AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

02-20 過去の王都 その04



 爽やかな風が頬をくすぐる。
 雲間から漏れだした細い光の線が、どこかの国語の授業で習った乾麺のように真っ直ぐな線をいくつも生みだしていた。

「詩的表現、になるのかな?」

 パクリではあるが、言えた気がする。
 偽善者として語彙が少ないのはどうなんだろうな、ということでやってみたが……まだ俺自身の心情でやるのは難しそうだ。

 とにもかくにも、俺は現在街を出て草原をふらふらと彷徨い歩いていた。
 ダンジョンの場所は依頼を受けた者にしか分からないのか、高めた聴覚にダンジョン発見に関する情報は入ってこない。

「しかし、ダンジョンか……ヘルプ機能に記された分は把握したけど、だいたい王道のヤツと同じ設定だったな」

 迷宮と書いてダンジョンと読み、コアと呼ばれる核を元に動いている一種の生命体。
 中に居る魔物は迷宮が生みだした特殊な存在で、条件を満たすまではその中でしか生きることができない。

 罠や財宝など、そういった面白設定が仕掛けられていることもあるが……まあ、踏破には関係ないので詳細は必要に応じて。

「そんなダンジョンを捜索し、発見しなければならない……けど、まだまだ遠いな」

 ギルドカードに魔力を流すと、ホログラムの要領で地図が浮かび上がる。
 そこら辺はハイテクなんだな、と思いつつ地図と[マップ]機能を用い目的地へ移動を続けていた。

「だけど、たしかに遠くないとイベントとして成立しないしな……モンスターリオット」

 先ほど挙げた魔物が外へ出る条件、その一つが迷宮内での魔物の飽和だ。
 溢れ出た魔物が周辺の環境を一変させ、後の世にまで影響を及ぼす騒動となる……故に『魔物たちの騒動モンスターリオット』と呼ばれている。

「街に近い場所に迷宮が生まれれば、その危険性を理解する者たちによって瞬殺されてしまう。だから少し離れた場所に置いて、利益と危険を天秤で測らせなければならない」

 今回の場合、少しばかり近いから危険として認定されたのだ。
 国王は宝に目が眩むこともなく、確実に危険の芽を摘むことを選んだ……そこだけを見れば、賢王として認識できるな。

「少し急いだ方がいいかな? 急げば……一日ぐらいは短縮できるか──“時間加速クイック”」

 肉体に時魔法をかけ、反応速度を数倍に高めておく。
 回復力などはいっさい変動しないが、それでも動ければ充分だ。

「そして──“身体強化”」

 身体強化スキルを行使し、肉体そのものの強度を高める。
 少しばかり無茶をしても、これなら問題なく活動が可能だ。

「それじゃあ行くぞ──“風爆発エアロバースト”!」

 できるだけ周りに影響が及ばないように、背後で風魔法を使って推進力を得る。
 それを受けて走る、切れたらまた行使して駆け抜けていく。
 時魔法の影響は魔法にも及ぶため……風の勢いは台風に近いものなんだけどな。



 もしそんな様子を見られていれば、きっと未確認生物UMAみたいな扱いを掲示板でされていただろう。
 まあ、上級隠蔽が完璧に作動していただろうし、気配探知にもプレイヤーが入らないように移動していたのでバレてはいない。

「そして、ようやく到着しました」

 ──過去の王都 三日目

 うん、走り続けてどうにか辿り着いた。
 ポッカリと開いた巨大な空洞、強化した視覚(暗視機能付き)で見ようとしても果てを見ることができない大きな穴。

 ここが迷宮ダンジョンなのか……。
 若者世代からすれば、世界樹や神殿系のヤツでもよかったんだがな。

「武器は……試してみるか」

 取りだしたのは二つの銃。
 聖銃と魔銃、二つの魔法銃である。

「というか、そのために習得したと言っても過言じゃないからな──(魔法銃術)スキル」

 これまでは経験値を他所から回さなければ上がれなかったが、武具創造を経てそうしたことをせずとも済むようになった。
 ……だいたい、魔法銃なんて初期の場所で見つかるわけないんだよ。

「頼んだぞ……グラ、セイ」

 ネーミング? いつものことだろ。
 ちなみに──【暴食グラトニー】と【節制セッセイ】から取ったというのが真理だ。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 入口に入っても、迷宮ダンジョンの景観が変わることはなかった。
 空間属性による領域の拡張は行われているようだが、残りは……いわゆるDPダンジョンポイントでも無いとできないのかもしれない。

「おっと、さっそく発見」

 セットしておいた気配探知スキルが、未知とのファーストコンタクトができると教えてくれた。
 すでに言語理解スキルはメインに入れてあるので、対話をする気満々である。

「罠は……無いな。それなら、直進で行けば会えるか」

 魔子鬼デミゴブリンたちは、分かり合うことができた。
 迷宮産ダンジョンの魔物は……どうなのかな?





 結論から言えば、駄目だった。

 デミゴブリン Lv5
 迷宮魔物 アクティブ
 地上 格下

 違いは魔物、ではなく迷宮魔物ダンジョンモンスターとなっている点だろうか。
 見た目はほぼ同じ魔子鬼。
 ただ、文化水準は野生のものと同じなのでずいぶんとみすぼらしい恰好をしている。

「は、ハロー」

『UGYAGYAGYAGYA!』

「……あっ、うん」

 ファーストコンタクトはこんな感じだ。
 そのあとすぐに接触(物理)となり、弾丸による挨拶で話し合いを済ませた。
 容赦なく殺した死体だが、迷宮が肉体を回収するため残るのは魔核のみ……解体の必要が無いのは便利だな。

「ドロップアイテムも同じ……ふむ、本当に肉体が残らないこと以外は外の魔物と同じみたいだな」

 なぜそんなことが分かるかって? 一階層に居た、すべての魔子鬼を殲滅したからだ。
 気配探知に任せてサーチ&デストロイ、すると数は少しずつ減っていき……底を尽く。

「と、考えていたんだがな……どうにも数が減らないと思ったらそういうことか」

 再び現れた魔子鬼に向けて、銃弾を放つ。
 再出現リポップしたばかりの魔子鬼は、どうすることもできずに絶命する。

「この魔法陣が原因か。構造は不明……けど間違いなく、召喚系の術式なんだろうな」

 創作物の知識から考えれば、DPに関係なく常時野良の魔物を生みだす魔法陣だろう。
 管理されていない代わりに、低コストで召喚できる……という設定のはず。

「とりあえず複写しておいて、あとで再現できないかやってもらおうか」

 グーに術式を転写して、解析を行う。
 上手く改良に成功すれば、食料問題やレベリング問題が解決できる。

「さて……そろそろ下に行くか」

 階段は何もせずとも、最初からある場所にポッカリと設置されていた。
 迷宮の管理人ダンジョンマスター的な奴が居て、何か特別な仕掛けを施したわけではないようだ。

 まあ、次に行こう次に。
 双銃を腰に提げ、ふらふらと下へ向かう。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 下へ降りたら、また洞窟だった。
 さっき考えたダンジョンマスター不在説の線、かなり濃厚だな。

「うわー、めっちゃ萎えるわー」

 気配探知によれば、先ほど以上に溢れかえる魔子鬼がこの階層に居るとのこと。
 一階層目で数を誤認させて、この階層で一気に虐殺するといった寸法だ。

「パパッと終わらせよう──“煌域顕現コウイキケンゲン”」

 光属性を強化し、闇属性を弱体化させる俺のオリジナル魔法。
 これにはもう一つ、効果があって……。

「よし、全滅全滅♪」

 破邪、魔を打ち滅ぼす聖なる光を生みだすというものだ。
 本来であればアンデッドを浄化するだけに終わるこの力だが、魔力を追加して煌魔法の攻撃魔法を重ねることで魔物すべてに影響を及ぼすことができる。

「これで終わっ……た。あっ、思いの外ここ広いみたい……」

 すぐに布団を敷いて、横になる。
 全域に魔法を使ったせいで、魔力をガッポリ使ってしまったようだ。
 ……対策をしてれば軽いんだが、急にやったことなので対応しきれなかった。

「一眠り一眠り、攻略はそれからでも問題ないよな」

 魔法陣も同時に壊されただろうし、スーが結界を張ってくれている……少しぐらい寝てもいいよな?


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