AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者なしの元英雄達の復活 前篇



「……ここ……は……」


 立ち上がり辺りを見回すとそこは、先程まで見ていた礼拝堂でした。
 どうやら意識を失う前に聞いたあの蘇生魔法――"完全蘇生"によって、私達の意識は蘇ることに成功したみたいですね。
 ウルス達も先程までの私と同様に倒れているのですが、その様子を見るとそろそろ起きそうなので大丈夫そうです。


『うぅ……ここは何処だ?』

「礼拝堂ですよ。私達は全員無事、蘇ることに成功しました」

『……完全蘇生、本当に実在するなんて』

『アマルさん、彼は……?』

「彼なら……そこに」


 私達は再び目覚めることができました……ですが、私達を起こしてくれた彼は、未だに礼拝堂の床に倒れ伏しています。


『眼で視るに、これは典型的な魔力切れね。あれだけの作業を一度にやれば、こうもなるわよ。……だけど、魔力がとんでもない速さで回復してるわ。回復速度を向上させるスキルを複数持ってれば可能ではあるけど……。この量、保有する魔力がデカ過ぎるから、一度に一気に回復するのね』

「大体、どれくらいが魔力の最大量だと思われますか?」

『そうね……この量が一秒毎だとして……大体400万ぐらいかしら』

『よ、400万だって!?』


 これには私も驚きました。
 魔力量が多いと言われる種族でも、それ程の量は持っている者は滅多に現れません。
 物語で描かれるような伝説の存在ならば無限の魔力を持つと伝えられていますが、実際にそれ程の魔力量の保持者を見たのは初めてです。

 ……これで納得できます。
 彼がここまでのことをしてくれた理由の一つなのでしょう。
 どれだけ無理難題を頼まれたとしても、それを押し通すだけの力、それが彼にはあったのですから。


『本当にそれだけの魔力を持ってるのか? 女の山人とか、老化が遅い種族は置いておくとしてもコイツ、見た感じ十三か十四ぐらいじゃないか? 若過ぎるだろう』


 彼の身長はそこまで高くは無く、十六歳のウェヌスと同じくらいです。
 男で彼女と同じくらいの身長となると、少なくとも私達の国の普人ならば、十三か十四ぐらいの年齢であると思われます。


『――いいえ、メルス様は十六歳ですよ』

『えッ!? これで十六なのかよ。見た目より年食ってるんだな』

『えぇ、メルス様の国は平均的な身長が低い者が生まれる国でして、見た目より少し年齢が若く見られがちなのです』

『へぇ、そうなのか』

『……ちょ、ちょっとウルス』

『ん? どうしたんだシャル?』

『……アンタ、今誰と話してるのか分かってるの?』

『そりゃぁ、勿論……って誰だよ!?』


 ……気付いていなかったんですね。
 横たわる彼の傍には、いつの間にか私達を運んでくれた女性が現れていました。
 色が抜けたような真っ白な顔や髪、赤銅色に濁った瞳、そして人形のような表情はそう簡単に忘れられるものではありません。


「私達を運んで頂き、本当にありがとうございます。私はハイント王国所属の冒険者、アマルという者です」

『ウルスだ』『シャルよ』『ウェヌスです』

「――差し支えなければ、貴方の名前をお聞かせ願いますか?」


 私がそう言い頭を下げると、彼女は私達に名前を告げます。

 すると、彼女はとても美しい礼を取ってこちらの問いに応えました。
 ……しかし、どの国の作法でしょうか?


『――これはこれは、申し遅れました。わたしはアンです、以後お見知りおきを』

『……それだけか?』

『他に何か説明するところが?』


 彼女はそう言って後、彼を膝の上にそっと乗せて慈しみ始めました。
 その時の彼女の顔は、彼のことを大切にしていることが分かる程、破顔していました。


「できれば貴方とそこの彼の関係、そしてここがどこなのかを教えて欲しいのです」

『全く、あれだけの時間があったというのにどうして説明の一つもしていないのでしょうか(ボソッ)……。ここは夢現空間、ここで寝ているメルス様のスキルによって創られた異なる世界です。そして、わたしはメルス様に仕え、支える者の一人……ですかね?』


 そう言って、彼の頬を指で突いています。
 その間に私達は、(念話)を使って今までに聞いた情報を纏めます。


《……ねぇ。今彼女、異なる世界って言って無かった?》

《言ってたが何か問題あったか? 空間属性のスキルが使えればできるんだろう?》

《あるに決まってるでしょ! 良い? 空間属性でできるのは、あくまで空間の一部分を切り取るだけ。アイツぐらいの魔力があれば理論上は可能だけど、普通は無理な話なの。もし空間魔法で別の世界が創れるなら、土地の問題から戦争なんてしないわよ!》


 確かに、それぞれの国家が別々の世界に一つずつの国を造り、その存在を知ることが無ければ他国との戦争が生まれることは無いだでしょう。

 しかし、争いの種というものは、必ず何処かに存在します。
 他国でなければ内部で、不満や悩み、苛立ちや葛藤、そういった負の感情から生まれる行動……その大半が争いを生むのです。

 だからこそ国は、そういった負の感情が向かう所を自国から他国へと誘導し、自分達に向かわないようにするのです。

 ハイント王国にも、そういった部分はありました……民達の怒りの矛先を魔王へと向けていましたしね。


閑話休題


(彼女は言っていました……わたしと。彼には、彼女のような者を何人も抱えているみたいですね)

『えぇ、メルス様は国王ですしね。ここに来るまではしっかりと政治に介入もしてましたよ……まぁ、面倒臭がりなので、殆どをリョク様に任せていましたが……』

《……って、またか!》

『申し訳ありません。わたし達の集団の中では念話を上手く使えなければ出し抜かれることが多いので、念話の盗聴の技術を全員がマスターしているのです』


 未だに彼の頬を突いている彼女が、私達にそう言ってきます。
 ……大変そうですね、彼。


TO BE CONTINUED



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