AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

04-48 撲滅イベント その26



 周囲に張っていた“時空停止ストップ”を解除し、世界時間に主観時間を合わせた。
 これでようやく、最後の人物と顔を合わせることができる。

 実際、最初に展開していた『神鉄壁オリハルコンウォール』の解除によって、出てきた祈念者が……俺に向けて一言。

「──遅かったな、待ち侘びたぞ」

「いやはや、すまない。君みたいな強そうな奴の相手は、やはり最後だと考えていてね。先に他の奴らの掃除をしていたんだ」

「強そうな、じゃなくて強いだ。だが、よくやってくれた……要するに、この先おれたちの戦いを覗き見する奴はいないわけだな」

 フードを被り、その姿を隠す祈念者。
 俺が一番──【勇者】よりも──厄介だと感じ、戦闘から除外していたその者は、自信ありげにそう言ってくる。

 だが、ちらりと見えた肌には種族を特定できるもの──鱗が見えた。
 その鱗に少々興味を覚え、鑑定眼でじっくりと視て……反省する。

「そう……だな。まあ、俺には勝てないだろうが頑張ってほしい。その、傷をつける程度ならできるだろう」

「……さっきから何なんだ。人のことを下に見て。いつまでも、そんなことを言ってられると思うなよ」

「まあ、頑張ってくれよ──お嬢さん・・・・

 よっぽど隠す自信があったのか、ビクリと体を震わす少女。
 まあ、たしかにスキルとかで隠してはいたようだが……神眼の前では無意味だった。

 もちろん、他のこともちゃんと視ておいたので素性は把握してある。
 彼女の名前は『イア』、種族は予想通りそう選ぶ者が居ない竜人族ドラゴニアで──

「……なんで、分かった?」

「普通持っているだろう、鑑定スキル? 俺の特別製で、何でも視れるわけだ。多少の条件はあるが、今回はじっくりと視れたから分かったわけだ」

「……」

「なかなか珍しいよな、竜人族で召喚士を選ぶ奴って。どっちもレベルを上げづらい、そして特段組み合わせとして好ましいわけでもない……どうしてそんな苦行を?」

 竜の力を初期から持っているため、他の種族よりも成長が遅い竜人族。
 経験値が従える魔物にも注がれるため、自身のレベルが上がりづらい従魔系の職業。

 どちらも大器晩成型と呼ばれる種族と職業ではあるが、だからと言って両方をやることに特別な意味は発見されていなかった。

 竜がわざわざ従える魔物を呼びだす必要などなく、自分が強くなる方が手っ取り早い。
 魔力はそれなりに多く、回復も早いため召喚には向いているが……謎である。

「趣味だ、悪い?」

「いいや、何も。この世界は自由、好きにすればいいと先ほど語ったばかりだ。無駄の先に何があるかなど、それを行った者にしか分からない。部外者がどうこう言うことも無いだろうさ」

 せっかく現実とは違う場所で、少なくとも立場というしがらみから解放されたのだ。
 彼女がどういった人間かなんて関係ない、やりたいようにやればいいさ。

 俺だって偽善をやりたいがために、いろんなヤツを巻き込んでいるわけだしな。

「さて、そろそろ始めるとしようか。とはいえその状態では、戦えもしないか。自分の竜化を進めるか? それとも従魔を出すか?」

 竜人族は自身に流れる竜の血から、祖となる竜の力を取りだす……冗談ジョークじゃないぞ?
 スキルレベルが高くなればその準備も早くなるが、視た限りだいぶ時間が掛かる。

 だが彼女は同時に召喚士でもあった。
 同じく詠唱を必要とする召喚魔法を用い、その都度従魔を呼びださなければならない。

 それらをいっしょに行うことは、とある事情で難しくなっている。
 なのでそれぞれどちらかを、選んで使わなければならない。

「……■■■──“従魔召喚サモン・ヴァレイ:ルー”」

 イアが選んだのは召喚魔法。
 契約した存在を相応の魔力によって、別の場所から呼び寄せるというものだ。

 魔法陣から出てきたのは、漆黒の体毛を持つ狼型の魔物である。
 魔法名にあった『ルー』というのは、イアの従魔としての名前だな。

 鑑定眼で調べると、『闇狼ダークウルフ』という初期の狼が二段階ほど進化した魔物のようだ。
 名前から分かるように、闇魔法を使うことできる少々厄介な魔物である。

 ちなみにそれを知っているのは、迷宮の機能を調べるときに説明文で見たから。
 魔物の名称と説明文程度なら、召喚しなくても宣伝だけで知れたからな。

「ずいぶんとカッコイイ狼じゃないか……もしや、貴様よりも格が高いのではないか?」

「むしろ褒め言葉だ」

「それだけ共に戦っているのだろう。従魔もまた、貴様を慕っていると理解できる。これは……期待できそうだな。【勇者】であった少年よりも、総合的な強さは上のようだ」

 ハーレムパーティーだったアイツの場合、完全なワンマンプレーである。
 しかし彼女は従魔と連携し、独りでは成し得ないことを可能とした。

 一撃一撃が強くなくとも、少しずつ削っていけば敵は倒せる。
 召喚士の従魔は死んでも蘇る……魔力と媒介さえあれば。

 だからこそ、死んでもやり直すという祈念者特有のスタイルを従魔と共に行える。
 レベルの上がりづらい種族と職業であっても、数で補えば強くなるのは必然だ。

「うむ、やはり良い。貴様もまた、ヤツのように屈服させてみようではないか」

「……この淫獣。ルー、あの変態を噛み千切れ!」

 どうやらやる気になってくれたようで……うん、狼も唸り声を上げている。
 さて、これが最後の戦いだ──とことん楽しもうじゃないか。


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