竜と王と剣と盾

ノベルバユーザー173744

ちょっと昔、シルゥちゃんとエリーさまの出会いです。

マルムスティーン家は、実は誘拐される子供が格段に多い。
後に生まれるリュシオン・フィルティリーアもそうだが、結婚前の母エリー……現国王アレクサンダー二世の姉アールティーネ・シェイア第二王女も実に30回も誘拐未遂、もしくは深夜に寝室に侵入されかける事件がつづき、余りの多さに細かく側近や侍女、メイド、侍従を調べたところ、金に目がくらみ、導いたと言う者が次々出てきたため、13才の未成年ではあるものの、マルムスティーン家に嫁がせた。

マルムスティーン家では、警備が最高レベルに固くしていたのである。
末っ子のヴィクトローレが、第一王女アンネテア王太女と結婚していたためである。
王位継承権は持っていても、まだ妹と4才しか変わらず、夫から見てもおしゃまな女の子にしか見えず、危険があってはと警備を厳しくしていた。



幼い頃から第二王女は元々恥ずかしがりやの夢見がちの女の子で、姉が術師のヴィクトローレと結婚するからと、

「おねえしゃまが、ビクトローロおにいしゃまと結婚して女王になるのでしゅ。アールはきしになりましゅ‼」

と言い、その発言に、アンネテアもヴィクトローレも、そして特に両親が慌てた。
アールティーネは、手先は器用だが、運動音痴だったのである。
それに、後で2人生まれるのだが、王女たちの中で、一番母親セリカ・ティエンに似て、美少女だったのである。
外国に嫁がせるつもりはなく、国内でなるべく王都に近い所に住んで欲しい。
そして宮廷でも嫁ぎ先でも可愛らしく、それでいて夫を影で支える母性を育て、王位を狙うアホどもから遠ざけておきたい……。
そう思っていると、長女の婿になるヴィクトローレが、父親の当時の侯爵エドヴィンと、兄の当時のマガタ公爵ルドルフ、従兄のカズール伯爵リューを見て、

「あの、明日、王宮に登城したいと……」
「ん?誰?」
「兄のシルベスター・シャレルです。19才ですが、今度騎士の館に入学するのでご挨拶を、と」
「えっ?元気になったの‼良かった」

アヴェラートはホッとする。
シルベスターは生後3月で誘拐され、6才の時に取り戻したのだが、再び誘拐されてはと、アヴェラートも知らぬ場所で成長した。
先月、エドヴィンの妻セラヴィナが亡くなる前に帰ってきたのだが、体調を崩し寝付いていたため会えずじまいだったのである。

「アールティーネ?明日、シルゥお兄ちゃんが会いに来るよ?もし、アールティーネが大好きになったら、アールティーネの騎士になって貰おうね?だから、騎士にならずに、騎士に守られるお姫様になるんだよ?」
「アールのきしのおにいしゃま?うれしいでしゅ‼」



ワクワクと翌日を待ったアールティーネが、謁見の間で会うことになった、マルムスティーン侯爵の嫡子を見て、ぽぉぉぉ……と頬を赤らめ、姉のスカートにしがみつく。
19といっていたが、本当にその年齢は偽りではないかと思うほど、顔立ちは美貌の母と父に競るほど美しい美少女。
長いストレートの髪は、エドヴィンと同じ。
瞳は明るいライトグリーン、顔立ちは大きな丸い瞳は長いまつげにおおわれ、鼻筋はスッとしているが彫りは深くなく、愛らしい童顔である。
ニッコリと微笑む顔は、本当にマルムスティーン家の正装、漆黒のフードつきマントよりも、カズールのリューのように純白の姿が似合う……。
丁寧な挨拶をしたシルベスターは、優雅で美しい。

「あのお兄様。古風なでも優雅な身のこなしね」

7才のアンネテアは呟く。

「古風?」
「えぇ。昔の儀礼にはそれぞれしぐさが違っていたのですって。最近は略式の挨拶をすることが多いけれど、お兄様は本当に綺麗なお顔だけでなく、仕草が優雅で、受け答えもそつがないわ。でも、本当に19才で男性とは思えない美しさね」
「19しゃい……でしゅか?でも、かっこいいでしゅ‼」

その一言が周囲に広がる。
周囲が可愛らしさに微笑むが、アールティーネは、大声をあげ、周囲の注目を浴びてしまったことに頬を赤くする。

「ご、ごめんなしゃい……」

半泣きになり姉のスカートの後ろに逃げ込もうとしたとき、スッと近づいてきて、膝をつく19才には見えない少年。
左胸に右手を当てて頭を下げる。

「いいえ、姫様。ありがとうございます。そして、はじめてお目にかかります。マルムスティーン侯爵エドヴィン・ローウェルの次男、シルベスター・シャレルと申します。第一王女アンネテア殿下、第二王女アールティーネ殿下でございますね?」

顔をあげ、ニコッと笑うシルゥに、両親と妹の美貌になれているアンネテアも、そして、膝をついて第二王女の自分に騎士の挨拶をする事に驚き、そして嬉しくて堪らないアールティーネは頬を赤くした。

「は、初めてお目にかかります。シルベスター卿。私はアンネテアと申します。年は7才です」
「は、はじめましゅて、し、シルベスターおにい、……えっと、卿。わたくちは、アーユティーネとい、もうしゅましゅ……えと、えと……お、おねえしゃま、ごあいしゃつわしゅれましゅた‼」

ふえぇぇ……

半泣きのアールティーネに、首をかしげ、

「ごあいさつ、ちゃんとできてますよ?アールティーネ様。あ、お年はおいくつでしたっけ?緊張して、聞き取れませんでした。教えてくださいますか?」
「……しゃ、3しゃいでしゅ」
「3才ですね?アンネテア様もアールティーネ様も、お若いのにこんなにお上手に挨拶ができるなんて、賢いですね。さすが、陛下も妃殿下がご自慢になされている王女殿下方ですね」

アールティーネは、ぱぁぁと嬉しそうな顔になる。
いつもいつも、口ごもったり、舌ったらずを指摘されたり、今回のように忘れるかで笑われていたため自信を失っていた幼女は、いつもギュッと掴んでいた姉のスカートから手を放し、トコトコと少年に近づくと、ほおにチュッとキスをする。
すると照れたように、シルベスターも頬を赤くして、アールティーネの手をとると、唇を落とす。

「とても嬉しいです。ありがとうございます」

微笑む幼くとも美しい王女とこちらも美貌の騎士の姿に、周囲は感嘆のため息を漏らした。
ちなみにそれは、アールティーネの両親も、シルベスターの家族も言葉もない。

「シユウおにいしゃま、あのね‼あのね‼ワーロおにいしゃまがあしょんでくれるのよ?」
「ワー……ヴァーソロミュー様ですか?仲良しなんですね。アンネテア様もですか?」
「アール……アールティーネ程じゃないの……」
「でも、凄いですね?じゃぁ、アンネテアさまとアールティーネ様のお友だちの僕が、ヴァーソロミュー様にお会いしに行っても大丈夫ですか?」

首をかしげるシルベスターに、アールティーネは、

「おとうしゃま‼おにいしゃまにワーロおにいしゃまとごあいしゃつ、め?でしゅか?」
「あ、いいよ。行っておいで。アンネテアも一緒にね?」
「はい、お父様。では、行ってきます」

アールティーネの手をひこうとしたアンネテアの手に、大きなごつごつした手が握られた。

「手……ごつごつしてますね。剣のタコ?」
「あ、うん。6才から剣の稽古のためにりゅうがくしていたの……あ、していましたので……」

アンネテアは、クスッと笑い、

「シルベスターお兄様は、私の将来のお兄様になるのですから、敬語は止めてください。私はアン、アールティーネはアールで構いません」
「じゃぁ、アンも敬語はやめてね?それに、アールもアンも、僕のことはシルゥって呼んでね?」
「しゆうしゃま?」
「シルゥお兄ちゃんで良いんだよ?アール」

ニコッと笑う。

「僕の名前のシルベスターは、本当の名前じゃないんだ。生まれたときにお祖父様が、なにかが起こるかもって本名を隠しちゃったの。昔、このアシエル上にいたグランディアの民には、言葉を操る人がいたんだって。本名は本人の本質。隠しておかなければいけないって、通称が用いられるのが習わしで、僕も、アンやアールもその血を引いているからね」
「あぁ、そうなんですね……」

7才ながら帝王学を学んでいるアンネテアは、何度か聞いた話に頷くが、アールは、

「うーん……わかんにゃい」
「えっと……じゃぁ」

シルベスターはしゃがみこみ、二人の王女に笑いかける。

「じゃぁ、アンも聞いていてね?アールに僕がお名前を贈るから……このお名前は特別な名前。グランディアの人々が信仰する風の女神アーヤ・シールにお願いして、この名前はアールの本質。アールは、このお名前を特別な人以外には教えてはいけないよ?いいかな?」
「あい‼」

シルベスターは、握っていたアールティーネの手の甲を自分の額に押し当て、囁く。

清野さやのの女神、彰代あやしろに、この姫の長き道のりの安寧を願い奉る。そして、姫の本質を覆い隠すべき為の、いみなをあたえたまえ』

そう告げたシルベスターが、顔をあげ静かに告げる。

『貴女の名は【旅人の花】の姫。もしくは【ともしび】の姫。これからの困難苦難は、貴女の心を傷つけるでしょう。しかし、未来への道を指し示す深紅の花を咲かせるかてとなる……この事を心に秘めて、日々をいきられますように……』

囁いた声が、そっと途切れた瞬間、シルベスターの体が揺れた、はっとする二人の前で、華奢な騎士の卵を抱える長身の青年。

「又無茶をするんだから、この子は‼」
「ヴァーロお兄様!」
「ワーロおにいしゃま‼」
「はい、姫様たちもだっこで行きますよ。もう、人混み苦手で逃げ出したシルゥは大丈夫ですよ」

長身の後宮騎士団長ヴァーソロミューは、二人の王女にウインクをする。

後宮騎士団とは、国王一家を守るために、代々の団長が騎士団の総帥カズール伯爵に直談判し、有能な騎士を引き抜いて結成した騎士団である。
その騎士団に選抜されるテストは厳しく、いくつもの難関をクリアして選ばれる為、後宮騎士団に入団できる騎士は白騎士団長になり、この国の騎士の最高位、聖騎士になれる。
聖騎士になると、総帥カズール伯爵の次の発言権を持ち、その権限は五爵ごしゃくに次ぐとされる。
現在の聖騎士は、ヴァーソロミューとマルムスティーン侯爵エドヴィン、その長男でマガタ公爵ルドルフ、エドヴィンの弟の息子でカズール伯爵リュシオン・エルドヴァーンの4人である。
後宮騎士団には、ロイド公爵家次期当主グランドール他数名がいる。

「はい。アン。扉を開けてくれる?」

後宮騎士団長は国王一家の守護者であり、幼い王子、王女達の養育係でもある。

「はい、ヴァーロお兄様」

アンネテアは手を伸ばしてノブを回し、ヴァーソロミューがその体躯を生かして押し開くとソファに王女たちを座らせ、反対のソファにシルベスターを寝かせる。

「アン?アールと一緒に父上の夜着の替えと毛布を。人混みに酔って、汗をかいてるから着替えをさせたいんだ。お兄ちゃんは、まず薬を飲ませるからね?」
「は、はい‼アール手伝って」
「あい‼」

たたたっと走り去る。

「全く……調子が良くなってる……訳はないじゃないか……アヴィもアヴィだ‼あんな広間ではなく、応接間程度で良かったのに‼」

舌打ちする。
真っ青な顔になり、震えているシルベスターを抱え、シルベスターの衣に入っていた薬入れを開け中身を口に含ませると、側のティセットから湯冷まし程度に冷ましたお茶を流し込む。

「シルゥ……シルゥ、だから無茶はダメだって言ったでしょうが‼」
「……アール……アールティーネ、ひ、めに……将来……き、危険が及ぶって……夢を……姫に、何か、遭ったら……あったら……助けてあげないと、た、たた……はぁ、はぁ……」

息が荒れる。
胸を押さえるシルベスターに、優しく、

「シルゥ、落ち着いて、大丈夫。ほら」
「姫に……姫を、守らないと……」
「大丈夫、安心して……」

トントンと背中を叩き、落ち着かせる。

と、扉が開き、

「ヴァーロお兄様。グランお兄様が来てくださいました‼」

荷物を抱え入ってくるのは、がっしりとした無口な青年。
ちなみに先日、国王アヴェラートの双子の姉アリシア・ルイーゼマリアと結婚したばかりである。

「団長。毛布と服と、タオルをお持ちしました。着替えは……」
「私がするから、少し、姫様たちをお願いね?」
「はい。姫様。男の人の着替えを覗くのはレディーとしてはしたないですよ」

そう言って遠ざけようとすると、無邪気なアールティーネは、

「アリシアおねえしゃまはよくおとうしゃまのお部屋に入ってたのに?」

その一言に、言葉を失う。
妻は、双子の弟ともその妻であるセリカ・ティエンとも幼いときからの仲良しで、いくら止めても止まらない、飛び出したら一直線のアーチェリーの矢も同然である。
その上、

「駄目よ?アール。アリシア御姉様、グランお兄様の事も、『着替えも小さい頃から見てきたから大丈夫よ~‼いくらでも見てやってちょうだい。贅肉ついてたら滅多うちのつもりだから‼指摘してちょうだいね‼』って言ってたもの。お父様が、『言うことを聞いちゃダメ。ちゃんとレディーらしく』って言ってたでしょう?」

アンネテアの一言も、あまり慰めにならない。
背後からの、

「グラン。早く行って。シルゥが落ち着いたら呼ぶから」

の声に、

「は……はい……」

しか返せなかったのだった。

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