AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

04-05 フェニ その03



 気が付けば、我はそこにいた。
 巨大な洞窟であるそこは、迷宮ダンジョンと呼ばれる場所らしい・・・

 ──らしい、我は迷宮という存在を知り得ないはずだった。
 それ以外にも、我は我が何者であるのかそのほとんどを覚えていない。

 そこに居るという意識を持ったとき、迷宮に関する知識と己の種族に関する情報を与えられた。

 そう説明せざるを得ない。
 なぜなら我に、ここに居るという意識が生まれる以前の記憶が無いからだ。

 だが、それでもよかったのかもしれない。
 与えられた知識によれば、我は迷宮が呼びだした『階層守護者』という存在で、死んでも死なないようだから。

 餓死することもなく、迷宮が生き続ける限り召喚された地を守護する。
 それが我に与えられた、唯一無二の使命だと認識していた。

 そう、それ以外に思うことなどない。
 知識によれば、ここには【迷宮主ダンジョンマスター】と呼ばれる管理者が居るとのこと。

 我はその者から指示を仰ぎ、言われるがままに迷宮の益となる行動を取ればいい。
 それこそが迷宮に生みだされた、あらゆるモノ・・に課せられた義務なのだから。





 ──なんて、最初は思っていた。
 しかし、我が仕えるべきお方は、そんな使命や義務なんて鼻で笑い、傍若無人に振る舞うお方だったのだ。

『──悪いが、お前には死んでもらう。死んで死んで死に続けて、もっともっと強くなってくれ。それがお前を含めた誰もが救われる方法だと、俺は信じている。力を貸してほしい、俺がお前のすべてを奪う対価として』

 不死鳥フェニックス、そして魔物である我に対し、あのお方──ご主人はそう言って頭を下げた。

 知識にも情報にも無いことではあるが、不思議と思うことができる我の感性がそれは本来ありえないモノだと語る。

 しかし実際ご主人は、我を道具としてではなく協力者として扱ってくれた。
 そして人が魔物に接するような態度でもなく、人と人が語り合うように話をしてくる。

『不死鳥には、死ぬごとに強くなるスキルがある。だから、呼んでみたんだが……死にたくないよな?』

『……それを望まれるのであれば』

 我は魔物でご主人は人族ではあるが、迷宮が呼びだした存在は等しくご主人に意思を伝えることが可能だ。

 だがご主人の迷宮では、人の言語を予めスキルとして得られるらしい。
 そのため、我とご主人は互いに主張をぶつけ合っていた。

『…………いや、俺が浅はかだったんだ。改めて思ったよ、お前たちには自由を得る権利がある。少なくともそれは、俺がああしたいこうしたいって奪えるモノじゃない。俺が望むのは、お前が自由意思を持つことだ』

『自由、意思で?』

『口調も態度も俺への敬いも、別に好きにしてくれて構わない。恨んでくれてもいい、嫌なら否定してくれてもいい。だけど、もし協力してくれるなら……俺のために、死んでくれないか?』

『…………分かり……分かった』

 その後、ご主人は我に名を与え──約束通り殺してくれた。
 そしてご主人の温かみを知り、感じた……その想いは──

  □   ◆   □   ◆   □

「──俺と、俺とハーレムを創ってくれ!」

 ご主人は我に指輪を差しだしてきた。
 それが意味することは、把握している。

 この迷宮を管理するもう一人の主、レン様によってこの世界の知識が与えられていた。
 そして、ご主人の住む世界の知識もまた、同様に……。

「ハーレム……ご主人は、我をどう思ってくれているのだろうか。行動ではなく、今はそれを言葉で教えてもらいたい」

「ああ、いいぜ。俺はフェニを好きだ、もちろん『Like』じゃなく『Love』。愛に恋する恋愛なんてものじゃない、俺はフェニを俺だけのものにしたい」

「それでも、ハーレムだと?」

「俺の国じゃ一夫一妻しかない。ただの一般人でしかない俺には、その法を乗り越えるだけの力は無い。だが、この世界では違う──自分の想いを自由に、正直になれる。お前を俺にモノにしたい、俺の好きなフェニをな」

 自由、それはご主人が認めてくれたもの。

 ご主人のことは……好き、なのだろう。
 本来、迷宮の魔物ごときが想ってはいけない感情を我はご主人に抱いている。

 だが……だが、これはナニカ違う。
 偽者ではない、我とご主人に繋がる証がそれを物語っている。

 しかし、今のご主人は普通ではない。
 それを知らないまま、我は我の答えに向き合うことができないだろう。

「ならば、問いたい。ご主人、今のご主人は正常なのか? 少なくとも我にとって、ご主人とはこのようなことを素面しらふで行えるようなお方ではないのだが……」

「ああ、そうだな。俺は『俺』を自覚しているから、その差が分かる。だが、『俺』には俺のことが分からないからな。ただまあ、これだけは信じてくれ──俺は『俺』であり、俺たちは等しくフェニを欲している」

 やはりご主人は複雑な状況に陥っている!
 それを証明するように、爛々と髪同様に変色した紫色の瞳が輝いていた。

 二回ずつ出てくる『俺』、それは今と普段のご主人が異なっていると告げている。
 解決策はあるのだろうか? 今は、それよりも訊ねておきたいことがあった。

「欲している。それはどういった意味で?」

「俺はまんま、女として。『俺』は……そうだな、もっと歪んでんな。女として、そこは同じだが求めているのはそこだけじゃない。一言でそれを纏めれば──『家族』」

「家族……? ご主人の家族関係は、ひどくはないはずでは?」

 多くを今語る気はないが、ご主人の両親はとても仲が良いのだとご主人自身が口にしていたのだから間違いない。

 だが、そのご主人を知る『ご主人』は歪みがあると語っている。

「だからこそ、というわけでもないらしいがな。『俺』は良くも悪くも普通だ。だが、それだけじゃないってことだ……俺が話せるのは、これぐらいだな」

「『ご主人』……」

「愛する者、フェニ。俺はともかく、『俺』が考えているハーレムは、まだ心が餓えたガキの穴埋めみたいなもんでしかない。先なんて何も考えてない、そして欠けているからこそ俺を起こした」

「餓えて、欠けている……」

 ご主人がそういった思いを、我に打ち明けてくれたことはなかった。
 あるいは、ご主人すらも気づいていない思いだったのかもしれない。

 目の前に立つ『ご主人』は、ご主人の中にあるその欠けた部分を補う存在。
 だからこそ、ご主人に求めていただけた我に何かを伝えようとしている?

「──時間が来そうだな。フェニ、『俺』はどうしようもなくダメなヤツだ。だからこそ共に支え、生きてくれるヤツを欲している。いつまでも傍に居てくれないか? 全然言葉にできてないが、『俺』はそう願っている」

 変わらない姿勢で、『ご主人』は我に願いの証を差しだしてきた。
 おそらくこの機会を逃したら、ご主人はしばらく塞ぎ込むだろう。

「……いいんだな?」

「『ご主人』の欲はともかく、ご主人が求めるものを我は補ってあげたい。いずれは、ご主人から我を欲すると言わせてみせる」

「はっ、それでこそ俺の愛しい者だ。この指輪は、あとで『俺』に付けてもらいな──だいたいの事情は『俺』も聞いているからな」

 どういうこと、そう尋ねる間もなくご主人の体に変化が起こる。
 ふっと瞳を閉じると、紫色だった髪が元の白と黒の混ざったものへ変わっていくのだ。

 そして、パチリと開いた瞳もまた元の色に戻り……わなわなと体を震わせ──

「な、何を言っとるんじゃーーー!!」

 指輪を丁寧に元在った場所へ仕舞うと、全身を使って地面を転がり回りだす。
 ……こ、これは、『ご主人』の言った通り相当時間が掛かるかもしれないな。


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