AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

01-28 ゴブリン国



「さて、リョクたちの場所へ行きますか」

 ログイン処理を済ませ、『修練場』で目を覚ます。
 前日の魔法の同時発動を数回試した後、感覚が残っていることを再認識した。

 途中の記憶がなかったから、ログアウトしてから心配になっていたんだよ。

 ──もしかして、あのときしかできなかった奇跡みたいな出来事だったんじゃないかってな。

「……いや、奇跡なんてありえないか」

 主人公補正キセキ、そんな高尚なものは俺たちに与えられない。

 それでも足掻こうと、こうしてモブは微力ながらに努力とも呼べムダなない自慰行為あがきを重ねている。

 俺の薄っぺらい意志は、ただ自らを慰めるための代償行為。
 主人公たちのような、真っ直ぐでも歪でもない不格好な抗い。

「ただ起きるべき結果が、当然のように転がりこんで来ただけか。……え? それはそれでなんか違う気がする」

 悶々と悩み、云々と唸ってみるが結局結論が出てこなかった。

 そもそもとして、ただの一般人が考えてもそんなの答えが出るはずなかったよな。

 意識をリセットしてから、“空間創造ガーデン”で扉を創りだし──魔子鬼デミゴブリンたちが住まう世界に向かう。

  ◆   □   ◆   □   ◆

「な、なんだ……これ──“衝撃球ショックボール”」

 とりあえず扉を潜った後、俺は自分に無魔法“衝撃球”を使った……この目で見ている光景が、あまりにも信じられなかったのだからである――。

 大量に魔子鬼デミゴブリンたち……これはまあ、俺が連れてきたのだから納得がいった。

 並び立つ石造りの家々……この時点で俺のツッコミ精神が働こうとしていたのだが、それよりもツッコむべき場所があるとも告げていたので抑えた。

 そして──高々とそびえ立つ洋風のお城。

「いやいや、いったいどうしてこんな風になるんだよ! たった数日でいったい何が!?」

 ツッコミセンサーが告げる、今こそこの状況に叫べと。

 主人公補正なんてものは存在しない、さっき再認識したはずなんだが……『そのとき ふしぎなことが おこった』はあるようだ。

 あの思考は。このための布石フラグだったのか!

「町が……町ができてやがる」

 俺は今、魔子鬼たちが築いた町並みを空の上から眺めていた。

 サプライズで空から胸元に付けた石を光らせながら、顔を合わせようと思ったら……俺のテンションが天丼状態になっているよ。

 町は今も建設ラッシュ中で、大人の魔子鬼たちが例の城を中心として円状に家屋が建てられている。

「言語の習得までしているよ……学習速度が異常すぎないか?」

 一方子供の魔子鬼たちは、城の近くに集められて授業を受けていた。

 大人の魔子鬼が単語を言うと、子供たちはそれを反復するように呟いて頭に刷り込ませている。

 これだけならただ、子供に言葉を教えているように見えるが……その言語が魔子鬼語ではなく、主に普人たちが話す人族の共通言語であったことが問題だ。

 なんで、そっちを教えてるのかな?

「……リョクたちって、あのまま行ったらプレイヤーを殲滅していたんじゃないか?」

 拙いながらに、単語自体の意味は理解している子供たちを見ながら……そう感じた。



「──我が主、お帰りなさいませ」

「あ、ああ……。ただいまだ」

 小細工はいっさいせず、翼をはためかせて空から舞い降りてみた。

 それに気づいた子供たちと、大はしゃぎで教わったばかりの共通語で会話をしているとリョクがやってくる。

 彼の話す言葉もまた、共通語……しかもペラペラであった。どんだけ頑張ったの?

「リョク、俺がお前にここのことを任せてから──いったい何をした?」

「ハッ。とりあえずここに我が主の居城を建設した後、民たちの家を建てているのが現状です。子供たちは、我が主と話したいと率先して言語を学んでおります」

「……普通、順番が逆じゃないか? 俺の城とやらを造るぐらいなら、先に民家を整えてほしかったよ」

「これが、民の総意です。全員が我が主の、王の居城を築くことを望んだのです」

 王……そういえば、称号に『魔子鬼の王』が追加されていたな。
 子供たちが『オゥシャマ』と言っていたのはそれでか。

 それを獲得したのがいつかは分からない。
 だが、一定数の魔子鬼が俺を王と認めたのが条件だったとすれば?

(この選択を選んだ時点で、王様ルートはもう決まっていたのか)

 実際の政治はリョクに任せて、俺は形だけの王として象徴役を務めればいい。

 彼らにリョク以外の王など必要ない、俺という存在は……さしずめ、王政を導く神様役かな? ──なれても偽善の神様だけどな。



 それから、ふと疑問を抱く。

 どうしてこれだけのことを、リョクたちはたった数日で成しているのかと。

 この世界に流れる時間はまだ、時魔法が付与されていないのでAFOの世界全てと同等の倍速のはずだ。

 だが実際、この町は誕生している。

「──なあリョク。ここは俺が去ってから何日が経ったんだ?」

「そうですね……二日程、と我らは考えております。我が主の擬似陽光は素晴らしく、我ら体内時間と合うような速度で光を減衰したり増幅しておりましたので」

「あれは自信作だからな。なんせ、魔法の付与を三段にも重ねてやったんだから」

 とはいっても、擬似太陽は光魔法による証明を三層に分けてあるだけなんだが。

 時魔法と付与魔法の重ね技で、一定時間に魔法が切り替わるようにしてある。
 現実でもよくある、電気が勝手に点いたり消えたりする機能を再現したのだ。

 まあ、何はともあれこれで一つの問題が解決して……いくつかの想いが生まれた。

 修練場にかけた加速の魔法、それがこちらに影響を及ぼしていなかったことへの安堵。
 そして──たった二日でこの町全てを築き上げた魔子鬼たちの技術力への感服である。



 魔子鬼たちがどのようにして城を建てたのか……それを尋ね終えると、リョクが俺に質問してくる。

「ところで……、主様はなぜこちらに?」

「ん? ……ああ、新しい魔法が入ったからな、とりあえずこの地の改革に使おうと思って来たんだ。あ、これが外で集めておいたウサギの肉、さすがに魔子鬼のは止めといたけど……持ってきた方がいいか?」

「いえ、お気になさらず。……傲慢とも取れる発言ですが、我が主に救われた時点で魔子鬼としての繋がりなど断ち切れました。例えかつての顔見知りであろうと、我が主が殺せと言うならば──」

「そ、そうか。覚悟はお前たちの覚悟はしかと聞き受けた。お前たちの飢えを満たす必要ができたとき、他に手段がなければそれも手の一つに加えておく」

 目がマジだったのが少し驚きだが、自らでその発言があまりに【傲慢】であると理解できているのならば何も言うまい。

 俺が手を出したからといって、ただ住処が変わって俺の庇護下に入っただけだ。
 世界最強の魔物が、空間を裂いて襲って来てでもすれば成す術もなく死ぬだろう。

 驕らず、これからは俺の庇護下に入らずとも生きようと精進してくれることを期待しておこうか。



 そういった会話を済ませた後、俺はとりあえずリーン(ゴブリンの国の名前。さっき付けたら世界の正式名になっていた)から、離れて広い場所に来ていた。

 前回俺が植物を生やした辺りで、遠くを見ればまだ未加工の白い空間が広がっている。

「構想は並列行動で済ませていた。あとは設計図通りに俺がやれるかどうかだよな」

 リーンを中心とした九つの環境、それらを擬似太陽と似た要領で世界に定着させるだけのお仕事である。

 フィールドはそれぞれ──

 北 :極寒フィールド
 北東:暴風フィールド
 東 :自然フィールド
 南東:砂漠フィールド
 南 :海洋フィールド
 南西:墓地フィールド
 西 :山脈フィールド
 北西:夢幻フィールド
 中央:魔子鬼国リーン──の上空に浮かぶ天空フィールド

 以上十個が、第一世界のなフィールドとなる。

「無駄に凝って考えてみたが、【統属魔法】と既存の魔法だけで成り立たせられるか?」

 机上の空論とはまさにこのこと。
 あらゆる環境に対応できるよう、凡人の持ち得る思考の限りを尽くして考え抜いた厳選のフィールドだ。

「──とりあえずまあ、神様ごっこを始めてみますか!」


  ◆   □   ◆   □   ◆


「そして、ポーションの完成だ!」

 え、何があったかって?
 魔法の練習も終えて、次に回復アイテムの大量製造を始めているんだ。

 魔法で環境を整え終えたあと、少し疲労した魔子鬼たちを見かけた。

 三日三晩働こうとしていたので、魔法をかけて癒しておいた。

 だが……俺が常時その作業を見ていられるわけじゃないので、魔子鬼たちがいつでも回復できるようにポーションの常時配備を試みているのが現状である。

「だがしかし、通常のポーションや薬効だかのせいで苦い。そりゃそうだ、良薬は口に苦しというからな」

 魔力水と傷薬といういかにも美味しくならない組み合わせがベースなので、どれだけ努力しようとそのままでは子供たちが嫌がる味となってしまう。

 だがしかし──

---------------------------------------------------------
味付きHPポーション 製作者:メルス

ランク:A+

説明:HPを95程回復する(マレンジ味)
---------------------------------------------------------
---------------------------------------------------------
味付きMPポーション 製作者:メルス

ランク:A+

説明:MPを95程回復する(マレンジ味)
---------------------------------------------------------

「そんなときはこれ――ハイ、アジツキポーション(ダミ声)!!」

 オレンジのファンタジー版、『マレンジ』というアイテムを北の王都で見つけたので購入しておいた。

 通常のポーションならどうにかSを出せるようになったんだが、味を付けると少し品質が落ちてしまっている。

「子供たちに最高の品を届けるためにも、とりあえずS品質を味付きでも出せるようにしないとな」

 そしてそれから少しして、マレンジの在庫が尽きる前にS品質を維持に成功する。

 達成感に浸りながら……俺はログアウトを選択した。

  ◆   □   ◆   □   ◆
 本日の成果
---------------------------------------------------------
ステータス
名前:メルス (男)
種族:【天魔】Lv45
職業:【経験者】Lv20・召喚師Lv1・中忍Lv1・放浪者Lv1・錬金師Lv50 MAX・調合師Lv50 MAX・魔戦士Lv1・義賊Lv1

HP:900→1100
MP:1350
AP:1000

ATK:143→145
VIT:148→150
AGI:138→150
DEX:173→175
LUC:143→150
BP:0→45→0

スキルリスト
武術
【武芸百般Lv20】
魔法
【統属魔法Lv40】
─中級・派生系統
(純魔法Lv30)(重力魔法Lv30)
─上級系統
(業炎魔法Lv10)(嵐気魔法Lv10)
(氷河魔法Lv10)(大地魔法Lv10)
(時空魔法Lv10)(生死魔法Lv10)
(治癒魔法Lv10)
─融合系統
(爆発魔法Lv10)(豪雪魔法Lv10)
(拘泥魔法Lv10)(幻霧魔法Lv10)
(熔解魔法Lv10)(粉塵魔法Lv10)
─特殊系統
(木魔法Lv45)(海魔法Lv40)(精霊魔法Lv40)
(竜魔法Lv40)(強化魔法Lv10)(弱化魔法Lv10)

身体
(超回復Lv20)(力場支配Lv10)(精密動作Lv10)
技能
(中級錬金Lv50)MAX(中級調合Lv50)MAX
(全言語理解Lv10)(気配探知Lv40)
(並列行動Lv75)(無詠唱Lv60)
NEW
(調教Lv1:5)(連携Lv1:5)
(識別Lv1:5)(看破Lv1:5)

特殊
(思われし者Lv45){感情Lv23}
(経験者の可能性Lv-)
\(錬金の心構えLv50)MAX(調合の心構えLv50)MAX

SP:683
---------------------------------------------------------

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品