AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者なしの元英雄達の選択 後篇



『さって、最後の作業だな』


《あれは……糸ですね。それも、神器級の》


 私達全員の体全てを強化し終えた彼は。そう言って指に巻きつけた糸を、私達の体に一本ずつ付着させました。

 あの後も体の中に手を入れて作業を行っていたのですが、ウェヌスとシャルに行う際に最大限の配慮をしていた為か、少々時間が掛かっていました。

 ……それでもウルスとシャルの会話が同じぐらいの時間されていたと考えると、どれだけ揉めていたか分かりますね(とりあえず、二人には正座して反省して貰っています)。

 ウェヌスの言う通り、彼が持つ糸全てから"煌雪神之魂剣"と似た力が感じ取れます……彼は一体、幾つそう言った類の物を持っているのでしょうか?


『――聖氣注入っと』


 彼のその声と共に、私達の体の中に温かいものが流れ込む感覚が込み上げて来ます。
 彼の考える浄化は、私達の体の中に糸を通じて聖氣を流す方法のようですね。

 てっきり浄化系のスキルを発動させ、外から浄化をするのかと思っていたのですが……まさか直接体の中を聖氣で浄化するとは思ってもいませんでした。


《ですが……そんなことをしたら……》


 アンデッドを体の中から浄化していった例は少なくとも、私達が知りうる文献の中には存在していません。

 アンデッドの浄化には、大きく分けて二つの方法があります――

 一つ 浄化系のスキルや魔法を使い、強制的に世界から送り出す方法。
 二つ アンデッドをこの世に縛る未練を晴らし、成仏させる方法。

 ――彼が行っているのは、基本的には一つ目ですが、実際にはかなり違うことだと思われます。

 殆どの浄化系の技は、体の外から中に潜伏する呪いや瘴気を聖なる力で包み込み、体ごと消滅させることを浄化と定義しています。

 私達の体は浄化を受けることで、本来なら消滅する運命にあったのです……が、彼は体の内側にある魔王の力のみを消して、体にはできるだけ影響が無いように浄化をしているのです。

 魔王の力でアンデッドになっている私達の肉体には、負の力が長い時間の間にしっかり浸み込んでいます。
 そんな中に、いくら氣の流れを通じてだとしても聖なる力を流されたならば、私達の体になんらかの影響があるのでは?
 ……そうウェヌスは考えているのです。


 実際、私達の体は突然震えだしているのでなんらかの変化があったように見えます。

 ――彼はそれを見ると、私達の体をこう励ましました。


『――お前ら、自分の魂の強さを分かっているだろう! 耐えろ、自分の魂の器であり続けるんだ!!』


 彼は、私達の体に刻まれた経験を信じて体に声を掛け続けます。
 そうすることで何かが変わるワケではありません……が、少なくとも私達のことを思ってやってくれていることが分かります。


《……彼は、どうしてここまでしてくれるのでしょうか》

《さぁな。アイツの言う通り、偽善がしたいからじゃねえか》


 確かに彼は、自分のことを偽善者と言いましたが……。


(……偽善者が、本当にここまでのことをしてくれるのでしょうか)

《私達に恩は売れるわよ》

(それなら、普通に浄化するだけでも良かった筈ですよ。わざわざここまでする必要はありません)


 それなのに、彼は私の意見を聴き入れてくれ、体のことを気遣ってくれたり……と、利己的で虚栄的な偽善者では考えられないような態度を執ってくれます。


《……信徒ではないのですか?》

(それなら、神像が置かれている筈です。彼は……彼の考えで行っているようなのでそれは違いますね)


 彼は彼自身の経験を元に行動を決めていると思われます。
 ですが、どのような人生を送れば、彼のように偽善者を装うような生き方をするようになるのでしょうか。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 時間が過ぎ、私達の体に変化が見えるようになりました。
 闇色が混ざっていた髪が光り輝き、かつての私達の髪色が再び戻ってきました。


《おっ! 俺達にも反映してるぞ》


 そう言ったウルスを見ると、髪が薄紅色に光っています。
 シャルやウェヌスの方を見てみると同様に肉体と同じ、かつての綺麗な髪色になっていました。

 同時に、付けていた装備品からもくすみが取れ、輝きを取り戻しました(私達がここに来た時、装備していた所為かそのまま付けていました)。


《……なぁ、俺の魔剣も輝いちゃってるんだが……大丈夫か?》

《……これは、聖剣になってますね》

《創ったの? ……創れるの!?》


 シャルがとても驚いていますが、無理もありません。
 聖剣とは物語で語られていたり、【勇者】が創りだしたりしていますが、他人の物に干渉し変質させるということは、物語では神にしか成し得なかった方法なのです。

 私達が自身の装備に変化が無いかを確認している間も、彼は行動をしていました。
 彼は私達の魂が入った四つの玉を再び持って来ると、私達の体の上に置いていきます。

 ズズズズッ

 私達の魂は、再び体の中に入っていきました……ですが、私達の意識はここから戻ることがありません。
 ……どういうことでしょうか?


《それは、魂が体の中に存在することと生きていることに違いがあるからです。例え魂が中にあったとしても、そこに意識が無ければ生きているとは限りません……アンデッドの魂に意識が無いように。意識を肉体に戻すならば、蘇生系のスキルや魔法を使わなければいけません。ですが、ワタシも完全に蘇生を行うような魔法は知りません……》


 ウェヌスによるとコラーニ教には、完全な蘇生魔法は存在しないと教えられているそうです。
 通常の蘇生魔法は一定の確率で失敗して、その者の肉体が灰になるというデメリットがあるようです。
 ……が、失敗の無い蘇生魔法の存在も伝承として、語り継がれているそうで――。


《ちょっと待って、確か完全な蘇生ができる魔法が、禁術として存在していた筈よ。えっとー、確か……『――(禁忌魔法)"完全蘇生"!!』そう、それよそれ……って、え?》


 彼は、そんな禁忌の魔法をあっさりと発動させます。
 私達の意識は白い光と共に途切れ、何も考えられなく……なりま……し……た。


TO BE CONTINUED



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