竜と王と剣と盾

ノベルバユーザー173744

アルドリーは、最強であり病弱でもあります(それじゃぁダメじゃん!?)

 六槻むつきは、にこにこと歩くが、急に立ち止まり、不安げにアーサーを見る。

「あーちゃん…龍ちゃんの滝…どうやっていくの?」
「は!?」

 フィアとヴィクトローレはぎょっとするが、アーサーはあっさりと、

「あれー?六槻、道遠回りしてるんだと思ってたんだけど…迷ってたの?」
「むーちゃん…道、知らないの。何時もあーちゃんか、せーちゃんに連れてきて貰うから…どっちいくの?どうしよう…」

 顔を歪める六槻に、アーサーは腕を引っ張り、

「泣かなくても大丈夫だよ?こっちだから。もう少しでつくよ」
「本当?」
「本当。あーちゃんに任せなさい」

 にっこりと笑ったアーサーは、すぐそばにあったトゲのある樹の茂みの中に飛び込む。

「はあぁぁぁ!?」

 叫ぶフィアに、再びこちらに首を出したアーサーは、

「大丈夫だよ?ちょっと切れるだけだし。それに、これ、たちばなって言う、不老長寿の妙薬って言われてる聖木だよ!!」
「聖木をバキバキ折りながら言わない!!」

 ヴィクトローレは叫ぶ。

「聖木なら大事に…」
「だって、そんなこと言ってたら全部手を出せないよ?この森、聖木だらけだもん。僕たちは木登りしたり、木の実を取ったり、枯れ葉とか枯れ枝を取って火をおこしたり…僕たちの森だもん。斬ったり、わざと傷つけたりしてるわけじゃないから、良いんだよ」
「でも刺々(とげとげ)は痛いし良くないでしょ!!しかも、六槻ちゃんはどうするの!?」
「んと…んと…突っ込むの!!」

 返事をした少女に、フィアは慌てて、

「や、やめて!!お願いします!!六槻ちゃんの可愛い顔や手足に切り傷…絶対に嫌だし、駄目!!」
「龍ちゃん会えないよ?」
「あ、会いたいけど、六槻ちゃんの怪我の方がもっと駄目!!」
「あのね…フィア?」

 後ろで呆れた声を出すヴィクトローレ。

「飛び越えればいいんじゃないの?フィアなら六槻抱っこして、即飛べるよ?」
「あ、そうか!!」

 フィアは、一言二言言葉を呟くと、六槻を抱き締めフワッと飛び越える。
 その後ろからヴィクトローレも飛び越え、アーサーを追い歩くと、余り時を置かずに森が開け、小さいが見事な滝が現れる。
 清廉とした空気のなか、静かに佇む滝と澄んだ水をたたえた水面に近づくヴィクトローレは、

「…ここ?」
「そうなの。おじちゃま」

 六槻はトコトコ近づくと、

深水流みつるちゃん!!」

と、声をかける…と、ボコボコと水面に泡がたち、次の瞬間!!

『ひ、ひ、姫様!!』

 飛び出してきたのは…、

「蛇?」
「蛇だよね?」

 フィアとヴィクトローレは顔を見合わせる。

『失敬な!!我は、水神の深水流じゃ!!そこいらの蛇と、一緒にするでない!!』
「だって、小さいし…さっき見た、蛇の方が…」
『あやつは、白蛇じゃ!!あれも神の眷族じゃが、我と格が違うわい!!一緒にするな!!この爪に頭部の角、たてがみにこの高貴な姿を!!』

 空中を舞うのは、青みがかった小さな蛇、良く見ると角とたてがみ、四つ足には、4本の爪…。

「4本の爪って事は、龍王の部下ってことだよね?」

 グランディアの歴史伝承を学び、研究し論文を幾つも出し、本まで出版しているフィアは呟く。

『そうじゃぞ!!我は龍王の部下。この滝を任されておるのじゃ。あがめ、たてまつれ!!』
「何も出来ないのに威張るな!!」

 突然の声と共に、石が飛び、現れたのはアルドリーである。

『ひ、ひぃぃぃ!?』

 早足で近づいてきたアルドリーは、龍を鷲掴わしづかみ、

「いい加減に、反省したか!?でなければ…」
『ひぃぃぃ!?ご、いえ、申し訳ございません!!幸矢こうや様!!は、反省しております!!もう、もう二度と…いたしません!!ですから、これ以上…!!』

 怯えたように、訴えるちび龍に、

「フィア兄さんたちは、俺の大事な人だからな!!もし、馬鹿にしたり、罵詈雑言ばりぞうごんに攻撃なんてしようものなら…」
『ひぃぃぃ!!そ、そんなことは二度と…』
「もう、すでに2回やってるだろう?」

 アルドリーは、顔を近づける。

「ねぇ…アーサー…あれ、何?」

 ヴィクトローレの問いかけに、アーサーは、

「ん?あぁ、あの龍。元々物凄く暴れ龍で、昔から清水として御祓みそぎ…神職の人が身を清める為に使われていたこの淵に、いつの間にか住み着いてて、水をみに来る巫女や禰宜ねぎを脅かして追い払ったり、水を汲むなら財宝や捧げ物を出せ…とかやりたい放題。じい様はほったらかしてたけど、おばあ様はうりゃぁ!!って尻尾をつかんで振り回して、そこの崖に叩きつけて、シエラ父さんは蹴り飛ばして、最後に…」
「アルドリーに喧嘩を売ったの!?」
「う~ん…そんなものかな?暑い日に暑さを避けるためにここに遊びに来てたら、足を浸けてたあやちゃんとヨチヨチ歩き出した日向夏ひゅうかを水に引きずり込もうとして…幸矢が激怒して、で、もう、この辺りボロボロ…で、この空間の最高神の風の女神様が、兄弟の水の神の龍王を呼び出して…」

 シルゥとヴィクトローレは遠い目をするが、フィアは、

「えぇぇ!!見えるの!?見えるの!?女神様!!」
「僕は無理。六槻とさーやと綾ちゃん…位?父さんとじい様と大じい様は、迷惑そうな顔で龍王様を見てたから見えてたと思う。彗は気配感じるけど、無理って言ってた」

 呑気にアーサーは告げる。

「で、あれは…」
「幸矢が食って掛かって、龍王が真っ青な鱗がますます青ざめて、謝罪。そして監視する。って言ったけれど、幸矢は拒否。今までほったらかしにしておいたのに、今さら信じられるか!!って、で、やり取りをして、力を奪って、子供の龍にして、で六槻のペットになっちゃった」
「ペット…」

 神の眷族をペットにできるのか!?
 3人は青ざめる。

「でも、小さくなっても、家でも暴れまわって、食器とか壊すし、月歩つきほを追いかけ回して、池に落としたり…で、幸矢が龍王にこいって呼び出して…ぼっこぼこ?」
「か、神の眷族…」
「そんなの関係ないし。で、最終的には押し込められたと」

 示されたのは、水のなかにある水晶球…。

「六槻が呼ぶ以外は出て来られないようになってるの。あの水晶球を持っていればどこでも連れて行けるよ。六槻?あの子連れていくの?」
「うん!!深水流ちゃんも行こうね?」
「俺は、反対したいけど…まぁ、ボディーガード位出来るだろうし…。戻れ」

 アルドリーは龍を解放する。

『ひぃぃぃ、すみませんでした!!』

 深水流は水晶球の中に逃げ帰る。
 六槻は手を伸ばし、水晶球を取ろうとして…、

「きゃぁ!!」

 ぐらっとよろけた六槻が水に落ち、慌ててアルドリーが六槻を抱き上げる。

「早く帰って…」
「待ちなさい」

 慌てて駆け寄ったヴィクトローレは、指を動かす…とアルドリーと六槻の体や衣服から水気を飛ばした。

「ありがとう!!伯父上。俺は良いけど、六槻が熱を出したら大変だから…」
「それより、アル。その頬は何?紅潮してるけど?」
「ん?熱はないよ!!」

 その返事に、ヴィクトローレはにっこりと、

「アル?私は、頬が赤いとは言ったけれど、熱なんて一言も言ってないよ?」
「あっ…」

 ばつの悪そうな表情で、伯父を見る。

「アルは昔からすぐに熱を出すんだから、戻って寝なさい」
「はい…」

 アルドリーの腕から六槻を抱き取ったフィアは、ヴィクトローレと家に戻る3人を追いかけるのだった。

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