AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

04-24 撲滅イベント その02



 リア充グループに属する魔法使いたちが、攻撃を開始する。
 まだ、数分しか経過していないにも関わらず、戦況の変化が著しい。

 二人の魔法使いが放った魔法。
 質と量がとんでもない魔法と質が異常すぎる魔法によって、すでに非リア充グループの二割ほどが死に戻りをさせられている。

 肉体の再構築に必要な時間に制限が設けられているため、戦線に復帰するために時間が掛かってしまう。

 しかし、その間は特殊なエリアに飛ばされて観戦にさせられる……それほどまでに膨大な時間が経過してしまうため、実質的には退場と称するしかない。

 数、そしてイベント補正で有利になっているはずの非リア充グループではあったが、先ほどの魔法による先制攻撃によって、精神的に不利になってしまっていた。

「ナックルさん、支援魔法終わったよ!」

「ああ、ご苦労さん」

 そんな隙を窺うように、リア充グループの方でも更なる攻撃の準備が始められている。
 支援魔法を担当する者たちの代表者であるユウが、総大将のナックルに報告を行う。

「そうか、ならば──全軍、突撃だ! 細かい指示が必要ならそのときに伝える! 今はただ敵を倒すことだけを考えて突き進め!」

 先制攻撃が終われば、基本的に行動へ制限は掛けないと『ユニーク』内で決めていた。
 個人でイベントに貢献することで得られるポイントを取り合う以上、束縛はできない。

「僕も行っていいんだよね?」

「ああ、他の奴にも[ウィスパー]で連絡してやらんとな……ところで、アイツは? あの魔法、間違いなく言ってたヤツだろ。保護者(?)はどこに行った」

 フェニによる大規模魔法に関する情報は、事前に予想されていた。
 そしてそれを伝えた男──メルスの行方をナックルは知らない。

 非公式ではあるが、もっとも個として優れた祈念者であるメルス。
 本来であれば、彼がどこにいるのか把握しておくべきだろう。

 仮でも所属がユウのグループだったので、彼はそう問いかける。
 だがしかし、ユウはその問いに……頬を掻いて困った表情を浮かべた。

「えっと、師匠ならさっき、どこかに居なくなっちゃって……」

「居なくなる? どこに行ったか、何か言ってなかったのか?」

「あのー、観戦するって言って……上に」

「上? ……はあ、自由だな」

 メルスが空を飛んでいる姿を知っているため、それ以上は質問せずに納得する。
 そして、最終兵器級の戦力が失われたとため息を吐く。

「もともと作戦には最初から入れないでいたが、一気に行くとはな……これであっちの大将を直接無力化してくれるなら、大助かりだがな。無理だろうな……」

「キョウカさんだっけ? 僕たちが師匠と知らずに、師匠を恨んだあのイベントで扇動していた人」

「何の因果か、あっちに居るからな。こっちに居てくれたなら、指揮を執ってもらおうと思っていたんだが……まあ、アイツならどこに居ても何かやってくれるだろう」

「うん、師匠ならきっと……」

 ──やらかしている。

 二人の気持ちは今まさに、起きた事態を予測していた。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 SIDE:【扇動者】

「な、に……いったい、何なのあれは!?」

 リア充グループのスタート地点は山頂、対する私たち……遺憾ながら非リア充グループは麓にある平原の奥地。

 当然、高低差を利用した遠距離攻撃が降り注ぐことは予期していた。
 しかし、事前にその策は用意して、犠牲はほとんど出ないはず……だったのに。

「前方より報告──死に戻り率90%! このままでは、同志たちの復活を待つ前に全滅する可能性大だと!」「斥候班より報告──腐れリア充野郎どもに動きあり! もう間もなく、奴らが来るとのこと!」

 代表者たちでパーティーを組ませ、班ごとに分けた仲間の動きを逐一報告させていた。
 そのすべてから伝わってくるのは、何もかも最悪の事態。

 非リア充グループを統べる代表者、そんな立場に私──キョウカは現在いる。
 本当なら、私の支配下に入った人は統率された動きができる……はずなのに。

 リア充グループの放った一撃は、私の能力でも、集団を制御できなくなるほど、衝撃を与えていた。

「なぜよ、リアルが充実していると、なぜだかそういう奴らが増えるのよね(私調べ)。さっきの魔法だって、絶対に固有能力で強化されているわよね」

 一度目の魔法は間違いなく、【思考詠唱】のアルカの仕業よ。
 二度目に心当たりはない……けど、あんなバカ火力、間違いなく固有能力よ!

 おそらくは一発に特化した能力。
 アレ以降、派手な攻撃が行われていないことからもそれくらいは予測できる。

 一日に一発……は、さすがに無いわね。
 それでも時間があれば、次が来ることを想定して対応しなければ。

「──お困りのようですね。もしよろしければ、私の方で皆さまの統率だけでもどうにかしてみせましょうか?」

 分からないことだらけの現状、そして迫りくるリア充グループの陰。
 だからだろうか……突然聞こえてきたその声は、いやに魅力的に思えた。

 しかし、大将を任された以上すぐ飛びつくわけにはいかない。
 いかにも怪しんでいます、という表情を取り繕ってから、訝しむように呟く。

「……どうやって?」

「あなたの力は予測できる限り、大衆を導くものだと思えます。しかし、そのためには一定以上の精神状態が求められる。対して、私の能力はどんな状態であれ、精神状態を真っ新にすることができるというものです」

「……私の能力は精神系の状態異常があるときは効きづらいわ。そういう系の能力なら、頼りにはできない」

「ご安心を。調整が可能です」

 調整、幅が広い能力ということね。
 最初の説明と合わせて考えると、私の能力のように操ることはできないけど、代わりに他者の精神を強く刺激できるということ。

 考えて…………不可能ではない。
 私の能力は深く入れば入るほど、対象の能力値を強化できる。
 じゃあ、全員が受け入れる状態なら?

「一つ、教えてちょうだい──ここまでしようとする理由は?」

「それは当然、私たちのグループを──」

「あなたはリア充グループでしょう? 始まる前に、こっちのグループの人は全員確認しているのよ」

 それぐらいは朝飯前。
 一時間も猶予があるうえ、このゲームには便利なスキルがたくさんある。

 けど、この男の顔は見ていない。
 それにそんな能力があるなら、もっと早く気づけても良かった。

「……けど、わざわざ協力する理由が見つからないのよ。ここまで言っているのに口封じもしない、そのうえ真剣に聞いている。これはかなりの違和感だわ」

「…………」

「……まあいいわ。理由はともかく、少しでも面白くなるなら。それで、やってもらうための条件は何かしら?」

「本当はいろいろと考えていましたが……なるほど、面白くなるなら、ですか。いいですね──私の要求は、フレンドになってくれること、でどうでしょうか? 少しばかり、興味が湧いてきましたので」

 ……へっ? そ、そんな簡単なことでいいのかしら?
 本当は枠にも限界があるんだけど……私のリスト、ほとんど真っ新なのよねー。

 断る理由もないし、こちらとしても好都合だったので互いに[フレンド]機能を使って登録しあう。

 名前は……『メルス』ね。
 聞いたことのない名前だけど、間違いなく固有持ち……覚えておこう。

「ありがとうございます。では、さっそく契約を履行させていただきます──はい、これで完了しました?」

「……本当に?」

「あちらをご覧ください。あそこの彼が、最初に効果を発揮するようにしてあります」

 てっきり、なんだか凄いエフェクトが発生するものだと思っていた。
 しかし現実は何も起こらず、指を鳴らしたメルスがいるだけ。

 返答に心の中で首を傾げつつ、示された方向に居たプレイヤーの姿をジッと見つめる。
 すると、突然動きを止めた彼は……突然大声を上げて前方へ吶喊しだした。


「──り、リアジュウはイネぇカぁアあ!」


 その速度はすさまじく、あっという間にリア充グループの下へ辿り着く。
 固められた防御網、だが彼はそのまま握った武器を振るい──すべてを吹き飛ばす。

「ちょ、どういうこと……って、あれ?」

 問いただそうとメルスの方向を見るが、そこに彼の姿は無かった。
 私を騙したのか、そう思うことを予期していたのか──脳裏に軽快な音が鳴る。

 それは、[メッセージ]機能に連絡が入った通知音。
 まさかと思い、それを確認する……そこには、真実が書かれていた。


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メルス:キョウカさんへ

 これを貴女が読んでいる頃、きっと私に疑念を抱いていることでしょう。
 すでにその場には居りませんが、悩まれるであろう問いにはお答えします。

 発動させたスキルは、精神を真っ新にします……そのうえで、目的を埋め込むことができるのです。

 おそらくキョウカさんの能力は、他者への扇動が主なものなのでしょう。
 なので気を利かせて、思考をリア充死すべしというもの一択にしておきました。

 ただ、とある単語を指示に混ぜれば絶対に言うことを聞くようにしてあります……もちろん、特定の人物限定で。

 私の大切なフレンド、キョウカさん。
 独りで抱え込まず、周りと協力して戦場をより面白いものにしてください。

 戦いを止めろ……とは言いません。
 貴女には貴女の信念があり、それを歪めるのはどうかと思います。

 ただ一つ、言えることは──私がこれから行うことは、とても面白いことです。
 どうか、楽しんでください……いずれまた会った時、その感想を教えてください。

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 友人……そう言ってくれる人は、全然いなかったわね。
 私が【扇動者】を得たのは、そんな人間性が発覚したから。

 人を使うことを考えていた私、『面白い』という言葉はせめてもの足掻きだった。
 他者を使うことに罪悪感を覚えないよう、誰かのためになったと自分が思えるように。

「面白いこと、ねぇ……ふふっ、いったい何が起こるのかしら?」

 分かったうえで、この[メッセージ]を彼は残したのかしら?
 こんなことを書かれたら……何が起こるのか、とても楽しみになるじゃないの。

 ──もしそれがとっても『面白かった』なら、そのときは……。


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