竜と王と剣と盾

ノベルバユーザー173744

セナ君とラファ君に制服が届きました。

数日で起き上がれると思っていたアルドリーの体調は全く良くならず、その上、元々食べられるものが少なく、拒食症に近い状態のため、点滴をして休ませている。
熱は微熱よりも高い、微妙に体にじわじわとくるため、アルドリーは珍しく、

蒼記あおき‼しんどい、辛い……だるい……」

と、弟に訴え、

「ハイハイ、よしよし。薬が効いてくるから、寝てなよ」
「寝てたら、アレク父さんがぁぁ‼」

半泣きになる。
実は前の日眠っていたところ、気配を感じ目を開けると、実父のドアップに何時にもなく動揺し、叫んだアルドリーである。
その後は、後宮騎士団のメンバーが交代で護衛兼看病をしている。

ちなみにフィアは、婚約する六槻むつきも、その両親のシエラも清泉いずみも、寝込んでしまったため、看病しているらしい。
それと、祖父の清影せいえいは過労死寸前と、ドクターストップがかかり、隔離入院されているらしい。
それを教えてくれたのは……。

「おい、アルドリー?どうだ?」
「あ、アルス先生……この通りです」

うろ覚えだが、主治医のアルスである。
後宮騎士団にいてもおかしくないような長身で、筋肉もほどよくついた細身。
その上顔は、アーサーにして、

幸矢こうやに匹敵するほど、美形‼カイ兄さんも美形だけど、柔和な美男。アルス先生は、男が羨む美形!良いなぁ……」

と言わしめた程である。

「大丈夫か?高熱が出て、スッと下がると楽なんだが、その程度の熱が長く続くと体力がな……」
「でも、さっきよりかは楽です」
「それならいいが。おーい、ちびっこ」
「それやめてくださいよ、先生‼アーサーか、蒼記って言う名前があるんです‼」

アーサーは頬を膨らませる。
と、奇妙な顔で、

「いやぁ……アーサーは微妙でなぁ……いや、知人に、その名前がいて……」

と呟く。

「へぇ……アーサーってポピュラーなんだ?」
「いや、そうでもない。ファーストネームにアーサーは、28代王に敬意を表して、付けられなかった。セカンドネームはある」
「えぇ?じゃぁ僕は?」
「と言うか、アヴィが、お前たちの名前を付けたから。アレクは、セリカがつけたんだ」
「へぇぇぇ~‼」

アーサーは驚く。

「でも、あれ?よく、グランディアでもあったんだけど、『実名敬避俗じつめいけいひぞく』って言って、名前を避けたりしないの?偉い王さまなんでしょ?アーサー陛下は」
「はぁ?そんなに偉いのか?」
「だって、アレクサンダー一世陛下の治世を引き継いで、より良くしていったんでしょ?」
「と言うか……マガタ公爵や、カズール伯爵、マルムスティーン侯爵、他にも年上の戦場を駆け巡った、おっさん……いや、お歴々がいるだろうが。そんなのに叱咤激励って言うよりも、重箱の隅をつつかれてつつかれて……」
「えぇ?マガタ公爵閣下が?お父上でしょう?」
「公爵は普通に、仕事して~先代陛下が迷子になるから捕まえに行って、拗ねるから、おやつ作り~食べさせてる間に執務して、暇をもて余した先代陛下が、『ドルフ~‼遊びにいこ?』って駄々をこねてたって聞いたぞ、そこのヴァーロに」

ヴァーロを示す。

ヴァーロとは、ヴァーソロミュー。
王太子アルドリーの後宮騎士団長である。

そして、1800年ほど前の、アレクサンダー一世とドルフ卿の『長男』。
戸籍上には、長男はヴァーロ、次男で跡取りがアーサー・ラディーン王子となっている。
年齢的にも、ヴァーロの生年月日がアーサー陛下よりも年長となっている。

しかし、生物学上は人間ではなく、ドラゴン属。
そして、ただ1頭しかいない絶滅危惧種、カラードラゴン亜種ブルードラゴンである。

他のレッド、ホワイト、ブラックのある程度の寿命や、気性、性格、すむ地域に攻撃力等は研究されており、大体の寿命がマルムスティーン侯爵家の長命な寿命よりもわずかに長い事と、ホワイトドラゴンが、3種のなかでは体が大きく、温和。
レッドドラゴンは気性が激しく、縄張り意識が強い。
ブラックドラゴンは女系の家族が共に暮らし、他の二つのドラゴンは、子守り竜に子供を預けるが、女系親族のなかで育てられる。
ここまでは、研究されているが、ブルードラゴンの研究については、全くと言って進まない。
何故なら……。

「だって、私。生まれたときには親も、一族も絶滅してたんだよ。残ってたのはもうひとつの卵だけだよ?」

あっさりとヴァーロは答えてくれたと、研究者の一人であった、シルゥは嘆いた。

「記憶ないの?って聞いたら、『目を開けたら、愕然とする父と、「やっぱり~‼ボールじゃなかったんだ~‼これなに?食べれるの?」ってワクワクしてる母だよ?母が丸焼き~って私をつれていくのを止めてくれて、それからも、食べる食べるって隙を狙ってる母から私を守るために、抱っこにおんぶに……』って、アレクサンダー一世陛下、ドラゴンは食べたらいけません‼って、ご両親は教えなかったの‼」
「いや、教えても、解らなかったと思うんだけど……」

ヴァーロは首をすくめる。

「父がめって叱ったら、『食べちゃいけないんなら、遊んでいいよね⁉わーい‼』って、投げ飛ばされて、毛玉だったから、飛べなくて、丁度ナムグで飛んでたおばあ様が捕まえてくれて、『ヴァーロは赤ちゃんです‼よちよちあるきから走り回って飛び回れたら、投げてよし‼』になったんだよ」

と言い切ってくれたヴァーロに、アレクサンダー一世の血は、父にだけ継いでいて欲しいと願ったアルドリーとアーサーである。

「あ、そう言えば、ウェイト兄さんが、連れてきたよ~‼って、言ってたけど。あ、きたきた」

扉が開き、ウェイトが、

「失礼いたします」

と言いつつ、小さなミニチュアの騎士の正装を着た二人の子供の手を引いて現れる。

「うっわぁぁ‼か、可愛い~‼格好いいけど、可愛いよ‼幸矢、見て‼」
「ホントだ。似合ってる‼あ、でも、セナは少しシンプルそうで、布地が銀の糸の刺繍が入ってる。ラファは、リボンで所々かわいく見えてるけど、そこって引っ掛かっちゃうんだよね。わぁ、やっぱり、ウェイト兄さんが手を加えたの?」
「あ、セナのはそうですけど、ラファはファーが。ファーが、初めて家で揃えた衣装以外で配給された制服が合わなくて、良く引っかけて転んでたそうです。それで、ラファを心配して。ラファは最初不満そうだったんですが、『可愛らしく見えても、失敗しない方法がいいでしょう?ファーママが考えたの、嫌?』って言われたんだよな?ラファは」

伯父に問いかけられ、少し照れ隠しなのか頬を膨らませ、

「俺……私は、女の子じゃないもん‼ウェイトパパみたいな格好いい騎士になるんだもん‼」
「えぇ?そのリボン、女の子っぽくないよ?逆に斬新で、僕もそういうのも着てみたい気がするんだけど?」

アーサーは、兄弟一の芸術的なものに敏感である。

「そこのリボンはほら、ウェイトパパとお揃いでしょ?騎士のあかし。それに、そこのリボンは花柄だけど小さくて、逆に、レディのお姉さんに貰ったんだって言えば、羨ましがられるよ?」
「あ、その花柄、俺の紋章だ、ホラホラ」

アルドリーが幼いときから持たされている指輪を示す。

「ヴィルナ・チェニアの花。それを着けてるってことは、俺の……お兄ちゃんの騎士だね?」
「え、あ、そうなの?パパ?」
「そうそう。ラファはパパが後見人だからね」
「え、そうなんだ‼じゃぁ、セナは?」

幼馴染みをみる。

「カイが後見人で、セナも同じ。ほら、あの銀の刺繍は、同じ花柄だ」
「そうだったんだ‼セナのも格好いいなって、思ったけど……ファーママが選んでくれたし、幸矢お兄ちゃんと、蒼記お兄ちゃんが誉めてくれたから……うれしいです」
「僕は、お父さんと同じかと思ってました……」
「と言うか、セナもラファも一緒に勉強して、剣を習うんだし、一緒の方がいいって言ってたんだ。リオンも、まだ上司も同僚もいない中を動くから、セナも連れていくなんてと言ってた」

二人の頭を撫でると、

「制服のお披露目も出来たし、どうする?」
「お兄ちゃん達とお話ししたいです‼」
「僕も‼今度元気になったら清影おじいちゃんに昔話を聞かせてもらえるんです‼お兄ちゃん達にも聞きたいです‼」
「良いなぁ……セナは。私もお願い……」

3才の子の無意識のおねだりに、アーサーは、

「よーし‼お兄ちゃん達が、じい様……おじいちゃんにお願いしておくからね。あ、そだ‼幸矢、あれ、あれある?」
「あれ?あぁ、あの石?」

ベッドから動けないアルドリーが示した引き出しを開けると、ごそごそとして、

「あった‼はい、セナは翡翠ひすい。ラファは水晶すいしょう。グランディアの石だよ。きちんと聖なる水で浄めた石で、これは、どちらも聖石と呼ばれているんだ。翡翠はグリーンの強い石でしょ?」

渡された石を見つめる。
吸い込まれそうに美しい。
でも、ドーナツ形というのは、どういう事か?
穴から覗くセナに、クスクスとアーサーは、手を差し出す。
素直に渡すと、器用に持っていたらしい紐で、穴に通したひもをぶら下げた状態で編み込むと、手招きし、セナのベルトに吊るした。

「これはね、最近の石じゃないの。本当に昔に彫られて加工されて作られた石で、じい様……おじいちゃんのコレクションの品物。幸矢が貰ったんだ。でも、幸矢は、いろいろな石を持っていて、この石を大事にしてくれる子を探していたんだよ。佩玉はいぎょくって言って、昔の異国の人が身に付けていた物なんだって。こうやって、ぶら下げて飾っていたみたいだよ」
「えぇぇ‼そんな宝物、良いんですか?」
「うん。大事にしてね?セナ」

アルドリーは微笑むと、不思議そうに水晶を見つめるラファに、

「それは、勾玉まがたまと言って、グランディアの聖なる位につく人が身に帯びていたんだよ。今は良くわからないだろうけど、その形も意味があって、これは、たましいを形作った物とも、グランディアにいる神様の一部が込められていると言われているんだ。水晶は、昔、聖なる水が固まって生まれたと言われる伝説もあるんだ。清らかな水がラファに悪意を抱く何かから守ってくれるよ」

アーサーが、こちらも紐で吊るし、首にかける。

「二人とも良く似合うよ?格好いい騎士だね」

その言葉に二人は顔を見合わせ、照れる。

「これからよろしくね?二人とも」
「はい‼」

大きくうなずいた二人だった。

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