AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
04-10 撲滅イベント前哨戦 その02
「では、班分けをしましょう。皆さんの得意な魔法は分かりましたし──それぞれ攻撃・防御・回復・補助に分けさせてもらいます」
ノロジーはそう言い、祈念者の名前を呼んだ後にAからDのローマ字を告げていく。
彼女たち『ユニーク』のメンバーがそれぞれのリーダーで、どこかに割り振られる。
フェニはアルカがリーダーの攻撃班、そして俺は──
「うん、僕が補助班のリーダーになったユウだよ。みんな、よろしくね」
ユウ──【断罪者】がリーダーの補助班に配属されることになった。
強化魔法を使えると言ったのだから、当然の割り振りだとは思うけど。
防御魔法も回復魔法も行動に自由が無いから嫌だったし、攻撃魔法は……アルカだと分かっていたので止めていたのだ。
ユウの担当する補助班だけが、俺の望み通りの部署だったといえよう。
なぜなら彼女のように武器も魔法も使えるようなヤツは、だいたいここに配属だし。
「えっと、僕がノロジーにやってと言われたことはそんなに多くないよ。補助魔法はいっぱいあるから、用途が違うしね……というわけで、一度みんなの魔法を使ってほしい。それでやってほしいことを決めることになる」
「それでどうなるんですかー?」
「僕たちの班はサポート要員だから、いろんな場所に配置されるみたい。直接前線で補助魔法を掛けたり、後ろで高威力な魔法を放つ人たちを助けたり……ジャンルが広いし、僕がみんなの意見を聞いて場所を決めるんだ」
誰か意見のある人は? と訊ねると、質問が次々と殺到する。
さすがはリア充たち、率先して気になることに首を突っ込んでいくようだ。
「……レベル、調節しないと」
リーのスキル(実力制限)を用いれば、スキルレベルを抑制することだってできる。
一部のスキルにはなぜか通用しないが……まあ、今回使うべき強化魔法に使用可能だ。
「じゃあ、一人ずつやってもらうよ!」
ユウが名前を呼び、呼ばれた者は改めて使う主な魔法を告げてユウに施す。
……時折俺も知らない有用なスキルが出てくるので、それはありがたく模倣していく。
それらを吟味していくと、あっという間に時間が過ぎ……なぜか最後になって、ようやく俺の(偽)名が呼ばれた。
「それじゃあ、ノゾムさん──どうぞ!」
「あっ、はい……●▲▼★■●▲▼★■●▲▼★■──“身体能力強化”!」
ものすごーく、わざとらしいため時間を経た後、それなりーに効果はあるが、規定通りの時間以下しか持続しない魔法を施す。
するとあら不思議、近接戦闘を行う前線に送り込んだ方がいい人材のできあがり。
詠唱の長さは問題かもしれないが、庇ってもらえばいいだけのこと。
身体能力への補正って、魔法職よりも物理職の方が役立つんだよな。
……という心情をこっそりと籠めて、この魔法をチョイスしました。
「…………うん、解けたね。凄く能力値に補正が入るんだ」
「まあ、そういうビルドですので」
「そっかそっか、そうなんだ」
何やら勝手に納得したようだ。
うんうんと頷くユウは、歩いて最初に居た場所に戻る。
その直前で──
「うん、ようやく見つけた──『模倣者』」
「……ッ!?」
──そう呟き、再びリア充たちを相手に何かを話し始めた。
だが、俺の脳には会話を聞き取るような余裕など無い。
「……なんでバレたんだ? 超級隠蔽は働いているし、実力偽装とかもちゃんと機能しているはずだしな」
改めて確認してみたが、やはりステータスの偽装に問題は無かった。
となれば、純粋に偽装を破るスキルがあるのか……はたまたそれ以外の要因か。
たとえばほぼありえないが、ソイツが俺以外の全員を視ることができるからこそ、相対的に分からなかった俺の正体に気づいた……とかな。
「──というわけで、今言った場所で基本的に動いてもらうよ。細かい指示はそれぞれの班の代表者に訊いてね。で、指示が有ったら別の場所に行くことになるかもしれない、それを覚えておいて」
どうやら話は終わったようだ。
言われた場所とやらはさっぱりだが、とりあえず移動を始めた集団のどこかに付いていけばいいだろう……そう思っていた。
だが、なぜかユウは近づいてくる。
先ほどのこともあり、警戒心を強めてスキルをいくつか起動しておく。
「お待たせ、じゃあノゾムさんも行こうか」
「えっと……なぜ、私だけ?」
「あれ? 話を聞いてなかったのかな? ノゾムさんは僕といっしょに行動してもらうんだよ……訊きたいこと、あるでしょ?」
「……ええ、ぜひとも」
仕方がない、直接本人に確かめよう。
起動していたスキルの一部を停止、代わりに別のスキルを用意しながら……彼の後ろを付いていった。
◆ □ ◆ □ ◆
「──さて、どうやって気づいたんだ? 正直、バレるとは思ってなかった」
力場支配スキルを使い、自分の魔力をユウの周りに広げて維持しておく。
威圧スキルを取らずともできる、簡易的な威圧として使っている。
だが、ユウは特に何も反応しない……表面上はケロッとしてその質問に答えた。
「僕の固有職業、覚えているかな?」
「……【断罪者】、だろう?」
「さっき教えたもんね、覚えていてくれたんだ。うん、その【断罪者】には相手の業値を視ることができる能力があるんだ……だけど僕は、これまで業値がピッタリ±0の人を一人しか視たことがない。」
「…………ハァ、そういうことか」
俺が隠したステータスは職業やスキルに関する部分、それに身・能力値だけだ。
普通はそれだけで充分なのだが……コイツはそれ以外のモノ──業値を視ていた。
さっきの予想、ある意味当たっていたか。
他にもいるかもしれないが、それは間違いなく(体だけは)無垢な初心者ぐらいだし。
「そうだよ、俺が『模倣者』だった。けど、それを誰かに言い振らかすつもりか?」
「ん? 別にそんなつもりは……あっ、でもアルカにだけは言わせてほしいかな? あの娘も、会いたいって言っていたでしょ?」
「そうだな、俺を殺すためにな」
復讐だよ、完全に復讐。
無駄にキザな台詞で時間を稼ぎ、摸倣をしていたのが問題だったのかもしれない。
とりあえず、上手に『ギャフン』を言う練習はしておかないと。
「俺……何かしたのか?」
「僕が知るわけないって言いたいけど、それも聞いているよ。えっと……いろいろと癪に障ったから、らしいね」
「……本当、何をしたのかな? なあ、分からないか──ユウ君や」
「──。……ユウ、君?」
なぜに今さら、自分の名前を区切る。
まあ待て、俺にだって思考を巡らせるぐらいの知恵はある…………そういうことか。
「いきなり君付けは嫌だったか? まあ、男同士腹を割って話すとか……やったこともないことをしてみたかったんだよ」
「…………だよ」
「だから……ん、今なんて?」
「だから、僕は女の子だよ!」
────。
知恵があると思っていた脳みそは、どうやら空っぽか一部が損傷しているようだ。
いちおう治癒魔法を俺、そしてユウに施してみるが……現実に変化はない。
「なんで魔法を掛けたの!?」
「いや、その……なんていうか、ごめんな。僕っ子って希少だし、俺の身の回りにお前みたいな奴居ないから……な?」
「……ねぇ、今どこを見て言ったの? 僕みたいって何が、何が僕みたいなのかな!?」
「……この世界はなんでもありだしな。絶対に【希望】を失っちゃダメだぞ」
俺はそんな【希望】を知っているので、優しく励ましておく。
プルプルと握られた拳は、きっとその言葉に感動しているのだろう。
「…………我慢、これはアルカと合流した後にしよう。そういえば『模倣者』さんって、もしかしてレイドイベントの時に結界とかを森に張ってなかった?」
「ん? ああ、張ったぞ。俺なりの優しさのつもりだったんだが……まあ、その辺は聞かないでおいてくれ」
「みんな、困ってたんだけど……犯罪じゃないけど、そういう独占行為ってマナー違反だと思うんだよ」
「そっか……まっ、気にするな。お察しの通り、その結果救えたものもある」
闘技大会の参加者なら、一回戦の俺が何をしたのか覚えていることだろう。
……俺の方は正直、自分に関すること以外は綺麗サッパリ忘れているけど。
「それよりだ。俺はこれから、いったい何をすればいいんだ? イベントだし、協力はするが……派手なことは得意じゃないぞ」
「うーん、いろいろとやってもらいたいことがあるんだけど……とりあえず[フレンド]に登録しておいてくれないかな?」
「……フレンド? なに、その機能? いやいや、そんなもの無いだろう」
「え゛っ……この反応、嘘じゃない? あるからね、いやあるんだよそういう機能! どうして気づいていないのさー!?」
嘘が分かるスキルでもあるのか、俺が冗談ではなく素で言っていることに気づいてくれたみたいだ。
ティンスやオブリたちになら、使っていたかもしれないが……眷属──あとで考えた、祈念者の眷族──に連絡するなら、別の手段があったので不要だった。
「念話スキルを使える奴が多い環境だったからな。フレンド同士で使える[ウィスパ―]とやらも、不要な場所に居たんだよ」
「……なんで[フレンド]のシステムは知らないのに、そんなレアスキルのことは知っているのさ。それ、まだβ版で一人しか得られなかったって、[掲示板]でも情報が高値で売られてるんだよ?」
「知らなかったな、[掲示板]とか見たことないし。それはいいから、さっさとやり方を教えてくれ」
「ぐっ……分かったよ」
なんやかんや言いつつも、どうやらユウは面倒見がいいらしい。
教えている最中に俺が挙げた疑問に一つひとつ答え、登録を済ませてくれた。
「──うん、これでいいよ。それじゃあ、次のお願いに進もうか」
「おいおい、俺はいったいいくつやらされることになるんだよ。こういうのって、普通は一つで済むはずじゃ──」
「前に言ったよね?『会ったら責任を取ってくれる』って、僕のお願いはこのイベントで協力をしてもらうってことで……どうかな」
……そう言われては仕方がない。
約束を反故にするというのは、偽善者として問題だからな。
何かあれば、拒否ればいいだけ……とりあえず今は、付いていくとしますか。
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