AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

03-12 眷族特訓 その05



 ノイズ男がオブリちゃんに嫌らしいことをしたかと思ったけど、どうやら違っていたみたい……けど、なんだかオブリちゃんが嬉しそうなのが不可解に思える。

「ねえ、いったい何をしているの?」

「私はあらゆるスキルに対する適性があるから、消費するSPがどういったものであれ、必ず5Pになるのさ」

「……チートよね、もうそれ」

 要するに、光属性に対する適性が得られない吸血鬼の私でも、光魔法を5Pで習得できるようになるってこと。

 スキルを取れば取るほど、ちゃんとレベルさえ上げれば取れるようになる……無限に強くなれるわけだ。

「これはまだ共有できない能力なんだけど、直接干渉すれば一時的にそれを貸し与えることができるんだよ」

「それ、私でもできるの?」

「当然さ。しいて言うなら、私がレンタルしないとそれができないことが問題だけど……他には無いはずだよ」

「…………なら、これはどういうこと?」

 嬉しそうだと言ったけど、オブリちゃんは呼びかけてもいっさい反応しない。
 ジトーと睨み付けてみるが、ノイズ男はただ視線を逸らすだけだ。

「理論上は何もないはずなんだけどね。少なくとも[ログ]を見る限り、何もおかしなことはしていない。あとでそれはオブリちゃんに訊いてくれても構わないよ……さて、耐性は習得できたかな?」

「さっきの話を聞いて、とりあえず私もやらなきゃいけないってことは理解したわ。さすがに15Pも使うのは嫌だし」

「異常耐性が発現してくれたみたいだね。ただ、別にそこまでしなくても減らすことはできるんだよ。他の状態異常の耐性スキルをレベルMAXまで上げれば、その数だけ減らすことができるんだ」

「けど、それを習得するのにもポイントが必要なんでしょう? なら、オブリちゃんに何があったを知るためにも、私も同じことをするわよ」

 ちょうどそのとき、ノイズ男の手がオブリちゃんから離れる。

「あっ……」

「オブリちゃん、どうかしたの? 何かされたならすぐにこのノイズをぶん殴るけど」

「それを本人の前で言うのかい!? いちおう私は、君たちの上司なんだよ?」

「上司が間違った判断をしたなら、それを正すのが部下の役目って教わったもの。だからダメなロリコン上司を正常にするため、私は悲しみの拳を振るうのよ」

 お父さんが言っていたことだ。
 どんな職場か不安になった思い出だが……今はそんなことより、オブリちゃんである。

「オブリちゃん、大丈夫?」

「……うん、大丈夫だよ」

「何かあったの?」

「温かかった。ポカポカして、ずーっとお兄ちゃんといっしょにいたくなった」

 うん、死刑♪
 何か細工をしたらしいノイズ男の下へ、ポキポキと骨を鳴らしながら近づいていく。

「ちょ、ちょっと待ってよ! 本当、本当に私は何もしていないから!」

「問答無用よ。オブリちゃんにあんなことを言わせるなんて、羨ま……けしからんことをした貴方には断罪が必要よ!」

「ほ、本当に何もしてないんだって。ほ、ほら、次はティンスの番だよ」

「この流れではい、そうですかってやるわけないじゃないの!」

 とりあえず、一発は殴っておこう。
 ちょうど打撃術スキルというのがあるし、コピーしてから殴るのがいいわね。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 …………妙に気持ち良かった。
 なんだかこう、ずっと入っていられるようなぬるま湯みたいな……まあ、殴るのだけは止めておくことにしてあげたけど。

 その結果、異常耐性スキルを5Pで手に入れたけど、ステータスから『日光弱体』の状態異常はまだ消えて無かった。
 どうやら、スキルレベルに合わせて少しずつ解消されていくみたいだ。

 だから私は、用意された魔物を相手にひたすら使えるスキルのレベリングを行いつつ、日向に立っていた。

 それだけで異常耐性スキルはレベルが上昇していくので、楽なものだ。


 ──そんなときだ、ソレが起きたのは。


 体が感じ取った途端、直感的に反応してしまうほどのナニカ。
 ゲームとかでたとえるなら、『威圧感』みたいなモノが通り抜けると、ゾクッと震えが止まらなくなる。

 放たれたソレの出所を探ると、そこにはノイズ男とオブリちゃんが居た。
 どうやら状況からして、オブリちゃんが何かをしてノイズ男に何かをしたみたいだ。

 つい先ほどまでのノイズ男ならば、さっさと近づいて殴ることもできた。

 だけど、今のアレはなに? 一歩でもあの場所へ向かおうとするだけで、脚が竦みまったく動かなくなる。

「けど、ダメだ……このままじゃ……!」

 後ろを向いた、だから現実リアルの私は立ち向かうことを止めて学校へ行かなくなった。

 何か理由はあるんだろうけど、少なくともそれは女の子を怯えさせることに納得がいくようなものじゃないと思う。

「う、動けぇ……!」

 意思云々でどうにかならないかもしれないけど、私の願った力が叶うのならば──今こそそれを発揮したい。

 ただ一歩でも前へ、苦難も困難も耐えきり前へと進む力を今こそ……。

「──何をしているの?」

「何って……あっ」

「オブリちゃんとの『お話』が終わったから様子を見に来たけど……パントマイムでもしているのかな?」

 いつの間にかそこに居たのは、私の動きを未だに阻害する力の放出源──ノイズ男。

 遠くでオブリちゃんがボーっとしているけど、なんだか吸血鬼だからかよく見えるその表情に涙は見受けられない。

「……あなたの威圧っぽい力の放出で、初心者な私は竦んでいるのよ」

「威圧? ……ああ、さっきやっちゃったヤツだね。実は優秀すぎたオブリちゃんが、私のステータスを暴いちゃったんだよ。途中で中断させるために、ちょっと無茶なことをしてね……威圧はその弊害さ」

「なら、これはもう解除してもらえるの?」

「──ステータスを見てごらん?」

 言われた通りステータスを調べると……凄い勢いで異常耐性がレベルアップしていた。
 しかもよく見れば、『恐慌』なんて状態異常が……完全にノイズ男のせいよね?

「まあ、見ての通りさ。ちょうどいいし、そのまま動けるようにしてごらん? それだけで君は、力よりもまず大事な一歩──踏みだす勇気を手に入れられる」

「勇気、ね……自分のミスをずいぶんと都合よく解釈しているじゃないの」

「うぐっ……ま、まあとにかく、ティンスは吸血鬼としての欠点を予め完璧に取り除いておいた方がいい。というわけで──これも常に使ってごらん?」

「まあ、たしかに吸血鬼と言えば銀のアイテムって気もするわね」

 握った瞬間、とてつもない虚脱感が襲う。
 吸血鬼って銀で出来たアイテムに弱いっていうけど……スキルで表示もされていないのに、能力値が九割も減るほど弱点なのね。

「このまま戦闘をしていれば、自然と慣れていくよ。どんなものでも、やっておくことに損は無い。きっと、銀に対する耐性も今の内に感覚を掴んでおいた方がいいからね」

 そうして私は、人形との戦闘を命じられて貧弱なステータスでスキルレベリングを改めて行い始めた。



 ……なお、あとで訊いたことだが、ノイズ男──メルスが私に寄越したのは、ただの銀ではなく『真銀ミスリル』という物だったらしい。

 普通の銀じゃせいぜい二割減だったんだとか……本当、殴りたくなったわね。


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