竜と王と剣と盾

ノベルバユーザー173744

王太子殿下の側近になる青年達です。

【フィアちゃんの場合】

フィアちゃんは、シェールドでも三家と呼ばれる長い歴史を持つ一族の一つ、マルムスティーン侯爵シルベスター・シャレル卿の第二子で、長男である。

フィアちゃんとは愛称でリュシオン・フィルティリーアが、本名だったりする。

普通ファーストネームから、リューとかシオンが愛称になるが、養父の先代カズール伯爵も同じリュシオンであり、通称がリューだったため、セカンドネームからフィア、フィアちゃんと呼ばれている。

普段は、無表情に言葉も少ない……のだが、剣を握ると性格が一変する。

「おらぁ!!てめぇらそれでも、6つの騎士団でも、最も地位の高いカズール領騎士団の一員か!!アホんだらぁ!!ここが安全なのはてめぇらの力とか思うんじゃねぇぞ!?あぁん?この地が平穏なのは、西に迷いの原と、東に竜河、南に渓谷に北が風の鳥平原に囲まれていると理解しろ!!おらぁ!!」

次の聖騎士候補の恐ろしさは国中に知れ渡っている。
と言うよりも、小柄で、父親に瓜二つの美少女顔だが、とてつもなく破壊魔神である。
自分の美貌がとてつもなくコンプレックスなのだが、逆にそのコンプレックスを生かし、15才から18才までの間、カズール伯爵直属の危険任務部隊の一人として所属して、幾つもの組織を壊滅に追いやった裏の世界では賞金首である。

が、元々は7才から国内最高峰の国立大学院にストレートで入学し、5年間で20の学位を取得している。
12才で7つの学位の教授の地位を持ち、13才から二年間騎士の館で、騎士としてのマナーや基礎的なことを学び、その間に術師の勉強を進め、資格を持った。

この大国でも一二を争うエリート中のエリートである。

ちなみに6才の時に、先代国王陛下アヴェラートの直々の命令で、まだ当時生まれていなかった次の王太子アルドリーの側近となるように決められた。

「解っているか!!国王陛下は、放置で結構!!我らはエージャ……カズール伯爵閣下と、王太子殿下を初めとする方々をお守りする役目がある!!判ってるか!!おら!!へばっている暇があるか!!腕立て伏せ!!100回!!」
「は、はい……」
「返事が小さい!!」
「はい!!」

フィアちゃんのこの裏の顔を、六槻むつきちゃんは知らない。



【ウェイト兄ちゃんの場合】

丸い大きな緑色の瞳とフワフワの金髪の、フィアちゃんと競るほどの美少女で、物腰が優雅な通称『王子さま』が、南の騎士団『ファルト男爵領騎士団』団長のウェイトこと、ウィリアム・ロズアルド。
彼は、フィアちゃんの遠縁である。
父親同士が又従兄弟になり、マルムスティーン侯爵家の有力な分家筋になる。
フィアちゃんとは6才違いで、実の兄弟のように仲良しである。

「ほら、これこれ、これをこうやって……」

王子の趣味は、7年前に結婚した奥方アルファーナ・リリーの着せ替えと、奥方とお出掛けである。
騎士団でも有名な愛妻家で、妻のためなら『何でもやる!!』と公言する彼は、母と4人の姉がデザイナーであり、自分自身も妻のドレスコードのデザインを行うために、長期休暇には実家に帰り、一日ドレスや、帽子、ヒール、可愛い可愛いフリル、レース、ギャザー、刺繍まみれの部屋に、妻と母、姉たちと籠る。

「うーん……姉上、このリボンは変だよ」
「あらそうかしら?」
「うん、変。ファーにはもうちょっと優しい色がいいなぁ」

にっこりと微笑む王子は、裏も表もほぼない。
本性は可愛い物好きで、姉4人に妹一人の長男のため、小さい頃から姉に着せ替えごっこをされていた。
父親似の姉妹達の中で一人、美少女の母に似たため父までもウェイトの女装を奨励しており、騎士の館に入るまでは長い髪を結い上げ、コルセットも締めて完璧に美少女のご令嬢として色々なパーティに出ていた。

ちなみに、ウェイトの母は位の低い男爵家の娘だったが、父親がギャンブルにお金をつぎ込み、家も土地も爵位も売ったあげく、一人娘まで売ろうとしたのを、父がすんでのところで止めた。
その時に一目惚れして、結婚したのだと言う。
反対したのは、父の借金のために売られる覚悟だった本人のみで、親族どころか国王……先代陛下アヴェラートも賛成し、

『これは素敵だ!!こんなに可愛いレディを、素敵だね。お祝いをしなくては!!』

と張り切り、国王夫妻まで立ち会いの結婚式をあげた程である。
そんな夫婦に生まれたのは長女、次女、そして双子の三女と四女、国王夫妻も長年女児しか生まれなかったが、残念がったのは、

『何で、私に似た子供ばっかりなんだ!!酷いじゃないか!!』

であり、生まれたウェイトをそれはそれは溺愛した。
妹にウィンディアと言う、こちらも騎士になった娘がいるが、ウィンも、父に似ている。

その為余計に父親はウェイトを女装させ、その美貌により惑わされ、あちらこちらから縁談が舞い込んできたが、本人はそれをさらっと流し、髪は縛り、騎士の館に入った。

8才の頃から隠れて剣の稽古を続けていたので、剣術はその学年でも一二を争う程だったが、それよりも情報収集能力に長けていること、その情報を生かす術を両親や姉たちから学んでいたウェイトは、女装してあちらこちらのパーティに出向き、情報収集を重ね、その才能を開花させていた。

しかし、剣を握れば、フィアには劣るがその次を張る才能の持ち主であり、人気もある。
まさに王子さまであるが、

「可愛いなぁ……ファーは」

妻のリボンを直しながら、にこにこと笑う。

「それに、やっぱりそのドレスは素敵だよ。母さまと姉さま達に、布とレース、仕立てに靴に宝飾を揃えて貰って良かった!!」
「そ、そうでしょうか。わ、私は……」
「これ、一応フィアに見せたら、『ファーに絶対似合う!!可愛いよ!!』って言ってたけど?」

妻に、妻の親友であり、自分の幼馴染みであるフィアの名前を出す。

「ほ、本当ですか?でも……ウィリーさまとフィアに言われるなんて」
「フィアはファーに絶対嘘つかないだろう?私と一緒」
「……と、とても、恥ずかしいです。でも、嬉しいです」

恥ずかしがる妻に、ウェイトは微笑みつつ仕事よりも嫁と着せ替えごっこがしたいなぁ……と、遠い目をする。
小さい頃からドレスにレース、リボン、お人形、フリルと、どろどろとしているもののそれなりに楽しめる女性の話を聞いて育ったウェイトは、暑苦しく筋肉に頭の中は実力、才能、顔その他もろもろも考えず、国の仕事でも花形の部類の騎士団に入って、金持ちのご令嬢の婿養子、もしくは嫁にもらうと言う底の浅い考えしかない、うざい男どもをフィア同様、叩きのめしているのだが、変な馬鹿は、女がダメなら自分やフィアに……という変態までおり、頭が痛い。

「父様に頼むか……フィアの父上は、あの侯爵だし……フィア以上に危険」
「どうしましたか?」
「何でもないよ。ファーと、デートしたいなぁと思っているところだよ。どこにいこうか?」

二人は今日もラブラブである。

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