AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

01-22 草原の乱 その01



 イベント日当日。

 プレイヤーたちが『始まりの草原』に集うことで、初心者用のエリアには膨大な数の人間が集まることになる。

 俺もまたその一人、こっそり隠れてイベント開始時間を待機中だ。

「……アナウンスが事実なら、転職が引き金になったイベントだしな」


 せっかくのイベントというか、俺が発生させたイベントなんだから、責任を取らなければと言うか……まあ、そんな感じだ。

 今回はいろいろと試したいこと・・・・・・もあるので、頑張ろうと思う。

 ステータスも、バッチリ整えてある──

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ステータス
名前:メルス (男)
種族:【天魔】Lv24
職業:【初心者】Lv24・召喚士Lv15・剣士Lv1NEW
忍者Lv1・盾士Lv1

HP:800
MP:800
AP:800

ATK:105<+11>
VIT:105→110<+12>
AGI:105→115<+13>
DEX:105→110<+12>
LUC:111<+12>
BP:0

<ステータス向上補正>

メイン
武術
【武芸百般Lv1】
魔法
【統属魔法Lv4】
身体
(舞空Lv15)(体幹Lv50)(天魔翼生成Lv20)
技能
(上級隠蔽Lv8)(気配感知Lv30)(並列行動Lv1)
(無音詠唱Lv25)(省略詠唱Lv25)
特殊
{感情Lv6}(思われし者Lv24)(一途な心Lv-)
(全武術適正・微Lv24)(全魔法適正・微Lv24)
(全身体適正・微Lv24)(全技能適正・微Lv24)
(初心者の可能性Lv-)

スキルリスト
特殊 NEW
(忍者の心得Lv1:職業)(盾士の心得Lv1:職業)
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「やはり、忍者はロマンでござるよ」

 何度も言うが、そこに意味などない。

 洋風の暗殺者も良いが、日本人としての誇りを持って忍者に転職。

 盾士は……格納用に就いてみた。
 剣の次は盾、成り上がりを目指す気はないが目に入った中で簡単にレベリングができそうなヤツだったから選んだ。

「スキルの構成は……レイドイベントで戦闘に関わらないスキルを入れるのって、舐めプだと思われるのか?」

 これはもう今さらだが、誰からの指摘も無いので気にしない……する奴がいない、とは言ってはいけないぞ。

 戦闘になれば即座に組み替えるし、戦闘系の構成も考えてある。
 戦闘中もスキルが変えられるって、本当に便利なシステムだよ。



「さて、もう少しかな?」

 イベントの明確な開始時間は、まだ判明していない。

 開始日はアナウンスで告げられた通り、俺が転職してから一週間が経過したこの日。
 やる場所はこの東の草原、だがそれ以外を俺は知らない。

 組み替えた(身体強化)で耳を澄ませば、ウサギとなぜかゴブリンが出るとの情報が聞こえてきた。

「ゴブリンか……。どっちなんだろう」

 ゴブリンには二パターン、ただ単に知性を持たない狂暴な魔物タイプデミゴブリンと小人のように愛らしい妖精タイプゴブリンが存在する。

 前者は魔子鬼、後者は妖子鬼と漢字で書けば分かりやすいだろう。

 ちなみにこの情報は、学校という暇の権化とも呼べる場所で入手した……五感を鍛えていたんだ。

「普通の奴なら、後者はともかく前者は容赦なく殺すんだろうな。俺もウサギを殺し尽くした一人だし」

 その証は今も『殲滅者』という形で、延々と俺の罪を示し続けるだろう。

「けど、明確な理由と救われるべき苦難を抱えていたなら……」

 このゲームを始めて、ついに出番が来るのではないだろうか。
 ──偽善者として、この世界に自らを刻む時なのかもしれない。

  □   ◆   □   ◆   □

≪──大変長らくお待たせしました
 これよりレイドイベント『草原の乱』を始めさせていただきます!!≫

  □   ◆   □   ◆   □

 SIDE:とある戦士

 そして、それは突然にやって来た。
 見渡せば辺り一面が桃色と緑色に変わり、広い草原を塗り潰すようにしてゆっくりと進軍してくる。
 


 俺はしっかりと剣を握りしめようとした。
 だがそれは、なかなか掴むことができずにいる。

 ……たかがゴブリンとチェリーラビットを倒すだけだと思っていた。

 しかし、現実は違っていた──

 チェリーラビット ???
 イベント用モンスター ???
 ??? ???

 ハイチェリーラビット ???
 イベント用モンスター ???
 ??? ???

 デミゴブリン ???
 イベント用モンスター ???
 ??? ???

 デミゴブリンエリート ???
 イベント用モンスター ???
 ??? ???

 デミゴブリンナイト ???
 イベント用モンスター ???
 ??? ???

 デミゴブリンソルジャー ???
 イベント用モンスター ???
 ??? ???

 デミゴブリンメイジ ???
 イベント用モンスター ???
 ??? ???

 デミゴブリンシャーマン ???
 イベント用モンスター ???
 ??? ???

 なまじ鑑定が使えるせいで、理解してしまう……格の差。
 いつもなら視えるはずのウサギたちのレベルも、イベントだからかまったく視えない。

 しかも、こういったイベントには付き物なボス的存在(たぶんデミゴブリンキング)の姿もない。

 つまり、俺たちはこんな強そうな魔物を相手にボスを引き摺り出すまで、戦闘を続けなきゃいけないということだ。

 ──無理だ。

 そう思った俺の心を表すように手が震え、未だにしっかりと剣を握られていなかった。

 もう駄目だ、逃げよう! そう思い足を後ろに下げた瞬間──どこからか、声が響く。

「皆の者、狼狽えるな!!」

 それは、先頭の方から聞こえてきた。

「皆は何に怯えているのか。詳細が見えない魔物か、それとも辺りを覆い尽くすほどの魔物の数か!」

 桃と緑に染まった草原に、突如煙と炸裂音が発生する。

「強いならばなぜ群がる……それは、弱いからだ! 詳細が見えないのはなぜだ……弱いことを悟られぬためだ!」

 それは複数の場所で同時に起きる。
 勇敢なプレイヤーたちが、怯えずに魔物へと立ち向かっているからだ。

「あのような魔物たちは、私たちの敵ではないぞ……さぁ、共に行こうではないか! あの魔物どもを倒して、祝杯と行こう!!」

 声を上げていた者もまた、周りにいた者たちを導くようにして戦いに赴く。
 ただ誘導するわけではない、共に戦う同志たちを鼓舞していたのだ。

 ……そんな言葉を聞いて、俺の気持ちは変わった。

 先ほどまで震えていた手はしっかりと剣を握り、竦んでいた脚はまっすぐに前を向いていた。

「そうだった。俺は独りで戦っているんじゃない──みんなで戦っているんだ」

 辺りを見渡すと、他のプレイヤーもそんな当たり前のことに気づいたのか、辺りを見回し、顔を合わせると全員が口角を上げる。

「俺たちもやる時はやるんだ! プレイヤー舐めんじゃねぇえええ!」

『オォーー!』

 ここは俺たちの拠点、魔物なんかに壊させて堪るかよ。

 同じプレイヤー同士力を合わせ、いっせいに魔物へ向かっていった。

  ◆   □   ◆   □   ◆

「いやいや、アイツ凄いな~。ほとんどのプレイヤーに付いてた『状態異常:恐慌』を全部消してるじゃん。便利なスキルもあるもんだな」

 俺はプレイヤーたちが魔物たちへ走っていく様子を──の上から見ていた。

 だって下混んでるし、せっかく翼もあるんだから飛んどかないとね。

 (上級隠蔽)もかけてあるし、見られているということは無い……たぶんだけど。


 それよりもだ、さっきの演説をしていたプレイヤーについてだ。
 彼女……かな? 聞いた声的に。

 とにかくその人は、言葉だけで『恐慌マイナス』を『扇動プラス』に塗り替えていた。

 お蔭でやる気に満ちたプレイヤーたちは、今も魔物たちを闘いを繰り広げている。

「さすが──【扇動者カリスマ】は違うな」

 そう、さっき演説をしていた人は、俺と同じく固有職の持ち主だったのだ。

 効果を見てみると、詳細全部は鑑定できなかったが、『扇動』状態の個体の数だけ対象のステータスを向上するらしい。

 何グループか罹っていない者もいたが、そういった奴らはメンバーの誰かが転職済みか固有職だった。

 ……やっぱり、実力者は違うなー。
 俺のように職を重ねるだけの【初心者】と違い、就いた職業の能力を可能な限り高めているんだろう。

 その結果成長を遂げ、扇動をも払いのける力を身に着けた。

「なんて言うと、カッコイイな」

 どうしてパーティー単位で無効化できるかは分からないが、高い能力値が扇動を防ぐ効果を持っていたのだろう。

 扇動……民衆の意志を誘導する、つまりはグループ単位でなければ操れない?

 人数×判定する能力値が、一定以下なら扇動されるってことなのかもしれないな。

「まあ、みんな頑張っているし……そろそろ俺も、手伝うとしますか」

 隠蔽と翼の制御を(並列行動)で同時に行いながら、ある場所へ移動していく。

「たくさんのプレイヤーが挑んでいる。けど目的は魔物の殲滅。救えないなー、救われないなー。──両方を救う、絵物語を今やろうじゃないか」

 (気配感知)で見つけた場所に行けば、きっとそれを叶える可能性が掴める。

 一刻も早く向かおうじゃないか──レイドボスの元へ。


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