くも、真面目なんだよな~クエラムは。
 ま、その真面目さがクエラムの美点でもあるから、別に良いんだけどな。


『――どうしたんですか?』


 クエラムからの念話が来てから、ずっと止まっていたのを不審に思ったリュシルに……そう訊かれる。


「(あぁ、何でもないから大丈夫だ。少し眷属がマシューを破壊しようと、行動しているだけだ)」

『大丈夫なんですかそれ!? 私の子供が一大事じゃないですか!』

「(大丈夫大丈夫、ちゃーんと対応策もあるからさ……ドゥル、『無双の双槍』を用意してくれ)」

《仰せのままに、我が王》


 俺の手に、二本の槍が出現する。
 俺はその槍を体を操って握らせて、槍が持つスキルを発動させる。

(――"魔素停止空間""魔素霧散")

『これは、魔素が……』

「(これで転移魔法は使えないだろうから、大丈夫だろう。あのアプリは端末を目印に転移する仕組みだから、ここら一帯に細工をしておけば転移不可能ってワケだ)」

『ならメルスさんを浮かばせているそれは、どうやって使っているのですか?』

「(これは(氣魔自在)で体の中で強制的にスキルを発動させている。放出系のスキルは無理でも、体内循環系なら可能って感じだな)」

『……それって、魔物や魔族の特権だったのですが……まぁメルスさんですしね』


 あっさり人外認定を貰ったな。
 俺だって、元の世界なら一般ピーポーだっていうのに。


「(ま、さっさとマシューの所に向かうとしようか。色々と試したいこともあるし)」

『……不吉な予感ですね』


 おいおい、失礼だな。
 人畜無害なただのモブですよ。


移動中
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「襲われることは無かったな」

『私が近くにいると攻撃しないように、していたんですよ』

「え゛? ……ならさっきまでの苦労は?」

『とは言っても、それは本来の機能で、今までは機能していなかったので無理でしたよ』

「……嬉しいんだか悲しいんだか」


 移動している間に体の自由が戻ったため、普通に会話できるようになったぞ。

 俺とリュシルは、マシューの元にいる。
 ……ちなみに、眷属達の転移も無事防げたとクエラムから連絡が来たので、もう『無双の双槍』は仕舞ってある。


『それで……メルスさんが試したいこととはなんですか? 先に言っておきますけど、マシューを分解するとかでしたら、こちらも全力で抵抗させて頂きますよ?』

「いやいや、そんなことしないしない。リュシル、今のマシューは無防備な状態にしてあるんだよな?」

『……そう言われましたから』

「よし、なら良い」


 俺は"収納空間"からある物を取り出す。


『確か……『機巧乙女』でしたっけ?』

「それの亜種型だ。宿主の能力値そのものを使える代物だ――ティルに使ったヤツだな」


 俺はそんな会話をしながら、マシューに向かって能力を発動させる。

("神氣""魔視眼""転移眼")

「――よいしょっと、そしてこれを入れる」

『……あ、あのぅ。今入れたその丸い球、どこかで見たことがあるのですが……』

「ん? マシューの核」


 マシューの中を(魔視眼)で視て核を見つけて、それを(転移眼)で抜き取る。
 そんな簡単に取れて良いのかと思うが、本来は(神氣)無いとできないことだからな。


『貴方は……何をやってるんですかッ!!』

「――ゴブリングッ!」


 別にゴブリンがいたワケでもゴブリンの指輪があったワケでも無いが、リュシルから魔法による攻撃を受けた衝撃で、息的なものが漏れただけだ。


『私の子供を女体化させて……。一体何をさせようとしているんですか!』

「い、いや、待って待って。ちゃんとした理由があるから」

『ほう……では言ってみてください、その理由とやらを』


 なんか裁判みたいになって来たな……また女体化の刑は嫌だぞ。
 しっかりとした弁解……は無理そうだが、考えたことをしっかり説明しよう。


「えっと、折角リュシルの子供なんだから、マシューからもリュシルに話すことができるようになった方が良いかなって思って。丁度神氣を浴びていたみたいだから、神器である人形を使ってもOKになってるし……」

『――――ッ!』

「そ、それにほら、リュシルにも助手が居た方が助かるだろ、うし……どうしたんだ?」


 顔を真っ赤にして、プルプルとしだすリュシル……あ、不味かったかな? やっぱり。
 リュシルにもリュシルなりの信念が在ったかも知れないのに。
 今直ぐに、ジャンピング土下座で謝った方が良いかな?


『……フゥ。メルスさんにもメルスさんなりの考えがあったみたいですね。過ぎたことをとやかく言っても仕方がありませんし、今回は許してあげましょう』

「そ、そうか。悪かったな、勝手にやって」

『良いんですよ。メルスさんの今までの行動から、こうなることはある程度分かります』

「そ、そうか? ……まぁ良いか。とりあえず眷属たちの状況も気になるし、{夢現空間}に行くか」

『はい、ワクワクします』


 マシュー入りの『機巧乙女』を仕舞って、扉を目の前に創る。
 俺とリュシルはその中へと進んでいった。



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