AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者なしの『永劫の眠り姫』 その04
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(とある<眠り姫>の体験記)
――ぼくの人生は、夢を旅する人生だ。
こんな話を、聞いたことがあるだろうか。
昔々、ペロー王国という小さな国がありました。狭い領土と小さなお城しかありませんでしたが、国中に笑顔が溢れていました。
何故なら、その国には7人の魔女が住んでいたからです。
彼女達は人々を祝福し、病気を治し、様々な予言をして人々を助けてくれました。
そんな中、一番年老いた魔女が、突然姿を消してしまった後、一人の若い魔女が現れました。
王国には今までと同じ7人の魔女が暮らし、今までと同じように人々と暮らしていったのです。
この国は、王と王妃が国を良く治めましたが、二人に子供は一人もいませんでした。
二人は「子供がいればどんなに良いだろうか」と、いつも話し合い、王妃は体に良いことや子供ができる方法等、色々試しました。
ある時王妃が泉で体を清めていると、泉の中から年若い魔女が現れました。
「王妃様の努力は報われます。一年以内に御子が授かるでしょう」
そうと言うと、若い魔女は霧となって消えて行きました。
しばらくすると魔女の預言通り王妃様は身籠り、美しい女の子を生みました。
王の喜びも王妃の喜びも大変なもので、その御子の為に七人の魔女を招き、盛大な洗礼式を執り行うこととなりました。
魔女の祝福は王女の美徳となり、幸せが約束されるのでした。
洗礼式が終り、一行は宮殿の大広間に向かいました。
そこには七人の魔女の為に、それぞれの席が設けられ、宝石で飾られたナイフやフォーク、スプーンが置かれ、黄金の器やお皿にご馳走が盛られていました。
ところが仙女達が席に着いたその時、一陣の風とともに一人の老婆が現れたのです。
それは、いなくなったはずの年老いた魔女でした。
王も王妃も真っ青になりました。
その年老いた魔女は、最も強い力を持ち、そして何より、激しい気性の持ち主だったのです。
年老いた魔女は自分の席がないことを知った途端、怒りに顔を真っ赤にしました。
七人の魔女達はその場を取り繕おうと席を立ち、一番若い魔女は隠形の魔法でそっと隠れ、年老いた魔女の席を作りました。
そして残りの魔女達は一人一人、王女に祝福を贈りはじめました――
最初の魔女は、王女が世界中で一番美しい女性になれる祝福
次の魔女は、王女が天使の心を持てる祝福
三人目の魔女は、何をするにも、驚くほど優雅に振る舞える祝福
四番目の魔女は、誰よりも巧く踊れる祝福
五番目の魔女は、どんな鳥よりも美しい声で歌える祝福
六番目の魔女は、どのような楽器も見事に演奏出来る祝福を王女に贈りました。
――年老いた魔女の番になりました。
一同は静まりかえり、その中を年老いた魔女が杖の音を響かせながら、王女の前に進みました。
そして大きな木の根っこのような指で王女の額を撫でると――
「おまえは、十五の年に、紡錘に指を刺され、命を落とすことになるだろう」
――と、恐ろしい呪いを口にしたのです。
そこにいたものは皆おどろき、王妃は悲鳴を上げ倒れてしまいました。
王は王妃を助け起こし、他の魔女は王女のそばに集まりました。
老婆はそれをみると意地悪そうに笑い、突風を巻き起こして消えたのです。
風が治まると、魔法で隠れていた一番若い魔女が姿を現しました。
「みなさん、祝福はまだ残っています!」
若い魔女は、王女の前に立つと――
「私には年上の魔女の言ったことを取り消すだけの力はありません。ですが、変えることはできます。王女様は紡錘に指を刺されますが、命を落とすことなく眠りにつくのです。そして百年後、その眠りから目覚めます!」
――と言いました。
若い魔女の祝福は、王女の未来を約束するものでした。しかし、安心できるものでもありませんでした。王は王女の為に国中から紡錘を焼き払い、紡錘で糸を紡ぐことを禁じ、持った物を処罰するとの御触れを出したのです。
王と王妃と学者達の間では、色々な議論が交わされた後――
『あの紡錘とは、男性器の比喩表現では?』
――という考えが持ち上がりました。
紡錘に刺されて血を流して死ぬ。とは、男性に無理やり襲われ、貞操を失い死ぬ、という仮説が浮かび上がりました。
王はこれを聴き、姫の周りには小間使いの男すら近づけず、身の回りの世話は全て女性にさせて、姫を「男の子」として育てる事にしました。
姫は男の子としてすくすくと育ち、父である王と狩りに行ったり、元気に野原を駆けまわったりと、活発な子になりました。
姫が短髪に短ズボンで城の中を歩き回るのを見て嘆く者もいましたが、その中性的な雰囲気が逆になんとも愛らしいと思うような者もいたそうです。
……王国から紡錘は消え、そして十五年が経ちました。
王女は魔女達の祝福通り、世界中で一番美しい、天使の心を持つ少女に成長しました。
立ち居振る舞いは例えようも無く優雅で、美しい声で、誰の心にも響くように話しました。
王女のいる場所は、たとえ嵐の夜でも春の日の暖かさに包まれました。
年老いた魔女の呪いのことも、紡錘のことも何も知りませんでした。
ただ世界は、祝福に満ちあふれた世界だったのです。
その日は王も王妃も別荘に出かけ、王女だけがお城に残っていました。
王女はいつものように御前中は家庭教師と勉強し、午後になると自由に過ごしました。
王女が庭に出ると、どこからかカタコト音が聞こえてきました。
(何の音だろうか?)
王女はその音を探して、お城の中を探しました。
納屋の中からではありませんでした。
王妃の部屋からでもありませんでした。
厨房の中からでもありませんでした。
その音はお城の上の高い塔の上から聞こえて来ていたのです。
王女は長い長い階段をのぼって行き、屋根裏部屋の戸を開けました。
そこには老婆がカタコトと紡錘をあやつり糸を紡いでいました。
王女には老婆の操る紡錘が不思議なもののように思えました。
くるくる回すだけで糸が次々に繰り出すさまは王女の好奇心を十分刺激しました。
「お婆さん、何をしているんだい?」
『糸を紡いでいるんだよ、お嬢さん』
「ぼくにもできるかな?」
『ええ、私よりうまくできますよ』
王女は老婆の差し出した紡錘に手を出し、そして指に、紡錘を刺してしまったのです。
その瞬間、王女は気を失い、倒れてしまいました。
GYAAGYAAGYAAGYAA
王女が倒れたのと時を同じくして、魔物が飛び去って行きました。
風に乗って魔物の笑い声が、国中に響き渡りました。
王女が見つからないことに胸騒ぎを覚えたお城の者達は、あちこちを探しました。
王女が消えたことはすぐに王と王妃に知らされ、二人は急いでお城へ帰りました。
その夜遅く、塔の屋根裏部屋で、王女は紡錘を手に持ったまま倒れて発見されました。
王女が眠りについたことを知ったのか、仙女達が集まってきました。
王は娘を用意してあった眠りの部屋に運び込み、金の刺繍の入ったベッドに寝かせました。
魔女達は王女をどうにかしようと、あれこれ工夫してみましたが、どれも上手くいきませんでした。
唯一できたことと言えば、7人の力を1つに合わせて眠っている王女の状況そのものと、一番若い魔女が持っていた魔法の茨をスキルとして一つに纏め上げ、もし自分たちが居なくなった場合でも、生きていけるようにしました。
ですが年老いた魔女は、王女の死を諦めていませんでした。
魔女の掛けた呪いには、まだ続きがあったのです。
魔女の掛けた呪いは、7人の魔女が創り上げたスキルを乗っ取り、国中を茨で覆い尽くしました。
幸いにもこれを予言した一人の魔女によって国民達は国を離れることによってこれを回避しましたが、眠りについたままの王女は、誰にも助けられない状況に陥りました。
そんな時、一柱の神が王に神託を与えました。
『私は、運命を司る神、フェイティーノ。
私に彼女を任せてくれませんか?』
そう王に告げた女神は、彼女を救う方法を伝えました――
『この世界に100年後、異世界よりプレイヤーと名乗る異邦人達が遠く離れた大陸に現れます。その者達は、私達の加護の力により、強力無比な力を兼ね揃えています。
魔女の呪いは、本人を倒す事で消す事が出来ます。それまでは、私の力で時間を飛ばして、プレイヤー達を待つ事にしませんか?』
――そう、女神は王に告げると、『次の日に答えを聞く』と良い、神託を終えました。
翌日、女神が答えを訊きに、神託を繋げると王は女神にこう告げました――
「何処の誰とも知らない者に、私の娘を任せる訳にはいかない。そのプレイヤーという物たちが魔女を倒せるという保証が何処にあるというのですか。申し訳ありませんが、今回の話は無かったことにしてください」
――そう告げると、今までおおらかな話し方をしていた女神は、突然怒り出し、王と全ての国民に告げます――
『お前達の選択がどれだけ愚かだったかを、思い知るがいい! お前達の姫は、誰も助けることのできない終焉の島で、永劫の眠りに就くことになる!』
――女神をそう言った途端王達の足元は薄皮1枚を剥いだように、草木が綺麗に無くなった地面になっていました。
慌てて魔女たちにこの状況を確認すると、女神の魔法によって、国ごと王女が転移されたと告げられました。
王達はこれからのことを話し合った結果、この地に新たな国を造り、その国を魔女達の創った魔法生物に管理させ、自分たちは眠りに就くことにしました。
いつか帰って来る王女が、一人で心細い思いをしない為に。
さて、そんな王女は今、明晰夢を見れるようにまで自分の夢をコントロールできるようになった。……何せ100年だからね、時間だけはたっぷりあったみたいだよ。色んな夢を見た、自分が呪いなどを掛けられず、そのまま育った場合の夢や、全く別の立場に生まれた場合の夢。……地球という星に生まれた、という状況の夢もあったね。
……え? どうして、こんなに客観的に話ができているかだって? ……それはもちろん、ぼくを助けてくれた人がいるからだよ。彼は王子様には向いてないし、彼自身がいう程、偽善者にも向いて無かった。……だけど、ぼくを助けるために努力していたのは本当のことだからね。夢の中に住み続けようとするぼくを、外の世界に誘ってくれた。怒られたことの無いぼくを叱ってくれた。彼は、ぼくに色々なことをしてくれた。……少し残念な人だけど、ぼくは彼のことを愛していると思うよ。
それじゃあ、ぼくはもう一度夢を見ることにするよ。……あぁ、大丈夫。また何年もなるなんてことにはならないよ。ただ、ちょっと思い出したいんだ。……ぼくが永い眠りから目を覚ました、その日のことを。
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