AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

04-34 撲滅イベント その12



 さて、『ユニーク』と眷属たちには退場を願ったわけだが、まだ他にも試練を乗り越えた祈念者は残っていた。

 現在彼らには試練開始前、予め設置しておいた迷宮を攻略してもらっている。
 迷宮核には『副核《サブコア》DP:500』を使い、レンに管理を任せているぞ。

 階層はたった二層、ただし一層から二層に行く条件は一定時間その層に居ること。
 足止め用の仕掛けなのだが、お陰で交渉をしている時間が稼げた。

「しかしまあ……完全に魔王って感じだな。このエリア、結構高かっただろうに」

 二層には黒と赤で彩られた、禍々しくも絢爛さを品のある玉座の間が広がっている。
 そのため当然、玉座が入り口から見て正面に置かれているのだが……うん、邪悪だ。

 理由わけを訊こう……製作者に直接。
 ただ、すでに俺も迷宮の中、本人(?)が居らずとも尋ねることは可能。

「──どういうことなんだ、レン。さすがに邪悪すぎないか?」

主様マイマスターが悪役のように振る舞っておいででしたので、その役に最適なエリアを構築させていただきました》

「……一理あるな。ちなみに、経費は?」

《およそ1000DPかと。一層の罠に少々掛かりましたが、そちらを含めても3000DPほどです》

 分かりやすいたとえを言うと──魔小鬼デミゴブリンの迷宮版がだいたい15Pである。
 つまり魔小鬼を200匹召喚するのと、今回の設備設営は同等というわけだ。

 ルーキーの祈念者が単独で戦える数は──およそ四体。
 それだけ居れば連携を取るし、野生の個体なら毒や他の魔物の素材で攻撃できる。

 ある程度強くなれば、一掃できるようになるのだが……それでも限界が存在した。
 200匹も居て、それらで高め合えば王の個体も出現する──レイド級の強さである。

「自分で考えて余計に分からなくなってきたな……まあ、それぐらいなら魔力補給で補えるだろう。今度、直接そっちに行こう」

《ッ! ……ありがとうございます》

 なんだか一瞬、歓喜が伝わってきたような気もするが……気のせいだろう。
 まあ、俺の身近の数字は、何でもかんでも多いので、1000Pも気にならないのか。

「けどまあ、準備は万端だ……だいぶ待たせているし、そろそろ開放してくれ」

《了解しました》

 レンに命じてたのは、二階へ続く道を塞ぐ仕掛けの解除。
 それによって起きるのは、当然ながら侵入者たちのカチコミ……掛かって来いや。

  ◆   □   ◆   □   ◆

「──勝負だ、魔王!」

 玉座で待ち構えていた俺に向けて、剣を掲げて叫ぶ少年。
 女性を連れた金髪のイケメン……チッ、典型的なハーレム野郎だった。

 魔王と呼ばれる筋合いは皆無なのだが、傍から見たらやってきたことやこの場所的に間違いないかも……と思い直し、低い声を意識して彼らに語り掛ける。

「よくぞ来た、十三人の強者たちよ。我が城『暗褐城』の最深部へ!」

「……いや、二階層しか無かっただろ」

 ハーレム野郎とは別に居た男の集団、そのリーダーっぽい奴が突っ込んでくる。
 人数の割合は6:6:1……うん、一人だけ孤立した感じを醸し出しているし。

 そいつは外套に付いているフードっぽいヤツを深く被っているため、顔立ちや性別は分からないが……まあ、さまざまな観点から見て、男だと思います。

「惜しむらくは、誰も歓迎しなければこの部屋へ来れなかったことだな。魔法を解除し、強力な物理攻撃を叩き込めば扉は開くようにできていたはずなのだが……まあ良い、試練の難易度を少し甘くしてやろう」

「なんだと! 俺が……この俺が弱いとでも言いたいのか!?」

「何者かなんて知らぬよ。ただ、これだけは分かるぞ──全員、俺より弱ぇ」

「……ぶっ殺す」

 イケメンがぶち切れ、男の集団は笑う。
 前者はともかく後者はどういう心情なんだろうか……ざまぁ?

「なぁなぁ、魔王さん。俺たちがいったい、何をさせられるんだ?」

「試練だ。ただし、少しばかり実験にも付き合ってもらうがな──『神鉄壁オリハルコンウォール』」

 生みだしたのは神鉄鉱で出来た壁。
 元は【鉱魔法】の“鉱壁《オーアウォール》”なのだが、構成する成分を神鉄鉱に特化させることで硬度を高めた魔法だ。

 ……異常なほど魔力、そして僅かな神気を消費するのだが、『下級神』の分際ながら神アイテム(まんま)の素材が創れるようになりました。

「さて、お前たちに状況を説明しよう。今、お前たちはパーティーごとに分断された。居ない奴は別の方に居ると思え。それぞれ異なる試練を受け、生き残れば試練達成だ。報酬は期待しておけ」

 とは言ったものの、何を渡すのかはまだ決めていないんだよな。
 リア充君は……聖剣だな、鑑定で視たところレアではあるが、聖剣じゃないようだし。

 対して男の集団──男組は、もっと実用的な物がいいだろう。
 やり過ぎると彼らも嫌がるだろうし……俺が不要な物にしておくべきだ。

 ほら、ちょうどバカ正直なリア充君と違って異議を申し立てているし。
 壁越しに聞こえてくる声を、迷宮の機能でモニターとして彼らの様子を窺ってみる。

『おいおい、そんな口だけの話信じられないだろ。その試練? とやらも、実験だ。お前の目的が済んだらポイって可能性もあるってことだ……だいたい、『ユニーク』の奴らはどこに行ったんだ?』

「必死に無い知恵を絞って考えたモノだな。ふむ、ならば貴様らにはサンプルを提供してやろうではないか──“空間転送アスポーツ”」

 アイテムを移動させる魔法で、報酬として決めていた物を男組にプレゼントした。
 モニターの中で掌に見事着地したアイテムに、男は噴き出すほど驚いている。

『こ、これ……おい、いや、これって!』

「何を焦っているのやら。俺が普段、要らずに捨てている失敗作だが? 俺ほどの強さになると、あまり効果が出ないのだよ」

『……秘薬がかよ』

 秘薬とは、身力の回復に加え、状態異常の解消も行えるアイテムだ。
 ただ、完全回復というわけでもないので、性能ならば劣化アンブロシアの方が優秀だ。

 ……比べる物のレベルが違う気もするが、普段はこっちばっかり使っているからな。
 ちなみに回復量はおおよそ500、俺じゃなきゃ欲しがるだろうと渡した品だ。

 実際、喜んでくれているみたいだし。
 ……その顔が男組とはいえ、俺と比べれば圧倒的なイケメンフェイスでなければ、俺も純粋に喜べたんだがな。

「チッ──“冥界顕現シェオル”!」

 対象はこのエリア全域。
 辺りは魔法の影響で目に見えて昏くなり、芯から冷える黄泉の風が吹き始める。

「さぁ、始めよう──“下位死体召還リコール・レッサー・カーカス”」

 事前に仕込んだアンデッドを呼び起こす魔法で、五十体の多様な死体を目覚めさせた。
 まずは様子見、彼らの動きを観察する……一流の戦い方を知りたいからな。


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