AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と『不死魔王』 その09



 暫くして、ネロマンテは意識を取り戻す。
 ちなみにだが、記憶の方は……英勇達の戦闘の記録が主な収穫だと思う。
 "再生の指輪"によって記憶の再現が可能になっているので、彼らが使っていた武技も劣化させた状態で使える……後で覚えた記憶をギーに見せれば、それも完全な状態に変わるだろうけどな。


『……んぐ』

「目覚めたようだな。気分はどうだ?」

『……少し体が重たいな……重いッ?!』


 おっと、気付いたようだな。
 ここでクエスチョンッ(ダダーン)!
 不眠不休で状態異常も無効、肉体的疲労を感じず、実はMINも高い為精神的疲労も感じないネロマンテさんが、突然倦怠感を覚えていました。

 ――さて、それは一体何故でしょうか!!


「――答えは、お前が感じるようになったからだ……疲労感をな」

『……疲労感、だと』


 ネロマンテは怠そうに体を起こし、立ち上がる。
 初めて会った頃の悠然とした立ち振る舞いは何處に逝ったのだろうか。
 無い筈の肺に空気を送ろう為か、必死に呼吸をしている。


「あぁ、お前――面倒だからネロな。ネロには今、お前の指に嵌ってる指輪を通じて様々な{感情}が注がれるようになっている。正の{感情}や負の{感情}……少なくとも、俺が知りうる{感情}の全てがな」


 ほら、あれだよあれ、共有感覚。
 地球でも結合双生児とかが持ってるヤツ。

 【拈華微笑】を得てから、考えたことがあるんだ。

 ――糸で魔力を通じてスキルを発動できるのなら、別のものも通せるのではってな。

 そんなどうしてそんな考えに至るんだよって言われるような考えの末、創られたのがネロと俺の指に装備された"共感の指輪"だ。

 その時の俺が鬼のメイド姉妹をイメージしてたからか、番の指輪になってしまったその指輪だが……性能としてはかなりの物だ。
 感情や感覚は勿論のこと、[スキル共有]とは別で俺のスキルを一つ共有できる便利な指輪だな。


「――とまぁ、大体そんな感じだ。ちなみにだが、指輪に(魂魄強化)を共有するように強く念じることで、ネロが求めていたものが手に入るぞ」

『う……うむ、やってみよう』


 ネロはそう言って、(魂魄強化)を共有し始める……すると――


『……おぉ……おおぉぉっ!!』


 ――突然声を上げました。
 うんうん、歓喜してくれているようだ。


『何だ、このスキルは! 魂魄の輝きが一瞬で高まっていく! 純粋な白でも、世界に染まり切った黒でも無い……この色は何と呼べば良いのだろうか!! メルス、こ、これは凄いぞっ!!』

「あ……うん、そうか」


 へー、そんなに凄いスキルだったのか。
 魂の質に関する調査は行っていたが、まさかそこまでとは……でもあれ? そんなに魂魄が輝くと言うのなら、俺の魂魄もかなり輝く筈。
 ならどうしてネロは、そんなに反応してなかったのだろうか?

「(自分がそこまで驚くのなら、そんな勇者以上とか微妙なことは言わないだろうに……)」


《それは、マスターのスキルをちょっと借りて……おっと》

「(おい、今なんて言った……というか、絶対伝えようとしてワザと言っただろう)」

《まぁ、そのことは置いておくとして――》

「(いや、置いておくなよ)」

《マスターには、様々なスキルが常駐的に発動しているんだよ》

「(え? ……オレ、ソンナノシラナイ)」

《言って無いからね。だってマスター、そういうのあまり好まないじゃないか》

「(でもさー、言って欲しいだろ――『ぼっち反対!』……って。いや、確かに今言ってるけどさ。それで、どんなスキルが発動しているんだ?)」

《……マスターは切り替えが早いね》

「(ほら、Y田君みたいな男に俺はなってみたいとも思ってるしな。眷属がやったことは俺が考え以上に必要なことなんだろうし、じっくり考えれば俺の方が悪いと分かるしな)」

《因みにだけど、彼になりたいということは勿論、アッチ・・・の方もかい?》

「(……桜桃にそれは無理だったな。俺、Y田君と違って特に重い過去も無いし、Y田君みたいな初めては無理だ。このやり取り、アンともやったからもう勘弁してくれ)」


 俺は娼館の主でもないし、パン屋を目指しているわけでも無いからな。
 大人の階段を一年で何段飛び越えたんだって言えるような、スーパな男にはなれないのは分かっているさ。


《まぁ、説明を始めるとしようか。
 スキル、は眷属みんながそれぞれ発動させているよ……主にマスターの防御の為のスキルが多いかな。
 スー先輩の(結界魔法)や僕の(万能吸収)、アンの(振動統制)等々、皆が色々な状況に対応できるようなスキルを発動させているよ。
 その内の一つに、マスターに関するあらゆる情報を偽装するというものがあるのさ》

「(それ、どうやって発動してるんだよ)」

《【一蓮托生】を使ってね。あのスキルは受け入れた者ならば、相手にどんなスキルでも発動できるようになるんだよ》


 おい、そんな機能書いて無かったぞ……。


《……黙秘権の行使するよ》


 ……どうやら眷属達は俺の(鑑定眼)にすら干渉できるみたいです。
 一体、何処からどこまでが真実なんでしょうか……ま、別に良いんだけどさ。


閑話休題そろそろネロの方へ


『……凄まじいものだな、光の大きさだけではなく、色まで変えるとは』

「視えない俺には良く分からんが、それはなによりだ。どうだ、嬉しいか?」

『あぁ、今までに感じたことのある何よりも喜びという感情が分かるぞ! そうか、これが本当の喜びか……ハッ! いや違う、違うぞ! こ、これは……その、お前の指輪の所為であって、吾の本意と言うワケでは――』

「はいはい、そうだな。ついでに言っておくと、共感と言ってもそこまでの効果は無いからな。
 俺が認識できる{感情}をほんの少し相手に渡し、それをその時に感じられる{感情}として相手に定義付ける――それだけだぞ」


 ……まぁ要するに、ネロが感じた喜びはネロ自身が元々持っていた感情であり、俺はそれを発現させるお手伝いをしたってワケだ。


「――う、う~ん。今日はもう疲れたし、最後にゾンビさん達をなんとかしたら、今日は休業だな。ネロ、行くとするか」

『う、うむ。"夢現空間"とやらだな』


 ということなので、俺達は扉を創って実家に帰館するのであった。



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