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山田 武

偽善者と『魔獣之王』 その05



 靄の腕はあの後、一度靄になってから元の場所に戻っていた。
 再生はボスに当然の能力だとは思うが……やっぱり、一筋縄ではいかないようだな。
 再び襲い掛かって来た魔獣さんの攻撃を避けながら、俺達は会話をする。


「(魔獣さん、少し時間の掛かる作業になりそうだ)」

《何をするのだ?》

「(魔法には必ず核が存在する。恐らくだがこの靄は、その核を壊さなければ解除されないだろう。
 今から俺はそれを探る為に、意識を割かなければいけない。少し俺の回避行動が鈍るから、そっちで何とか攻撃の正確さを抑えられないか?)」

《……やってみよう》


 魔獣さんがそう伝えてくると、攻撃の速度が少しだけだが落ちた。
 今までに操られていた経験もあるからな、直接操っている側を確認できれば、これくらいは可能か。


《――これが限界だ。すまない、メルス》

「(いや、充分だ。協力感謝する)」


 さて、魔獣さんも頑張ってくれてるし、俺も作業を始めますか。


(――"陣視""魔視眼")


 "陣視の隠形魔眼鏡"が持つ装備スキルと、魔力の流れを見ることができる神眼を発動させて、靄の中にある核を見ようとしている。

 その間にも、攻撃は続いている――

《……む? 体の中がムズムズするな。メルス、何かしてくるぞ》


 ――そう言った直後、魔獣さんの体に多種多様な動物の身体的特徴が発現した。
 顔にはたてがみが生え、翼は形を変えて巨大な鋏へ、尻尾の竜は粘土のようにグニグニと形を変えて蠍の棘に変わった。
 山羊の角や亀の甲羅、象の鼻に鷹の目、直ぐ見て分かるものや、良く視ないと分からないものなど、両手の指の数では収まらない程の動物の特徴と能力が、魔獣さんに加わる。


「(魔獣さん、その状態に何か違和感とかはあるか?)」

《いや、物凄く力が漲って来るぞ……だが、体の制御をより奪われた。気を付けろよ》

「(そりゃそうだよな!!)」


 まさに一人魑魅魍魎ができそうな魔獣さんの姿に色々とツッコもうと思ったが、そんなことをしている暇もなさそうだ。
 先程以上の速さでこちらに来る攻撃を避けながら、解析を続けている。
 ……グーやレンやアンの力を借りれば、一瞬で終わるんだろうなぁ……頼らないけど。
 現在彼女達には別のことを頼んでいる為、これを頼むわけにはいかない。
 それの解析に成功したら、色々と便利なんだよ。


《次、鋏がいくぞ!》

「(了解したっ!)」


 魔獣さんは体を抑える為、俺は解析に回した為少なくなった思考を誤魔化す為、エクスクラメーションマークが出る程強く意思を伝えていく。
 魔獣さんの指示通り、背中に生えた鋏が俺に向かって飛んでくる。

(――"バーニングウォール")

 少し遅れて発動させた炎の壁が、蟹の鋏を焼き尽くしていく。だが、焼けなかった部分の先端がウニョウニョと動くと、そこから再び鋏が生えてくる。


《今のは己にとって、ちょうど良い温さだったぞ》

「(……人なら普通、消し炭になる炎だぞ)」

《そうなのか? 良く分からなかった》


 そんな会話に和んだりしながらも、解析を進めていく内に――


「(解析に完了した。これで多分終わるぞ)」

《おぉ! 遂にきたのか! どうなるのか見物だな》

「(……まだどうなるか分からないからな)」


 さすがにもう転移眼や天駆の対策をしてきた為、中々見つけた核へ攻撃ができない。
 ――ま、全然問題ないんだけどね。

(――"完全なる操り人形")

 "天魔の創糸"で肉体に氣力を流し込んで、自身が制御できる動き以上で行動をする。
 本来は・・・、このような使い方が正しいのである……異論は認めないからな。
 体が壊れるぐらいの速度で魔獣を避けて、靄の所に向かう。
 そして、"偽・布都御霊"を構えて狙いを定め……そして、放つ――

(――"聖剣空斬撃・劣")

 装備している指輪の効果で、ギーが持つ武技を劣化させたものを発動できるようにしてある。
 今回発動したのは、【剣聖】の固有武技である"聖剣空斬撃"を劣化させた物だ。

 放った斬撃は白い光と共に、靄の中に存在する小さな核に命中する。
 聖なる力が籠められたその斬撃は、悪意によって創られた核を剣そのものの力を借りて浄化していく。

 白い光に包まれた靄は、一瞬光に抗おうと大きくなろうとするが、光の強さに勝つことができず、そのまま消滅していった。
 勿論、魔獣さんに付いていたどす黒い鎖も同様に、一緒に光の粒子となって消滅した。



 ドゥルに剣の回収を指示してから、俺は魔獣さんに話しかける。


「どうだい? 解放された気分は」

『最高……とは言い切れんが、己の頭の中に巣食っていた不快な物が取れたからな。心がだいぶ軽くなった……だが』

「そう、まだ終わりじゃないんだよな」


 魔獣さんはまだ心配している。いくら操られていたとはいえ、自分が襲ってしまった国がどうなったかを。


「とりあえず、俺はお前の中から出るから話はそれからだな」


 俺はそう伝えてから、魔獣さんの精神から出ていく。
 ……中々現実では使い辛い言葉だよな、これって。


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 目を開くと、少し前と同じ状況がそこにはあった……そう、様々な魔法によって拘束されている魔獣さんがいるという状況が。


『メルス、これを解いて欲しい』

「あ、悪いな。今解除する(――"奪魔掌")」


 今はMPが少しでも欲しいので、"奪魔掌"を使って回復を行う。
 先程までの闘いで、俺のMPは一割を切ってしまった。
 どんどん回復しているのだが、それでも全回復するのはまだまだ先だ。


 魔獣さんと話をしながら、全回復を待つことになった。



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